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『……しゃり…しゃり…しゃりしゃり……しゃり……』
「ん…んんん…ん。(…あれ?。…わたし…死んだのよね?。それなのに…)」
『シャリシャリ……シャリ…シャリ……シャリシャリ………シャリリ…』
「…ん。(…なんだか…ほっぺが痛い。…誰かが…ジャリジャリ削ってる?)」
左の頬を、ザラザラな何かが擦っている。きっと地獄にいるとゆう鬼が、罪深い私を摩り下ろしているのだ。鬼おろしで磨られれば…最初は皮膚が裂けて…やがて肉が千切れて…最後には骨が削られてゆく。そしてこの痛みは、いずれ全身に広がってゆくのだろう。こんなにも淫猥で、卑しく、ド淫乱な私の女体を肉クズにして…きっと家畜の餌にでもするのだろう…
こんな事ならちゃんとセックスしとくんだった。絶対に義父は嫌だったけど高校二年の時に告白してくれた、あのクラスメイトの男の子でも良かったのかも。野球部の次期エースって噂だったし…笑顔が爽やかだったし…
でも…ヤリたいだけにしか見えなかったのが決定打かな?。私の眼よりも胸を見ていた気がする。だから丁重にお断りしたのだけれど、傷物になって冷静に考えれば、愛しい男に処女を捧げたとしても喜ばれるとは限らない。だけど私にだって拘りはある訳で。う〜ん…どうしたら良かったの?
「ほぉらクロちゃん?。その娘は死んでいないのよぉ?。お痛はダメですからねぇ。…ん?あらあら。レオちゃあん♡気がついたみたいですよぉ。」
「………。(…猫、だったのね。…はぁ。…まだ死ねないのか。…わたし…)」
若い女性の透き通るような声が聞こえた。そうなって私はゆっくりと目を開く。少し広めな真っ白い天井と長い蛍光灯が見えた。全く知らない天井なのだが微かに鼻を突いた消毒液の匂いで、ここが病室なのだと悟れる。
視界の左に映る銀色な棒に吊るされた点滴の瓶とチューブ。それを伝って視線を下げると、漆黒な大きい猫を胸に抱いた白衣の女性が立っていた。初めて見る蒼銀色な髪はウェーブがかってて艶々で美しい。東欧系のハーフだろうか?日本人離れしたプロポーションと顔立ちに戸惑ってしまう。
「お?もう生き返ったのか?。たいした生命力だなぁ。あ、カスミさん?彼女に入院服は着せてるよな?。顔を会わせた途端に一悶着は嫌だぞ?」
「…あ…の…?。(!?。なに?奥の部屋に男がいるの!?。それに生き返ったって何よ?生き返ったって。まるでさっきまで死んでたみたいじゃ…って。…まさか…死んでたのかな?。…それに…いったい誰がわたしを…)」
「あ〜、いっけなぁい♡。あまりにもぷるんぷるんなおっぱいが綺麗で〜シーツしか被せてなかったわぁ♡。ちょっと待っててね?しののめ・りんちゃん♪。そのままだと〜可愛い突起が見えちゃうもんねぇ♪。うふ♡」
「霞さん、そうゆう事故を誘発するような『トラップ』はヤメてくれ。それと…『胸がぷるんぷるんで綺麗♡』とかいう個人情報も言わない様に…」
「てへ。叱られちゃった♡。あ♪レオちゃん、今の可愛かったでしょ?」
「はいはい、カスミさんはいつも可愛いですよ。それよりも服を早く…」
弾むような澄んだ声と、低く通る声からなる会話は、どこか耳に心地よかった。だが少なくともこの場にいる二人は、わたしが何故ここに運び込まれたのかを知っている。それは単なる怪我人ではなく、私が何をされて傷付いたのかも知っているとゆう事だ。だから気を使って…わざと明るく…
それなのに私の気持ちは、加速しながら落ち込んでゆく。乳房を乱暴に掴まれた痛みが、恥部を弄られ舌を這わされた屈辱感が、濡れていない膣に挿入された瞬間の激痛が、子宮口を小突かれる嫌な感覚が、顔や胸や腹にかけられた臭い粘液の温さが、心の奥底を抉る嫌悪感と共に蘇ってくる。
わたしは男の持つ凶暴性に屈してしまった。死への恐怖に囚われて受け止めてしまった。好きな様に辱められ、身体の中を犯されていても抵抗すらしなかった。だけど、あの時のわたしは決して出来なかったのではない!殺されたくなくてしなかったのだ!。…そんな私を…私は絶対許せない!
