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桃 精神科医、青の親友
青 不安障害、桃の親友
青side
最後に見た母さんは怒った顔だった。
母『死ねッ!!お前なんか死んでしまえ゛ッ!!!』
青『ごめんなさいッ、ごめッ』
確か、僕が15歳の時。
双極性障害の母さんを必死に支えていた。
支えているつもりだった。
この日の母さんは酷いパニックを起こしてしまって
割れた皿を投げられて、顔も首も傷だらけになった。
恐怖に心を支配された。
このままじゃ殺される。
直感的にそう思って、僕は必死に母さんを突き飛ばして家を飛び出した。
その後、桃くんが病院まで連れていってくれたらしいが、パニックになっていた僕はあまり覚えていない。
そして、今。
僕は桃くんとシェアハウスをしている。
桃『青、支度終わった?』
青『うん、多分大丈夫』
お母さんの世話に忙しくて見た目なんて気にしたこと無かったから自分の見た目に自信を持てない。
桃『うん、今日も完璧』
青『へへ、ありがと、笑』
今日は病院へ行く日。
本当は行きたくない。
だって薬を飲んでも不安は無くならないし。
なんなら母さんを思い出して辛くなるし、。
でも、元気に振舞ってればきっとお薬なくしてくれるよね。
それに今日は本当に体が軽いんだ。
桃『今日は電車で行く?タクシーで行く?』
最近少し調子がいいから桃くんは僕に選択肢を与えてくれるようになった。
青『んー、電車っ!』
桃『ほんとに?』
青『ほんとーっ!』
なるべく明るく、笑顔で答える。
きっと大丈夫。
大丈夫、
桃side
最近の青は少しおかしい。
目のクマは酷くなる一方なのにどんどん明るくなっていく。
これを回復と思ってはいけない。医師としての俺が言う。
電車で行くと言ってはいるが手が震えている。
桃『ほんとに?』
青『ほんとーっ!』
一応確認してみるが引き攣った笑顔で答える青。
こういう時は必ずと言っていいほどパニックを起こす。が、ここで止めてしまうともっと酷いパニックを起こす可能性がある。
無理をしすぎた時には俺が止めるとして、今は好きにさせてやろう。
桃『行くぞ』
青『うんッ!』
電車.
桃『青、あいてるから座りな』
青『桃くん座りなよッ!僕元気だし!』
桃『(そんな疲れた顔してよく言うよ)』
電車には似つかわしくない少し大きな声で話す青。
きっと気づいていないのだろう。判断が鈍るのも精神疾患にありがちな症状だ。
桃『青体幹ないんだから座れって笑』
青『ふへ、ごめんねッ、!』
青side
乗客の声、足音、服が擦れる音。たくさんの音で少し落ち着かない。
今日は日曜日だからいつもより人も多い。
桃くんに立たせちゃってる。
今も優しく手を握ってくれる桃くん。
大好きな桃くんが離れないでいてくれるとすごく安心する。
でも、それと同時に不安になる。
迷惑だと思ってるかな
僕がいなければ休みの日もちゃんと休めてただろうな
僕がいなければ
いなければッ
桃『…ぉ』
桃『あーお、!』
青『びくっ、』
桃『ん、こっち見れたね』
桃『大丈夫だよ~、』
青『ッあ、はぁッ、かひゅッ』
桃『深呼吸しよっか、吸って~』
青『すぅッ、けほっ』
桃『吐いて~』
青『はぁッ、ふ』
桃『うん、すぐ戻ってこれたな、偉い(撫』
青『ふッ、ぐすっ』
桃『ちょっと怖くなっちゃった?』
