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「急すぎます!」
お風呂に入る時だって、つま先から順番にお湯を掛けなければいけない。そうでなければヒートショックだ。
「確かに急かぁ……。まぁ、家族に会わせるのは急でも、興味があったら俺の家に遊びにきなよ。共用部にあるレストランで食事をしてもいいし」
そうだ……。そうだった。
下手をすれば篠宮さんよりお金持ちな彼が住むマンションなら、敷地内にお洒落なカフェやレストラン、プールにジムがあってもおかしくない。セレブめ!
「あと、三十歳の妹もいるし二十八歳の弟もいるね」
家族構成を聞くと、やっぱり年齢が私より高めだ。
「……ロリコン?」
色んなものを取っ払ってそう言うと、涼さんは手を打ち鳴らして笑い始めた。
「恵ちゃん幼女だったの? それはそれで可愛いけど」
「ち……っ、ちがっ」
間違えたと思った時には遅く、涼さんはツボに入ったらしくケラケラ笑っている。
やがてその笑いが落ち着いた頃、彼はポンポンと私の背中を叩いた。
「確かに六歳差は少し歳の差かもしれないけど、大人になったら関係ないだろ。そもそも、尊と朱里ちゃんだって同じ年齢な訳だし。……あいつの場合、中学生の朱里ちゃんに出会ってからの縁だから、尊のほうが闇が深いよ」
「……確かに」
頷くと、涼さんはクスクス笑った。
「中学生の恵ちゃんに二十歳の俺ってやばいね」
「やばいっす」
当時は痴漢に遭いたてで、異性を恋愛対象に見るどころじゃなかった。
フワフワで華奢な朱里を抱き締めて安心して、彼女を守る事で自分の強さを確認するので精一杯だった。
――でも。
(……そろそろ〝女〟に戻ってもいいのかな)
大らかな涼さんを見ていると、私がこだわっている事を明るく笑い飛ばし、全部受け入れてくれそうな包容力を感じる。
けれど「そんな魅力的な人が選んだのが私でいいのかな?」という怯えがある。
その気になればよりどりみどりの人なら、付き合ったとしても謎の美女A、Bが無限に出てくる可能性がある。
加えて、美魔女っぽいお母さんや美形確定な姉妹たちが、私みたいな普通の一般人をどう判断するか分からない。
(現代のシンデレラなんて御免だ)
そこまで考えた私は、今考えている事を涼さんに話していない上、彼のご家族にも会っていないくせに一人で決めつけている事に気づいた。
(良くない!)
両手でピシャン! と頬を叩くと、涼さんは驚いたように目を丸くした。
「どうしたの? 気合い?」
「……あ、……えぇ、まぁ……」
ゴニョゴニョと言ったあと、私は時計を見てそろそろ寝ないとと思った。
「明日も早くからシーに向かうんですよね」
「そうだね。開店の六時半に予約してあるはずだからホテルのビュッフェを楽しんで、それからなるはやで移動しよう。恵ちゃんは俺の車に乗りなよ」
「えっ、あっ、うぅ……」
戸惑っていると、涼さんは「はい、決まり」と私の頭をワシャワシャ撫でてきた。
「じゃあ、寝ようか。恵ちゃん、お風呂は?」
「えっ!?」
お風呂と言われた瞬間、ドキンッと胸が鳴って口から飛び出そうになった。
「まだなら入りなよ。俺はさっきシャワーを浴びたから、先に寝る準備してる」
「ソッ、ソウッ、デスネッ」
お風呂と言われただけでエッチの事を考えてしまった自分が単純すぎて、穴を掘って埋まりたいほどだ。
「今日は同じ部屋で寝るだけ。明日はもうちょっと勇気を出してソフレやってみる?」
「そふれ?」
聞いた事のない単語に、私は眉を寄せる。
「添い寝フレンド。フレンドっていうの正しくないね。お付き合い前提だから」
「ソイネッ!」
ソイヤッみたいな勢いで言ってしまったあと、私はカーッと赤面して立ちあがった。
恥ずかしくて無理すぎる。
「~~~~っ、とりあえず明日のために早く寝ないとならないので、色々寝る準備しますが、いっさい音を聞かないでください!」
我ながら無理難題を出してしまったと思ったけれど、涼さんは「いいよ~」と軽く返事をし、ポケットからワイヤレスイヤフォンを出すと耳に押し込んだ。
「先に歯磨きしてからでいい? そのあとゆっくりしていいよ」
「え……、あぁ、……はい……」
(この人、何を言っても動じないな……)
私はそんな涼さんを呆然と見たまま、彼が洋楽を口ずさみながら洗面所に入ってく姿を見送ったのだった。