「ゴロゴロ……うにゃあん?。…にゃろぉん?。ぐるぐるぐる…うにゃ?」
「あ、ゴハンよねぇクロちゃんは。…えっとぉ。はい、下着はコレを着けてねぇ?。マイクロブラとマイクロティーバック♡。過去一でレオちゃんが食い付いた勝負下着よぉ?。あ。それじゃあクロちゃんはご飯にしましょうねぇ?。今日はツナの缶詰ですかぁ?それともチキンの方かなぁ?」
「あ…の…(痛たたた。…なんなのよ…このちっちゃいセクシー下着は?。たぶんあの『カスミさん』って呼ばれている人のなんだろうけど…え?カップでかっ!?。ほほぅ…え、えふですかぁ。…すみません…無理です…)」
そんな私の心情を推し量ってか、銀髪の美女は優しく微笑んでくれる。さっきまでわたしの頬を舐めていた黒猫までが、どこかわたしを案じてくれているように思えた。だけど今の私は…そんな優しさに応えられない。いえ、応えていい女ではないのだ。暴力と辱めを受け入れてしまったから。
刺されたお腹の傷が治って、動けるようになったら死に場所を探そう。死んだあとも遺体が誰にも見つからない場所で、汚れきってしまった自分の身体と心に終止符を打つのだ。しかしその前に、私を脅し傷つけ、犯して殺そうとしたあの男に復讐してやりたいっ!。迷彩柄のフードの奥の、あの蔑んだ目つきは絶対に忘れない!。必ず見つけてやる!あの卑怯者を!
「お〜い。ちょっと覗いてもいいかな?シノノメさん。傷口の消毒をしたいんだけど。あ…男のオレが嫌なら…さっきのスケベな女医を呼ぼうか?」
「…構わないです…どうぞ。(声シブっ!。恐らくオジサンよね。でも、さっきの綺麗な女医さんがスケべなのを知っているなんて。ん?もしかして旦那様とかかな?。夫婦で運営する診療所なんて素敵ねぇ。いいなぁ…)」
出入り口に扉の無い奥の部屋から、低い声が尋ねてきた。わたしの想像だと…年齢は三十代前半から四十までで…中肉中背なオジサマだと思う。台詞は若くとも喋り方は穏やかで優しいし。恐らくはナイスミドルだろう。
「初めまして。オレ、ヤツカドって言います。気分は…悪いかもだけど傷は治さないとね?。…それと…どうしても触っちゃうけど…大丈夫かな?」
「は…はい…(うっそーー?。空前絶後の神イケメンっ!。そんなルックスであのシブい声なのっ!?。まさかのヴァージン・キラーじゃないのよっ!?。あ。あたしもう処女じゃないんだ。…え〜ん。なんか悲しい…)」
「あ。動かないで。そのままでいいから。極力…見ないようにするね?。東雲鈴さん二十歳。O型。申し訳ないけど住所も調べさせてもらったよ。それと所持品は全部預かってるから安心して?。それでは…失礼します…」
「は……い。(こんな汚れた女体で良かったら!じっくり見てくれて結構です!。いっそ股でも開きましょうか?それともシーツを全部!痛たた…。でもヤバいなぁ。こんなに緊張するの初めてじゃない?。…いい匂い♡)」
仰向けに寝るわたしに掛けられた真っ白なシーツを、彼の長い指が少しずつ手繰ってゆく。すぐに晒されたわたしの左の括れと下腹は素肌で、妙な緊張感に襲われてしまった。そして今のわたしは一糸纏わぬ姿だ、お股の膨らみが見えちゃうかも?。少しだけ、あの屈辱が蘇りそうになったが、私は全力で!…真剣な顔で消毒してくれる黒髪美男の横顔を眺めてみる。
「…よし。腫れてないな。……薄くて綺麗なお腹だねぇ。鍛えてるの?」
「い…いいえ。(あ、触れ方が…すごく優しい♡。…もっと撫でてぇ♡なんちゃって。…わたしってやっぱり変よね。…レイプ…されたばかりなのに。でも…ヤツカドさんとカスミ先生のお陰かな?…それほど辛くないわ…)」