青『んッ、(頷 』
また、迷惑かけた。
ちゃんとしなきゃ。
はやく元気にならなきゃ。
青『も、だいじょぶッ、!』
ちゃんと笑わなきゃ。
元気にならなきゃ。
桃side
青の息が上がっていることに気づき、すぐに声をかけて深呼吸を促す。
青『も、だいじょぶッ、!』
いつもならこの時点でかなり疲れているはずだ。
なのに元気すぎる振る舞い
これは…不味いかもしれない。
病院に入るとなんだか騒がしい
患『いやッ!!触らないでッ!!!いやぁあ!!!』
ここは精神科病棟。患者がパニックを起こすのは日常茶飯事だ。
桃『青、ちょっと行ってくるけど待てる?』
青『うんッ、』
桃『絶対ここから動かないでね』
少し心配だが他の医師が来る様子もないのでパニックを起こした患者の元へ向かう。
桃『こんにちは、精神科医の桃といいます』
桃『聞こえるかな~、』
患『ぁ゛あッッ!!いやぁぁあッ!!!!』
一向にパニックが収まる気配がない。
医『すみません、担当医です。あとは任せてください』
桃『あッ、ありがとうございます!』
担当医師の対応によって、個室へ移動していった。
安心して青の方を見ると、外へ出ようとしている。
青side
誰かが叫んでいる。
お母さん、家から出てきたのかな。
行かなきゃ。
お母さんが死んじゃう。
お母さんが、誰かを傷つけちゃう。
桃『青?どこ行くの?』
青『か、帰らなきゃ、お母さんが死んじゃうッ、』
お母さんが暴れたときの恐怖が蘇る。
でも、行かなきゃ。半泣きになりながら歩く。
桃『青、お母さんはいないよ』
桃『入院したんだよ、安全な病院で、死んじゃわないように』
青『だめッ、死んじゃうよぉ゛ッ』
なんで、なんで行かせてくれないの。
青『やだッ、行かせてよ゛ッ!!』
外へ出ようとしたら腕を掴まれた。
青『やだぁッ!!やめて!』
怖い、だれ。
だれ、はなしてよ。
青『ぃ゛やぁ゛ぁッッ!!』
桃side
外へ出ようとする青を止めるとしきりに『帰らなきゃ』と言い出した。
青の母親は青を傷つけた日に閉鎖病棟へ入院となった。
母親から離れて3年が経つというのに青はまだ縛られ続けている。
桃『青、お母さんはいないよ』
青『やだッ、行かせてよッ!!』
桃『青、大丈夫大丈夫』
青『ぃ゛やぁ゛あッッ!!』
声をかけてもパニックは重くなるばかり。
もう声が届いていない。
近くにいる看護師に鎮静剤を持ってくるよう指示して青が自傷に走らないよう抱き寄せる。
看『先生、持ってきました』
桃『青、ちょっと痛いよ~』
暴れる青に注射し、少しするとがくっと脱力する。
一時的に青を保護室へ入れることにした。
起きた時の様子を見て今後の青への対応を決める。
桃『ごめんな、( 撫』
小さく寝息をたてる青はまだ10代の子供だということを実感させる。
桃『はやく、解放されればいいのにな…』
小さな頭を撫でると、少し表情が和らいだ気がした。
青side
夢.
母『青、一緒に死のう?ねっ!』
青『まって、おかあさッ、 (泣 』
死なないで。
いい子にするから。
どんなに大変でもお母さんが大好きだから。
頑張るから。
おいていかないで。
母『死ねッ!!しねぇ゛えッッ!!!!』
やだ。
やだ。
死にたくない。
助けて。
青『桃にッ』
ぱちっ、
青『ひゅッ、 ポロポロ』
どこ、ここ。
ベッドとトイレしかない。まるで刑務所だ。
誰もいない。
お母さんは?
