テラーノベル
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次の日目が覚めると、ラウールが横に寝ていた。またしても俺の腹に巻きついている。
💙「いつの間に……」
ここのところ、ラウはなかなかの高頻度で夜中に自分のベッドを抜け出しては俺の隣で寝ている。マジで寮母さんに鍵を直してもらわないといけないなと思うが、未だノーロックだ。
入学してからまあまあ経つのに、この寮は本当に色々とルーズで頭が痛い。 仕方なくラウールを揺らすと、目を擦りながら大きな身体を起こした。
🤍「あれぇ?僕またここに来ちゃったぁ?」
寝起きが悪く、いつも甘えてくる。
最初こそテンパっていたが、ラウールも自らの行動を諦めているようだ。俺は先に寝床を出た。
💙「お前がいると着替えられねぇから早く戻れよ」
🤍「うん。ごめんね?」
見上げるような大男は、枕を抱きしめたまま(昨夜は枕を持参したらしい)ちょこんと可愛らしく頭を下げて出て行った。
可愛い。
図体はでかいくせに、ラウはどこか憎めない男だった。初めこそ挙動不審にしていたが、こうして何度か一緒に寝ているうちにラウールともだいぶ打ち解けてきた気がする。めめと同学年なのにもっと年下な感じがする男だ。あれも可愛い後輩のひとりではある。
枕元のスマホを手に取ると、深澤からあの後何度か不在着信が入っていた。
キモい。本当に何考えてんだか…。
教室に着くと、珍しく俺が一番乗りだった。普段は忘れていたけど、一応、受験生なので参考書を開いて勉強を始める。
鼻の下にシャープペンシルを挟みながら、他の3年生について考えていた。
💙「深澤と佐久間は、進路どうするんだろ」
放課後の課外授業で、芸事みたいなことを繰り返しやらされているけど、さすがにあんなんじゃ食っていけないだろう。
💙「……アイドルじゃあるまいし」
💚「おはよう、渡辺さん。アイドルがどうかしましたか?」
無人の教室内に急に響いた涼やかな声に振り返ると、我が担任の爽やかイケメンが笑顔でこっちを見ていた。
💚「渡辺さんは、アイドルとか興味ないの?」
💙「んー。サクプロのアイドルはカッコいいと思うけど、俺、一般人だし、ピンと来ないです」
言った後、つい『俺』が出てしまったことに気づいて、冷や汗が出る。
しかし、阿部先生は気づかなかったようで、少し口角を上げただけだった。
サクプロというのは、国内でも屈指のアイドル事務所で、知らない人はいないだろう。テレビや映画に出演しているアイドルはだいたいそこの事務所に所属していた。俺はそのせいで芸能界って狭い世界だなあと思っていた。特に芸能界に興味もなく、それどころか疎かった俺は、知っているアイドルも数えるほどしかいない。
💚「俺は渡辺さん、アイドルに向いてると思うけどな」
俺の席の前に、椅子の向きを変えて、阿部先生が座り、至近距離で俺を覗き込む。
………近い。
笑顔は朝に相応しく爽やかなのに、目の奥が笑ってなくてドキッとした。
💙「そんな華やかな世界、俺には向いてないっすよ」
あ。
また『俺』が出てしまった。
阿部先生の両目から目が離せない。
この人、いつもはふんわりして優しい感じなのに、今日はなんだか雰囲気が違っていた。
まるで獲物でも見るような…。
🩷「あっ!!!せんせーーーーー」
二人の間に流れた気まずい空気を破ったのは、朝から声量MAXの佐久間の明るい声だった。
いつもはうるせぇと思うけど、今日は救われた気分だ。
阿部先生は前のめりになると、肩に手を置いた。そして俺の耳元で『いつでも進路相談に乗るよ?』と囁き、くしゃっと俺の髪を撫でると佐久間に向き直る。
💚「おはよう、佐久間。俺は一度職員室に戻るよ。後でな」
そう言って、今度は優しく佐久間の頭を撫でている。
スキンシップの多い野郎だ。
訝しく見ていると、阿部先生が見えなくなった途端、佐久間が見たこともないような顔つきで睨み付けてきた。
🩷「お前ホモかよ。阿部先生にまで色目使うんじゃねぇ」
低い声で凄むようにそれだけ言うと、佐久間はいかにも機嫌悪そうにプイッと顔を背けた。そしてそのまま俺の真後ろの自分の席に着き、教科書を出して、まるでこれ以上話し掛けるなと言わんばかりに熱心に自習を始めた。
コメント
5件
さっくん怖いよ…笑