「よし。こちらは大丈夫。でもそちらの傷は、横にズレてなけりゃ即死しててもおかしくなかったんだ。……本当に…生きててくれてよかったよ。」
「そんな…わたし。…ぐすっ…ぐしゅ。ううっ…(…生きてて良かったなんて生まれて初めて言われちゃった。ヤツカドさん…好きになっちゃう…)」
「!?。ごめん…思い出させちゃったね?。でも生きていることには感謝するんだよ?。シノノメさんさえ良ければ…俺がちゃんと護るからね?」
「!!?……。(あ。今、ズキューーン♡って…胸を撃ち抜かれた様な…)」
彼が病室に入ってきた途端に、わたしの胸は高鳴りっぱなしだ。くしゃりとしていても似合っている黒い髪。するんとしていながらも凛々しい輪郭と鼻筋。端が上がり気味な濃い眉毛に鋭くも穏やかな眼。薄めな唇に男の色気を感じてしまった♡。背丈も軽く180センチを超えているだろう。そして、このよく通る低い声と…穏やかな口調が堪らない。髪の匂いも♡
「うん…シノノメさんは身体の代謝が良いみたいだね?肉がもうくっつき始めている。これなら全治七日ってところだよ。…あと2〜3日は痛むと思うけど、今はゆっくり休んでね?。…この仇は…俺が必ず獲るからさ?」
「え?かたきを…ですか?。(…やっぱり知ってるわよね。…やっと出逢えたのに…わたしの理想を超える男性に。でも…穢されてしまったわたしなんて相手にもしてもらえないわよ。…ん?わたしの仇を…どうやって?)」
「あいつの名前は『徳元裕二』四十二歳。街の遊技場のバイトだ。俺が知る限り、アイツはこの半年で五人もの女性を毒牙にかけてる鬼畜だよ。快感を貪るために避妊具を使わず、体外に射精するのは証拠になる精液を残さない為だ。そして犯行を行う際には雨が降る日を必ず選んでいる。奴は生意気にもDNA採取を警戒してるんだよ。…虫ケラの考えそうな事さ…」
初対面なはずなのに、わたしの仇を討つと言ってくれたヤツカドさん。しかも犯人まで特定しているとは理解が追いつかない。それなのに、彼の言葉には嘘がないように感じた。ううん。たとえ嘘でも嬉しかったんだと思う。あの卑怯者はまだどこかで生きているはず。そして…またどこかで見つかって…また襲われないとも限らない。殺したいほど憎いのに……怖い。
「…ヤツカドさんは…警察の方なんですか?。(そう言えば、わたしが死にかけていた時に声をかけてきた男性の声に似てるかも。ううん、こうして聞いていると同じだわ。じゃあ…私を助けてくれたのはヤツカドさん?)」
「いやぁ。俺は警察ほど優しくはないかなぁ?。…徳元裕二の事は昨日も警戒していたんだけど、俺の方に別件があってヤツの発見が遅くなったんだ。…謝って済むことじゃないけど…シノノメさんが傷付いたのは俺のせいでもあるんだよ。…本当にごめん。もしも償えるなら…何でもするよ…」
「そんな…ヤツカドさんが謝る事では…(待ちなさいリン。こんなイケメンが『何でもする』って言ってるのよ!?。自分に失望してるのは解るけど!スルーは絶対ダメだからね!?。今は甘えなさい!ダメ元でも!)」
あの男を警戒していた?。まさかの探偵さん?。見えなくもないけど、わたしが知る限り探偵さんって、病院で働いてたりしない気がする。イメージとしてはこう。…煙草の煙が漂う古く薄暗い事務所で…黒尽くめなスーツを纏ってて、デスクに組んだ脚を乗せているような。そして唐突に鳴った黒い電話に驚きながらも、受話器を面倒くさそうに取り上げるの♪。耳と肩で受話器を挟んで…使い古した手帳に細かくメモを取ったりして♡。
「シノノメさん?。大丈夫?。…やっぱり…ショックだよな。ごめん…」
