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5 - 第3話「カラスの求愛行動」

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2025年07月06日

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第3話「カラスの求愛行動」

ゴミ出しの朝。琴葉は何度目かのため息をついた。

袋の中にまた——光る何かが混じっている。ビー玉、指輪の箱、ヘアピン、銀色のスプーン…。


「またこの人、入れてる…」


最近、毎朝ゴミ袋の中に光る物が紛れている。最初は誰かのいたずらかと思った。けれど続いている。異常に丁寧に、選ばれたように。


その日の帰り道。琴葉の前に、見知らぬ青年が立っていた。


「これ、落とした?」


そう言って差し出されたのは、彼女が中学生のころに落としたブローチ。鳥の羽根の形をした、小さな銀細工。


青年は黒のジャケットに、同色のシャツ。髪は黒くつややかで、目元はどこか冷たいような、でも奥に柔らかさを宿していた。

長い脚で立つ姿は鋭く、でもどこか気配を消している。


「…誰、ですか?」


「となりの公園にいるカラス。擬人化、というやつ。名前はハシボソ。」


「……ハシボソ。あなた、ずっと見てたの?」


彼は小さくうなずく。


「見てた。君は毎日、決まった時間に歌いながら歩く。それが好きだった。だから、光るものを渡した」


「それって……求愛行動?」


「うん。人間にするのは、初めてだけど」


琴葉の胸に、何かが刺さるようにチクリとした。

無言で何かを与え続けた彼は、言葉が苦手なのだろう。感情を形にするために、拾ったものを渡し続けてきた。


「……返すよ、これ」


琴葉は手渡されたブローチを彼の手に戻す。

けれど、その手の中にそっと自分のシュシュを滑り込ませた。


「これは、あげる。今日のお返しに」


カラスの青年は目を見開き、そして目をそらした。

風が吹いて、彼の羽織がわずかに揺れる。


「……それ、ずっと持ってていい?」


「うん。明日は何も入れないで。代わりに、話してよ」


彼の頬がかすかに赤くなったのを見て、琴葉はようやく気づいた。

この恋は、すでに少しずつ始まっていたのだ。

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