(それにしても、ほんと、坪井くんて距離が近い……)
ネクタイを至近距離で眺めてしまえる距離。
嫌なわけではない。
きっと嬉しい。 けれど、そう思う時の反応の仕方がわからないから。
ごく普通に、坪井の問いかけに答えることしかできない。
「……た、たまに営業部の仕事手伝うよ。 簡単な入力とかだけ」
「それは知ってるよ、ありがとな。でも俺今日は無理な量渡してない」
誰に、と聞きそうになって真衣香は咄嗟に飲み込む。
坪井が事務処理を渡すなら小野原だし、真衣香はその通り小野原からこの仕事をお願いされた。
「明日の朝一にまとめておかなきゃいけないとかで。 誰も手が空いてないって」
「え、ないない、手空いてないとか有り得ない。小野原さんも森野もお前より先に帰ったし」
坪井がそう返してきて、2人の間には何とも言えない沈黙が訪れた。
「んー、なるほどなぁ。 へぇ〜、そっかそんな感じか」
「なに?」
ひとり納得したように頷いたと思えば、深く背もたれにもたれ脚を組み真衣香の肩に頭を乗せた。
「いや、こっちの話。 てか今日はお前と飯でも食って帰る気満々だったし」
そう言って真衣香のキーボードを少し引っ張って奪い、資料も見ずに数字を打ち込む。
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