「…償う為なら何でもする。気休めですよね?。(あ…妄想が暴走してた。ねぇ本気なの?やるの?リン。…そんなお願いしたら…嫌われちゃうかもだよぉ?。ねぇ大丈夫ぅ?下手したらビッチじゃないかって思われて…)」
「そう聞こえたのならもう一度言うよ。シノノメさんへの償いになるなら、この八門獅子《ヤツカド・レオ》はなんでもする!。約束するよ…」
「………………。(…あ。八門さんの瞳って…少し紅くて…黒いのね。日本人って茶色がほとんどなのに。…はぁ♡綺麗。これも…傷が治ったら見れなくなっちゃうのね。…退院して家に帰っても一人きり。それはこれからもずっとそう。でもそれでいいの?。一生…男性とは関わらずに生きると決めて…たった三年でこんな目にあったのよ!?。本当に後悔しないの!?)」
「………ごくり。(何を言われても絶対に受け止める。そう…絶対にだ。)」
葛藤と沈黙。それでも真っ直ぐに、真顔で見つめてくれる八門レオと名乗った黒髪美男に、私の乙女心は完全に魅了されている。それでも人生とは一期一会の連鎖だとわたしは思っているし、そうやって生きてきた。そしてこれからも続けていくつもりだ。だけど…穢されてしまったのだから…
「そ!それなら私をっ!?。や…八門さんの愛人にしてくださいっ!。もう汚れてしまった女ですし!好きに使ってもらっていいですから!。わたしも!八門さんが気持ち良くなるように何でもします!。だ!だから!」
「わっ!。ほらほら東雲さん!?そんなに大声を出すと開いちゃう!。ちょっと傷を見せて。ほっ…良かった。…それで今…愛人って聞こえたけど」
「ほ…本気です。…わたしの夢は可愛いお嫁さんになる事でしたけど…こんなに汚された身体では旦那さまに申し訳がありません。…だから愛人とゆうか…二号さんでも充分だと考えました。…わたしなりの…ケジメです…」
わたしの身体を気遣い、傷を確認した彼は、少し戸惑い気味に尋ねてくれた。驚きに大きくした眼と、頬をほんのりと赤くしていてスゴく可愛い。無理は承知で言ってしまった一大決心!。逆に恥ずかしくなってきたけど応えは聞きたい。断られて同然な破廉恥すぎる我儘。…でも離れたくない気持ちだけが、わたしの心の中をいっぱいにしている。…神様…お願い!
「…わかったよ。そ、それじゃあ…恋人から始めてみようか?。いきなりアレをする…とか…その。…俺には荷が重いって言うか。その…経験が… 」
「…恋人から…ですか?。(…まさかのチェリー!?。こんなにスレンダーでイケメンでシブ声なのに!?。もはや国宝と言っても過言ではない純潔男子が、こんな性欲まみれな日本にいただなんて。…神様ありがとう…)」
「うん。…もしもいいのなら……現時刻を持って東雲鈴を!八門獅子の恋人初号機に任命するっ!。…あ。分かんない?笑う所なんだけど…ここ。」
「…ぷっ。了解っ。東雲リン恋人になります!。宜しくお願いします♪。(やった!やったわよリンっ!。あんた〜やればできるじゃない!。もしもコレが八門さんの優しさだったとしても…後悔しないわ。…絶対に…)」
ベッドの傍らで、立ち上がった彼がビシッ!と敬礼をして応えてくれた。なんとも初々しい八門獅子のはにかんだ笑顔。姿勢も良くて誠実そうで、落ち着いた喋り方をする割りにはとても初《うぶ》なのかも知れない。恐らくわたしのこれからの長い人生でも、絶対にお目にかかれない超貴重な男性だろう。そんな彼と少なくともお近づきにはなれた事に感謝したい。
「うん。よろしく。でも正直…まだ信じられないんだけどね?。人間の女の子に怖がられなかったの初めてだよ。あ、こんな時間か。そろそろ痛み止めを飲んでもらわないと。…そうだ、俺のことはレオって呼んでくれ。」
