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皐月渚視点_
事件の解決から数日後。世間では「連続少女誘拐事件、容疑者をスピード逮捕! 監禁されていた少女二人も無事保護」というニュースが大々的に報じられていた。
救出された女の子たちが無事だったとニュースで聞いたとき、私は自分の部屋で深く、深く息を吐き出した。右手に残っていたあの冷たくて痛い記憶の余韻が、ようやく少しだけ和らいだ気がした。
だけど、学校という場所は相変わらず平和で、呑気で、そして少しだけ厄介だ。
「……渚ちゃん」
昼休み。お弁当箱の蓋を開けた瞬間に、莉子ちゃんたち女子グループが私の席を取り囲んだ。
「なに?」
卵焼きを口に運びながら見上げると、莉子ちゃんは涙目になりながら私の両手をガシッと握りしめてきた。
「聞いたよ……! ニュース見た……! あの近所の事件の容疑者、渚ちゃんが『警察のおじさん』と一緒にいたあの地区で捕まったんでしょ!?」
「あー……まあ、うん。あのへん行ってたね」
「やっぱり渚ちゃん、警察のお手伝い(?)で事件の捜査に協力させられてたんだね……! 犯人、すっごく怖い男の人だったって! 渚ちゃん、怖い目にあわなかった!? ケガはないの!?」
先週までの「パパ活疑惑」はどこへやら。莉子ちゃんたちの目は今や、不憫な事件協力者に向けられる同情と尊敬でキラキラしている。極端すぎる。
「大丈夫だよ。私は車の中でポテト食べてただけだから」
「そんなわけないでしょ! ニュースで警察の人が『匿名で寄せられた決定的な手がかりが早期解決に繋がった』って言ってたもん! 絶対渚ちゃんでしょ!?」
「違う違う、私はただの女子高生だってば」
めんどくさくなってテキトーに受け流していると、教室の入り口のドアがガラリと開いた。
『おーい、渚ー! 今日は奢りかー!?』
先日の男子中学生の幽霊が、相変わらずへらへら笑いながら天井付近を泳いでいる。
(……静かにしなさい)
私がジト目で睨みつけると、幽霊は『ひっ!』と短く叫んで黒板消しの陰へ隠れた。
「……あ、また渚ちゃんが空中を睨んでる……」
「やっぱり事件のショックで、まだ心が安らいで無いのかな……」
「渚ちゃん、無理しないでね! お弁当の唐揚げあげるから!」
「あ、ありがとう……?」
クラスメイトの親切によって私の机に唐揚げが一個追加された。誤解が変な方向へ進行している気もするけれど、まあ唐揚げが美味しいから良しとしよう。
◇
放課後。
大きなリュックを背負って校門を出ると、いつもの場所にいつもの黒いセダンが停まっていた。
「……チース。今日も煙草臭い。窓全開にして」
助手席のドアを開けると、運転席にはヘビースモーカーの42歳——峯岸さんが、疲れた顔で缶コーヒーを飲んでいた。そして後部座席には、ワイシャツ姿の佐藤さんがぐったりと倒れ込んでいる。
「あ、渚ちゃん……お疲れ様……」
「佐藤さん、大丈夫ですか? なんだか真っ白になってますけど」
「事件の処理と報告書の山で死にかけてるんだよ、この新人は」
峯岸さんがニヤリと笑い、タバコを灰皿に押し付けた。
「渚、あの子たちの親から……お前にってさ」
そう言って峯岸さんが差し出してきたのは、可愛らしくラッピングされた高級店の洋菓子セットだった。
「救出された二人と、亡くなったあの子のご両親からだ。『直接はお礼を言えないけれど、娘たちを救ってくれてありがとう』ってな」
「……」
私は洋菓子の箱を静かに受け取り、膝の上に置いた。
死者の記憶に触れるのは、毎回死ぬほど怖い。身が削られるような痛さと絶望が手に残る。
だけど——救われた命があって、感謝を伝えてくれる遺族がいる。
「……ねえ、峯岸さん」
「ん?」
「今日の捜査協力費、これがあるからポテトだけでいいよ」
「ほう、物分かりがいいじゃないか。じゃあファミレス行くぞ」
「あ、でもチョコパフェは別腹ね。佐藤さんの奢りで」
「えぇッ!? なんで俺なんですか渚ちゃん!?」
後部座席で佐藤さんが悲鳴をあげるのを聴きながら、車は茜色の夕焼けの中へと走り出した。
恐ろしい事件も、消えない過去の傷も、日常のノイズも全部抱えて。
私は明日もまた、この不器用なバディと一緒に「声」を聞きに行く。
前職は舞妓
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きょう
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コメント
1件
「事件は解決したけど日常は続く」っていう、このバランス感がすごくいいですね。クラスメイトの誤解と唐揚げ、幽霊のへらへら、そして峯岸さんたちとのバディものの空気感が一つのエピソードに詰まってて、読んでてじわじわ温かくなりました。あの洋菓子のシーン、グッときました。死者の記憶に触れる痛みと、救われた命の重みを両方抱えて、また明日も走り出す渚がかっこいいです。