テラーノベル
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学園生活というものは、どうしてこうも予期せぬ方向へと転がり落ちていくのだろう。放課後。夕暮れの教室。
クラスメイトの男子——確か、サッカー部の木村くんに「話がある」と呼び出された時、私はてっきりパパ活疑惑の追及か、あるいは「渚ちゃんって本当に警察の捜査協力してるの?」という好奇心満載の問診だろうと思っていた。
けれど、誰もいない教室で赤くなった顔を伏せながら彼が口にしたのは、私の想像の斜め上をいく言葉だった。
「皐月さん! ずっと……ずっと前から好きでした! 俺と付き合ってください!」
「……え?」
ポカンと口を開けてしまった私の前で、木村くんは深々と頭を下げている。
(えっ……私? クラスで空中に向かってキレたり空を睨みつけたりしてる、あの『ヤバい不思議ちゃん』の私を……?)
あまりの予想外に脳の処理が追いつかない。
彼が言うには、周りから浮いていてもブレずに我が道を行くクールな姿(※単に幽霊をシカトして省エネモードで生きているだけ)や、たまに見せる真剣な顔(※事件現場で必死に耐えている顔)に惹かれていたらしい。人間の観察眼というのは、時にものすごいフィルターがかかるらしい。
どう断るべきか。変に傷つけたくはないけれど、私は恋愛なんてしている余裕はない。両親の未練を追いかけるので精いっぱいだし、何より——
『ひょ〜〜〜ッ!! 告白だぁあ!! 青春だねぇ渚ちゃん!!』
『受けちゃいなよ! サッカー部のエースでしょ!? お似合いお似合い〜!』
教室の天井付近を泳ぎ回る男子中学生の幽霊と、いつの間にか廊下の壁から半分顔を出している地縛霊のおばあちゃんが、ノリノリでやんややんやと囃し立てている。
(……うるさい。静かにして)
心の中で激しく毒突きながら、私は小さく息を吐いた。
告白されている最中にも、こうやって霊たちの野次がリアルタイムで耳に飛び込んでくるのだ。私と付き合う男子は、実質的にこの騒々しい幽霊たちもセットで引き受けることになる。そんなの、木村くんに申し訳なさすぎる。
「……木村くん」
私が静かに声をかけると、彼は緊張した面持ちで顔を上げた。
「気持ちは、すごく嬉しい。ありがとう」
嘘じゃない。自分みたいな浮いた存在を真っ直ぐ見てくれたことは、純粋にありがたかった。
「でも……ごめんなさい。今は誰かと付き合うことはできないんだ」
「……そっか。やっぱり、あの……『警察のお手伝い』とかで忙しいから?」
莉子ちゃん経由で広まった噂を気にしているのか、木村くんは切なそうに眉を下げた。
「それもあるけど……私、どうしても叶えなきゃいけない『探しもの』があるの。それに集中したいから、誰かの気持ちに応える余裕がないんだ」
嘘は言っていない。
お父さんとお母さんの霊を探し、あの火事の真犯人に辿り着くこと。それが今の私の世界の全てだ。
木村くんは寂しそうに苦笑いしながらも、しっかりと頷いてくれた。
「……そっか。急に呼び出してごめんな。でも、言えてよかった。……捜査だか探しものだか分からないけど、無理すんなよ、皐月さん」
「うん。ありがとう」
彼が教室を出て行き、静けさが戻ってきた。
前職は舞妓
425
きょう
171
振ってしまった申し訳なさと甘酸っぱい空気の残香に、胸が少しだけチクッとする。16歳の女子高生らしい感情に浸りかけた、その時だった。
「おい渚! 遅いぞ、ポテト冷めるだろ」
ガラリと教室のドアが無造作に開いた。
廊下に立っていたのは、くたびれたスーツを着たガラ悪おじさん——峯岸さんだった。手には缶コーヒー、口には案の定火のついていない煙草。
「……ちょっと峯岸さん、勝手に学校入ってこないでって言ってるでしょ。また怪しまれる」
「校門前で待ってたが痺れ切らしたんだよ。……で? さっき廊下ですれ違ったサッカー部のガキ、真っ赤な顔して走っていったぞ。取調べでもしたのか?」
「告白されたの。振ったけど」
「……はぁ!?」
峯岸さんは目を見開き、煙草を落としそうになった。
「お前、モテるのか!? あの変人扱いされてるお前が!?」
「失礼だな! 私だって16歳の女子高生なんですけど!」
「へっ……まあな。あんな青くさいガキに、お前の背負ってる重荷が務まるわけねぇか」
峯岸さんは不器用に頭を掻くと、フンと鼻を鳴らして背を向けた。
「ほら、行くぞ。今日は佐藤の奴が現場の下調べで先に行ってる。遅れたらポテト全部食われるぞ」
「あ、ズルい! 佐藤さんポテト横取りしたら許さない!」
夕闇が迫る校舎を後にし、私たちはいつもの黒いセダンへと向かう。
告白してくれた木村くんには悪いけれど、私の隣にはすでに、この不器用でガサツで、だけど誰よりも頼もしいおじさん刑事がいる。
青春の甘酸っぱさなんて、今の私にはまだ早すぎる。
私は車に乗り込み、茜色の街へ向けて小さく息を吐き出した。
コメント
1件
第16話、読み終えました……! いやもう、告白のシーン、すごく良かったです。渚ちゃんが「自分みたいな浮いた存在を真っ直ぐ見てくれた」って思うところ、じんわりきました。でも幽霊が囃し立ててるの、笑いそうになったけど、それも彼女の日常なんだなって。 振った理由が「探しものに集中したいから」って、重みがあって切なかった。そして峯岸さん登場で一気に空気が変わる感じ、好きです。青春の甘酸っぱさより、彼女の隣にはもうあの不器用なおじさん刑事がいるんだな……って思うと、胸がぎゅっとなりました。 続き、気になります🌙