「は、はい。…それじゃあ私のことも……り、リンって呼んでください♡。できれば…呼び捨てにしてくれる方が嬉しいです。…あ、あの…もう一つお願いしてもいいですか?。そ…その。わたし…き、キスしたことが無くて…(こんな黒髪イケメン!誰が怖がるんですかー!?。それとリン!めちゃくちゃ飛躍しすぎじゃないの!?。会ったその日にキスするなんて映画だけでしょ!?。あんまりワガママ言うとぉ〜嫌われちゃうからねっ!)」
「…そうかぁ。俺もシタこと無いかなぁ。…良ければ…今…してみる?」
「はっ…はいっ…是非…。こ、恋人の証として…。(はしたないけど…我慢できなくなってるし!。なんなのこのムラムラは!。レオさん…良いニオイするし…そのせいなのかしら?。…やん…なんだか…スゴくHな気分に♡)」
凄いことをお願いしてしまった。初対面な男性に口づけをせがむなんて何て私はハシタナイの?。それでも彼が側にいるとゆうだけで、抑えきれない衝動に駆られてしまった。もしも私を求めてくれたなら全身全霊で尽くしたい。苦痛だらけの初体験を無かったことにはできなくとも、女である私の想いを、身体を、汚されたままで死にたくない。だからレオさんに…
「ゴクリ。……え…ええっと。……い、いいかな?。………リン。」
甘え過ぎだと解っていても、この心が、身体が、そして私の中の卑しい女が、このヤツカド・レオを求めてしまう。触れられたいと願ってしまう。抱かれたいと初めて強く思ってしまった。身を起こした私の肩に、暖かくて大きい彼の手がそっと置かれる。見つめあったままで顔を寄せあった。
「はい…レオ…さん。よ…よろしく…お願いします。(じ!人生で初めてのキスだぁ!。良かったよ〜私にも初めてが残っててぇ。レオさぁん♡)」
わたしは顔を少し上げて目を閉じる。夢にまで見た初恋の男性とのキスはどんな味がするのだろう?。甘いのかな?それとも酸っぱいのかしら?。肩に優しく置かれている大きな手が、少し震えているみたい。今…もし私が目を開いたら、きっと二人で笑ってしまうかも。ものすごく緊張する。
「レオちゃ〜ん?すずめちゃんが来ましたよ?。あらら♪お邪魔しちゃったみたいですね?。あ…気になさらずに〜どうぞ続きを♪。うふふっ♡」
突然にかけられた声。その途端に私の肩から温かさが離れてしまった。カスミ先生が奥の部屋から顔だけを出して囃し立てている。驚きに固まってしまったレオさんと、目を開けてしまった私は見つめ合うようになっている。そして襲い来た気恥ずかしさから…私たちは眼を逸らしてしまった。
「…あ。……ごめんリン。…痛み止め取ってくるよ。(…カスミさんめぇ。次の夜食は激辛にしてやるぅ!。…彼女の肩…柔らかくて温かだったなぁ)」
「う、うん。(えーっ!あと数センチだったハズなのにーっ!。…でも…嫌がられなかったし…チャンスは毎日あるわ♪。…レオさん、かわいい♡)」
ラブコメ漫画で有りがちな残念シーンが、まさかわたしとレオさんの間に降りてくるだなんて。でもこれは良い兆しなのだと思いたい。徳元裕二とゆう卑劣な変態に、ボロボロにされて絶望していた私を、励まして、支えようとする八門獅子を信じると決めた。彼を私の心の拠り所にするのだ。
義両親の心中事件から三年。ほとぼりが冷めてからも他人に頼ることをしなかった私は自ら孤独を選んできた。それも今日でやめてしまおう。たとえレオさんに騙されたとしても恨まないと思う。私に『生きろ』と言ってくれたし『死ななくて良かった』と喜んでくれたのだ。それだけでいい♪