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第2話「オウムは嘘をつけない」
病院の待合室で、風間琴葉はひとり掃除をしていた。
まだ開院前。小鳥専門の動物病院は、朝が静かだ。
「おはようございます。ぼく、あなたのことが好きです」
背後から流暢な声が響いた。琴葉が振り返ると、そこには長身の青年が立っていた。
金と白が混ざったようなサラサラの髪に、真っ白なロングコート。肩には赤と橙色の羽模様が入り、胸元には金属のように光るペンダントがぶらさがっている。
「え、え?」
「ぼく、あなたのことが好きです」
まったく同じ口調で、また繰り返す。
琴葉が戸惑っていると、彼はふと笑った。
「ごめんね。言葉を覚えると、すぐ言いたくなる癖があるんだ」
「昨日、君が患者さんに言ってた言葉。『元気になってよかったね』とかも。ぼく、全部覚えた」
「……あなた、鳥?」
「オウムだよ。モモイロオウム。となりのケージでずっと見てた」
彼は少しだけ恥ずかしそうに、でも誇らしげに胸を張る。
「本当のことしか言えないから、言うね。君が誰かを大事にするとき、羽根の先まであたたかくなる。ぼく、それが好きだった」
彼は言葉を反芻しながら、何度もそれを伝えようとした。
でも——それが琴葉の傷にも触れてしまった。
「…大事にすることって、むずかしいよ。わたし、大事にされるのが、苦手かも」
「それも、覚えた」
彼は静かに呟いた。
「覚えたけど、それでもぼくは君が好きってことも、消えない」
オウムの青年は正直だった。うそがつけないその性格が、ときに不器用な優しさを連れてくる。
琴葉はその日、初めて「ありがとう」を返すことができた。
その言葉も、きっと彼はすぐ覚えるだろう。ずっとずっと、繰り返しながら。
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