帰らなきゃ。
扉に手をかけるも鍵がかかっているようで開かない。
青『やッ、なんでッ、』
青『やだッ、やだぁ、ッ』
青『おかあさッ、やだッ、 ポロポロ』
桃side
青が目を覚ましたと聞き、急いで向かう。
小さな窓から部屋を覗くと青が床にぺたりと座り込んで泣きじゃくっている。
部屋から飛び出すのを防ぐために声をかけずに部屋に入り、 内側から鍵をかけたことを確認してから青に近づく。
桃『青、1人にしてごめんね 』
青『やだッ、おかあさッ、 ポロポロ』
俺を認識出来ていない。
桃『俺だよ、桃にぃちゃんだよ』
俺たちは小さい頃からの仲だ。
今は「桃くん」と呼ばれているけど昔は「桃にぃちゃん」と呼んでくれていた。
青『ぁ゛ぁあッッ!!』
髪を引っ張り始めてしまった。
桃『青、大丈夫だよ、ここにいるよ』
優しく手を包み込んで自傷を止める。
青『桃、くッ ポロポロ』
青『たすけてッ、』
桃『助けるよ、大丈夫』
しばらく背中を擦りながら深呼吸を促すと落ち着いてきた。
桃『青、こっち見れる?』
青『ん、桃くッ、ここやだッ ポロポロ』
桃『ここはね、保護室っていうところ』
青の手を取って部屋の中の隅々まで説明する。
とは言っても部屋にはトイレとベッドしかないのだが。
青『桃くん、出してッ、ここいや、ポロポロ』
時計すらないこの部屋は青を守ると同時に追い詰める。
桃『ごめんね、明日大丈夫だったら出ようね』
青『帰らなきゃ、』
桃『青、お母さんはすごく安全なところにいるから絶対死なないし、誰かを傷つけることもないよ』
青『帰るッ、かえるのぉッ』
回診の時間が迫っている。
桃『後でもう一回来るから、それまで待てる?』
青『…..ぅん、』
桃『偉いな ナデナデ』
俺は青をベッドに座らせてから部屋を出た。
青side
保護室。
昔お母さんが入れられていた。
僕は保護室で暴れるお母さんが怖くて怖くて仕方なかった。
僕も、頭がおかしいのかな。
僕も、あんなふうになるのかな。
青『ぐすっ、ぅ゛ぅ〜〜ッ(泣』
今、何時なんだろう。
窓も時計もないこの部屋では時間が分からない。
この部屋にいるのが嫌で嫌で、まだ塞がりきらない腕の傷を引っ掻いたり噛んだりしていると桃くんが入ってきた。
青『桃くッ!』
桃『おはよう青、腕血出ちゃうから引っ掻いたらだめだよ』
青『んッ、わかったっ』
桃『寝れた?』
青『んーんっ』
桃『眠くないの?』
青『眠くないっ』
桃『そっか』
青『ここから出れる?』
桃『昨日より落ち着いてるから出よっか』
青『うんッ、』
桃『看護師さんが連れていってくれるからね』
青『んッ、うんっ』
桃side
一通りの回診を終え、最後に青の元へ向かう。
桃『青、』
青の表情がぱぁっと明るくなる。
青『桃くんっ、ね、帰ろッ』
桃『ここいや?』
青『やだッ、カッターほしいッ』
元気に見えてもやはり心は壊れてしまっているんだ。
気づけなくてごめんな。
桃『カッターは渡せない』
桃『青、ご飯は?』
青『いらないッ!!』
走り出してしまった青を追う。
青『なにこれッ、』
精神科病棟と一般病棟との境目には鍵付きの 扉があるため外へは出られない。
青『開けてッ、あけてよ゛ッ!!』
青『ぃ゛やぁ゛ぁ゛あッッ!!!!』
耳を塞いでうずくまってしまった。
桃『青、あーお、』
半ば無理やり腕を頭から離す。
青『やめ゛てッ!!』
青『ぎゃぁぁッッ!!』
桃『青、大丈夫だよ』
青『ひゅぅッ、かひゅッ、はッ』
桃『青、聞こえる?』
過呼吸を起こしている。パニックがどんどん重くなる。
桃『青、お薬飲も』
青『ぁ゛ぁあッッ!!!!』
液状の薬を口に入れる。
相当苦いはずだが反応はない。
桃『青、深呼吸しよう』
