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その日、二人の仕事は長引いた。
家に帰った頃には、
すでに夜の10時を回っていた。
🩷「つかれたあああ!」
佐久間はソファに倒れ込む。
💚「先、お風呂入ろっか!」
🩷「うん!」
──────────────
バタバタと支度を済ませ、
やっとベッドに入った二人。
💚「今日もお疲れさま」
🩷「阿部ちゃんもね」
柔らかい空気の中で、
阿部はそっと佐久間にキスをする。
軽く触れるだけの、優しいキス。
布団の中で手をつなぎ、
二人は静かに目を閉じた。
――そして。
0時。
阿部はふと目を覚ました。
💚(あれ……)
💚(まだ隣にいる)
夜の佐久間も、
まだベッドの中にいた。
手は――
つないだまま。
胸が少し高鳴る。
阿部はそっと佐久間を引き寄せた。
その瞬間――
ぐいっと手首をつかまれる。
体勢が一瞬で入れ替わった。
気づけば、
佐久間が覆いかぶさる形になっていた。
💚「佐久間…?」
暗闇の中。
まっすぐに見下ろしてくる瞳。
🩶「どっちだよ」
💚「え?」
🩶「お前は」
🩶「……どっちを選ぶんだよ」
真剣な声。
真っ直ぐ見つめられる。
💚「……」
少しの沈黙のあと、
阿部は静かに答えた。
💚「佐久間は、佐久間だよ」
🩶「……」
💚「どっちとかない」
💚「どっちも、大切な恋人」
その言葉を聞いた瞬間――
🩶「……っ」
佐久間の目から、涙があふれた。
ぽた、ぽたと落ちる涙。
その雫が、
阿部の頬へと落ちていく。
💚「……おいで」
阿部はそっと佐久間の手を取った。
くるりと体勢を入れ替える。
今度は、阿部が上から見つめる形。
そして――
ゆっくりと顔を近づける。
ふたりの唇が、 重なる。
今までよりも、少しだけ深く。
互いに確かめるようなキスだった。
──────────────
互いの吐息が、静かな部屋に響き渡る。
🩶「……言うなよ」
💚「え?」
🩶「どっちも恋人とか」
🩶「そんなこと言われたらさ」
少しだけ視線を逸らす。
🩶「消えたくなくなるだろ」
💚「……」
その言葉に、阿部の胸が大きく揺れる。
💚「消えるって……」
🩶「長くはいられないって分かってる」
静かな声だった。
🩶「あいつの意志が強くなれば」
🩶「俺はそのうち消える」
🩶「阿部に出会ってから」
🩶「…あいつは変わった」
🩶「良い方向にな」
🩶「もともと俺は」
🩶「あいつを守るために作られたようなもんだ」
少しだけ笑う。
けれど、その笑顔はどこか寂しそうだった。
🩶「あいつ、優しすぎるだろ」
💚「うん…」
🩶「だから、抱え込む」
🩶「嫌なことも、つらいことも」
🩶「……全部」
💚「……」
🩶「だから俺は」
🩶「あいつが笑顔でいられるように」
🩶「苦しい気持ちとか」
🩶「心が傷ついたときの感情とか」
🩶「そういうものを――」
少し間を置いて、佐久間は続ける。
🩶「夜の俺が引き受けてきた」
🩶「それが俺の役目」
💚(……だから)
💚(あんな、光のない目をしていたのか)
🩶「簡単に言えば…」
🩶「佐久間の負の感情が今の俺の姿」
阿部の胸が痛む。
💚「そんなの……」
💚「一人で背負う必要ないのに」
🩶「あるんだよ」
🩶「俺には、それしかできない」
一瞬の沈黙。
やがて佐久間は、阿部の顔を見つめた。
🩶「でもさ」
🩶「お前に会えてよかった」
💚「……っ」
🩶「俺のこと」
🩶「嫌いにならないでいてくれたのは」
🩶「お前が初めてだった」
阿部の目が、少し潤む。
🩶「だからもう十分」
🩶「満足なんだわ」
💚「やだ…」
声が震える。
💚「勝手に消えるなんて」
💚「そんなの許さない」
🩶「…困ったな」
少しだけ優しい目。
🩶「最初で最後のお願いしていい?」
💚「……なに」
🩶「あいつのこと」
🩶「これからも好きでいてやって」
💚「……」
🩶「あいつ」
🩶「本当にいいやつだから」
💚「知ってるよ」
阿部は、ゆっくり佐久間の頬に触れた。
💚「でも」
💚「君も、俺の大事な恋人だ」
🩶「……」
その言葉に、佐久間は目を細める。
🩶「あんたはずっと…」
🩶「変なやつだな」
そう言って――
そっと阿部の胸に顔を埋めた。
🩶「…少しだけこのままでもいいか?」
💚「うん」
阿部は、静かに抱きしめる。
夜の佐久間も――
その腕の中で、初めて安心したように目を閉じた。
この時間が、
ずっと続けばいいのにと
阿部は心から思っていた。
だけど――
それが永遠ではないことを
どこかで、分かっていた。
つづく。
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