テラーノベル
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――静かな、闇の底で。
誰かの声が、遠く遠く、呼んでいた。
「……遥……梨亜ちゃん……」
留守番をしていた時
退屈そうにお菓子をつまみながら、
「何も起こらなきゃいいけどな~」と、のんきに考えていた――その時。
――ピンポーン
不意に鳴った、寮のインターフォン。
「え? 誰? こんな時間に……」
不審に思いながらも、奏太はドアを開けた。
その瞬間、ひらりと――
白い羽が、一枚。
ゆっくりと床に落ちたその羽の下に、
一枚の紙が置かれていた。
震える手で拾い上げ、奏太はそこに書かれた文字を読む。
「……『森へ来い。桜と月をなくす。』」
――桜と月。
遥と、梨亜ちゃんのことだ。
胸が、ぞくりと冷たくなる。
「まさか……!」
嫌な予感が、全身を駆け抜けた。
誰かが、ふたりを狙っている――そう直感した。
「……行かなきゃ!」
誰にも相談せず、
誰にも止められないまま、
奏太はひとり、森へと走り出した。
奥へ奥へと進むたび、空気が重く、冷たくなっていく。
(やばい……こんな場所、入っちゃいけなかったかも……)
でも、引き返せなかった。
遥と梨亜を守らなきゃ、という気持ちだけで、足を進めた。
そして――
闇の中に、それはいた。
「――なんだよ、お前……」
見たこともない、歪んだ姿の霊。
狂気のような気配が、森全体を満たしていた。
「オマエ……ジャマ……。アノカタノ、メマエニ……クチルガイイ……!」
その声を聞いた瞬間、
奏太の膝は、がくりと崩れた。
恐怖で、身体が動かない。
足が、手が、霊力が……まるで全部、凍りついたみたいだった。
「やめろ……来るな……」
必死に言葉を絞り出すけど、
霊は笑いながら、手を伸ばしてきた。
「……遥、助けて……」
気づけば声が漏れていた。
遠くで誰かに、縋るように叫んでいた。
その直後――
黒い闇が、奏太を包み、
意識が、遠ざかっていった。
「……遥……」
遠い意識の中、微かに感じる。
誰かが、自分を呼んでいる声。
温かい、優しい、声。
(来てくれたんだ……)
その安心に、
ほんの少しだけ、
奏太の頬が緩んだ。
でも心の奥底には、ひとつの疑問が残っていた。
(……あの霊、なんで俺に“アノカタ”とか言ってきたんだろ……)
まだ、何かが――
終わっていない気がする。
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