青『ぃ゛やぁッ、かひゅッ』
青『ん゛ぅッ、ふ』
くたっと脱力した青。薬が効いてきたのだろう。
青side
なんだか頭がふわふわして、窓の外をぼーっと見つめていると聞き慣れた暖かい声が聞こえる。
桃『青、』
早く、早く帰りたい。
青『桃くんっ、ね、帰ろッ』
桃『ここいや?』
嫌に決まってる。
青『やだッ、カッターほしいッ』
桃『カッターは渡せない』
なんで、なんでよ。
桃『青、ご飯は?』
青『いらないッ!!』
早く帰らなきゃいけないのに。
なんで邪魔するの。
青『なにこれッ、』
外に出ようと扉に手をかけても、扉は開いてくれない。
青『開けてッ、あけてよ゛ッ!!』
青『ぃ゛やぁ゛ぁ゛あッッ!!!!』
どうして分かってくれないの。
どうして帰らせてくれないの。
桃くんは、桃くんなら分かってるれるでしょ。
邪魔しないでよ。
桃side
青が入院してから1ヶ月が経った。
ここ1週間ほどは重い鬱状態が続いているためとりあえずパニックの心配はない。
桃『青、おはよう。こっち見れる?』
青『…….』
反応がない。青の耳には俺の声が届いていないのか、はたまた俺を認識できていないのか。
今、青はどこにいるのだろう。
3年前の母親に会っているのだろうか。
それとも幼い頃の、母親が精神疾患に侵される前に戻っているのだろうか。
青『ぁ…ぅ』
青が小さく呻くような声を出す。
桃『どうした、?』
できるだけ優しい声色で、青色の瞳を覗きこむ。
青『桃、く』
桃『うん、そうだよ。戻ってこれたね (撫』
久しぶりに目が合った。起き上がることすらままならなかったのに名前を呼んでくれるなんて嬉しい。
桃『青、ご飯食べる?』
ここ最近はずっと点滴からの栄養しかとれていなかったから少しでも口にして欲しい。
青『……. (涙』
桃『どうしたどうした…』
突然涙を流す青。俺の言葉が届いているかは分からないがきっと俺だって分かっているんだよな。
青『ぐずっ、』
桃『青は偉いね。生きててえらい。生きててくれてありがとう。』
しばらく背中を擦りながら話しかけていると落ち着いたようで涙が収まってきた。
桃『ご飯食べよっか』
箸を持たせようとするも力が入らないようで落としてしまう。
青の小さな手ごとスプーンを持って少し冷めたスープを口に運ぶ。
桃『はい、あーん』
口は開けてくれるが半分ほど溢れている。それでも口を動かしてくれるだけで安心する。
桃『お腹いっぱいかな、』
スープを半分ほど飲んだところで口を開かなくなったため食器を片付け、薬を飲ませることにした。
桃『青、また明日来るからね。』
青『…….』
またぼーっと窓の外に向いてしまった青の背中を名残惜しく思いながらも俺は仕事へ戻った。
青side
ずっとお母さんの声が聞こえる気がする。
ここは叫び声がいつも聞こえるからもしかしたらお母さんじゃないかもしれない。
桃くんの声が聞こえた気がしたけど頭も体も言うことを聞いてくれなくてなんて言ったのかもよく分からない。
本当におかしくなってしまった自分が怖くて涙が出たけど、桃くんが抱きしめてくれたから少し安心する。
今自分が何をしてるかすらよく分からなくなった頃、僕はいつの間にか眠っていた。
目が覚めると昨日までが嘘みたいに体が軽くて、嬉しくて嬉しくて涙がでた。
看『青くんおはよう』
青『おはようございますっ』
看『あら今日は調子良さそうね~』
青『僕どれくらい動けなくなってたんですか?』
看『うーん、確か1週間くらいかな』
青『そんなに…』
1週間も経っていたなんて。
早く桃くんに会いたい。迷惑かけてごめんねって言いたい。
そして、2人で家に帰るんだ。
きっと元気な僕を見れば安心してくれるよね 。
