テラーノベル
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「あ、俺と一緒にいる時は、別に透明にならなくても大丈夫っスよ」
——モノさんがそんなことを言うので、私はドキドキしつつ透明化を解除しました。
確かに彼の言う通りで、道行く人達は、頭上を飛んで行く私達にはまるで無関心です。
唯一、アパートのベランダで布団を叩いていた女の人がモノさんに、
「あらあ、久しぶりねえ。今日はお友達と一緒?それともガールフレンドかな?」
と、にこやかに声をかけていました。
にしても、ガールフレンドとは——何だかこそばゆい響きです。
ちなみにですが。
〝堺の世界〟の猫は、母親のお腹から産まれてくるわけではありません。
その為、雄も雌も、いわゆる生殖能力の類は持っていません。
修さんの家にやっかいになる際、問題がないかを調べる為に『囲』(超常的な脅威から人々を守るための機関だそうです)の施設でいろいろと検査を受けたのですが、新たな存在へ生まれ変わった現在も、その手の力は授かっていないようでした。
(パパさんとママさんには、修さんの方から「不妊治療済み」と伝えてもらっています)
とは言え、その為の器官が付いていないという訳ではありません。
〝堺の世界〟の猫達も、気に入った相手を見つけると——っと、生々しい話はこの辺にしておきましょうか。
話を戻して——
しばらく飛んだ後、モノさんはゆっくりと住宅街へと降りたちました。
家と家との狭い隙間に、その場所はひっそりと存在していました。
朱色の鳥居の奥に、木造の小さな祠が見えます。
「このお稲荷さん、実は猫稲荷なんスよ」
「猫稲荷?」
「ええ。狐の代わりに猫を祀ってるんス」
「へええ。珍しいですね」
「まあ全国的に見れば、割とあちこちにあるらしいっスけどね。このお稲荷さんが、この辺りの地域猫達の集会場なんスよ」
なるほど、と相槌を打ちつつ、私は猫稲荷に目をやりました。
「誰も居ませんねえ。早く着きすぎちゃったんでしょうか?」
「そうとも限らないっスよ。ついてきてください」
そう言うと、モノさんはお稲荷さんから離れて、トコトコとどこかへ歩いていってしまいます。
モノさんの先導の元、私はお稲荷さんの周辺の道を、ぐるぐると何度も回ったり、かと思えば引き返したり、突然脇道に入ってみたりといった風に、一見めちゃくちゃに歩き続けました。
可愛いだけではなく、聡明な私にはすぐにピンときました。
規則性がないように見えますが、これはきっと、決められた順序を辿っているのでしょう。
〝堺の世界〟からこちらの世界へやってくる際、同じようなことをしたのでわかります。
きっとこうした手順を踏まなければ、真の集会場には辿り着けないようになっているのです。
名探偵オーマの推理通り、モノさんはやがて猫稲荷の前で立ち止まると、私を振り返って言いました。
「よし、これでOKっス。さ、ついてきてください」
彼が鳥居の下を通過した瞬間、その体がまるで瞬間移動でもしたかのように消え去りました。
果たして、鬼が出るか蛇が出るか。
好奇心は猫を殺すなどと言いますが、ここで行かねば私ではありません。
私は胸の高鳴りに身を任せ、モノさんを追って勢いよく鳥居を潜りました。
視界が一瞬、真っ白になり——気がつけば私達は、辺り一面が乳白色の霧に包まれた場所に居ました。
霧は頭上にも立ち込め、空の色もわかりません。
霧の奥には、ぼんやりと小さな木造の神社があるのが見てとれました。
小さいとは言っても、さっきまで目の前にあったお稲荷さんに比べれば、境内は広々としたものです。
これくらいの面積があれば、人間の幼子でも、ちょっとした追いかけっこやボール遊びが楽しめるでしょう。
私は潜ったばかりの鳥居を振り返りました。
鳥居の向こうにさっきまでの街並みは見えず、ただただ周囲と同じく霧が漂っているだけです。
鳥居の両脇には狛犬ならぬ狛猫の像が設置され、穏やかな笑顔で来訪者を出迎えています。
「さあ、こっちっスよ。みんな揃ってるみたいっス」
モノさんの言う通り、境内の石畳の上には、既に数匹の先客が居ました。
神社の周りだけ霧が嘘のように晴れており、私は彼らの姿をしっかりと確認することができました。
「おや、モノの友達かい?ようこそ。歓迎するよ」
私にそう声をかけてきたのは、尻尾が二つに分かれた、三毛猫のおばあちゃんでした。
「私の名前はトメ。よろしくね、お嬢ちゃん」
トメさんはもう長いこと生きている猫又で、この集まりの顔役だそうです。
トメさん曰くこの場所には、空間が〝猫〟と認識した存在しか侵入できない特殊な結界が張られているらしく、出入り口は先ほど潜った鳥居のみ。
霧の中を進もうとしても、すぐにこの神社に戻ってきてしまうのだとか。
(その辺りは〝堺の世界〟の猫の体内に存在する、『森』と呼ばれる異次元とちょっと似ている気がします)
「あたし達はみんな、普通の猫からは外れた、ちょっと変わった猫でね。定期的にここに集まっては、みんなで『猫会議』をしてるんだ」
「いったい、何を話し合ってるんですか?」
「そうだねえ。『あそこの通りは車の往来が激しいから注意しよう』とか、『猫としての正しい生き方』とか——まあ会議とは名ばかりで、大抵は世間話に花を咲かせてるだけだけどねえ」
そう言って笑いながら、トメさんはぐるりと周囲の猫達を見回しました。
「さあて——それじゃあ早速、あたしらの仲間を紹介しようか」
コメント
1件
②、読み終わりました〜! 透明化を解除するシーン、なんかドキドキしました…モノさん優しいですね。それに猫稲荷の世界観、めっちゃ好みです。猫又のトメさんも含めて、あたたかくて不思議な雰囲気がすごく好き。続きが気になります〜!
リユ
232
#怪異
耐え内
233
#怪異
阿炎快空
123
#ダークファンタジー
阿炎快空
82