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私はようやく確信した。この、夢見が先鹿鳴館行きの登山鉄道は、都市伝説通りの禁足地なのだろう。
冥界への扉を、私は開けてしまったのだ。
車窓の景色もVRではなく、異空間を高速で移動しているのだ。
では、帰還する方法はあるのだろうか?
否、元々消えるつもりでいたのだから、野暮な推測はやめておこう。
私は、心地のよい振動に身を任せながら、ドア上部の液晶モニターをぼんやりと眺めた。
きのこのお化けや、マシュマロの妖精が漂う大海原を、絢爛豪華な大型客船が突き進んでゆく。
デッキで見つめ合う男女は、唇を交わす寸前でカモメと衝突し、唐突にクレジットが入る。
「三途の川のクルーズには、にこやか損保の海上保険!全ての安心をあなたに!」
私の頭は混乱したが、あまり深くは考えないことにした。
車窓の景色は雪山へと移り行く。
巨大な雪だるまや、コテージにともる灯りを過ぎて、登山電車はトンネルへと入って行く。
「次は停留所3番、ホームとの隙間がありますので、お足元にお気をつけください。傘の忘れものが多くなっています。降車の際にはお手荷物を今一度、お確かめください。次は、停留所3番です。
特別な日や、頑張った自分へのご褒美に、白いブランコのフルーツケーキはいかがですか?定番のショートケーキから、桃のタルト、名物のフランボワーズマーガレットまで、きっと満足頂けます!白いブランコは、停留所3番を降りてすぐ、是非ご賞味ください!」
私はふらふらと立ち上がって、ドアが開くのを待った。
白いブランコ前の交差点で、ママは車にはねられて死んだ。
その日は、私の誕生日だった。