なんだかんだ入院してから1ヶ月ほとんど動けていなかったから自分でご飯を取りに行くのも初めてだ。
自分の病室で静かに手を合わせる。
青『いただきまぁすっ』
久しぶりのまともな食事。
ずっと食べてないのに死なないのが不思議だったけど腕の注射痕を見るに寝てる間に点滴を刺されていたみたいだ。
青『美味しかったぁ』
全部食べられた。
こんなに元気なんていつぶりだろう。
やっぱり僕はまだまともだったんだ。
食べ終わった食器を戻して部屋に戻ろうとしたところで薬を飲む時間を知らせるアナウンスが流れる。
青『あっ、忘れてた…』
たくさんの患者の後ろから人が少なくなるのを待つ。
暗い顔をしている人もいれば明るく看護師さんと話している人もいる。
こうして見るとみんな”普通の人”みたいだ。
僕もこんな風に見られてるのかな。
青『、?』
誰かが走ってくる。
桃『すみませんッ、青がいなくてッ!』
慌てた顔をした桃くん。
そういえばまだ今日は会っていなかった。
青『桃くんっ!』
桃『青?!ここにいたのか…』
安心した、とでも言うように胸を撫で下ろす桃くん。
心配してくれてたのが分かって少しこそばゆい。
青『あのねっ、今日はなんか体が軽いのっ!』
桃『そっかそっか、昨日は寝れた?』
僕の頭を撫でる大きな手。
どんなに辛くても苦しくてもこの手のおかげで耐えられた。
青『ううん、でもッ、絵描いてたのっ』
青『死にたくなっても首縛ったりなんかしなかったんだよっ、』
桃『青、寝られないときは横になって目閉じててって言ったよね』
そんなこと言われたっけ。よく 思い出せない。
どうしてそんなに悲しそうな顔をするの?
僕はこんなに元気なのに。
ねぇ、ちゃんとご飯も食べられたよ。
なんで褒めてくれないの?
なんで、なんでよ。
桃side
青の回診に向かうとベッドはもぬけの殻。
どこかでパニックを起こしている?迷子になっている?
嫌な想像が頭の中を巡る。
どちらにせよ早く探さなければ。
青がまず病室から向かうなら出口だ。
今は丁度お昼。薬を受け取るためにたくさんの患者が集まっている。
桃『すみませんッ、青がいなくてッ!』
青『桃くんっ!』
青担当の看護師に声をかけると元気な声が聞こえてくる。
桃『青?!ここにいたのか…』
とりあえずパニックを起こしていた訳じゃなくて良かった。
青『あのねっ、今日はなんか体が軽いのっ!』
そう言う青の顔にはクマがくっきりと刻まれている。
桃『そっかそっか、昨日は寝れた?』
青『ううん、でもッ、絵描いてたのっ』
青『死にたくなっても首縛ったりなんかしなかったんだよっ、』
やっぱりか。
桃『青、寝られないときは横になって目閉じててって言ったよね』
そう言うと、青は悲しそうな顔をする。
どうして褒めくれないの、とでも言うように。
目に涙を貯める青を見ると心が痛むが、今褒めてしまったら青が無理をすることを肯定してしまうことになる。
そうすれば青はもっと自分を追い詰めるだろう。
青『ね、桃くん帰ろっ』
青『僕もう元気だよ、ッ』
縋るように俺を見る青。
本当なら、すぐにでも一緒に家に帰りたい。
でも。
桃『ごめんな、青』
桃『まだ帰れないんだよ』
青『なんでよ、ッ!』
ついに溢れ出した涙が青の頬を濡らす。
桃『青は今すごく元気に感じてると思う』
桃『でもね、今の青はいわゆる「躁状態」』
桃『今元気でも、反動ですごく落ち込んじゃうの。』
桃『それが「鬱状態」』
桃『今はその差がすごく大きくて、辛いと思う。』
桃『だから、少しづつ少しづつ、差を小さくして、躁と鬱の間の状態にしていくの。』
青の手を優しく握る。
青の手は、小さく震えていた。
桃『青は元気じゃなくていいんだよ。俺は元気な青も好きだけど、そのままの青が大好きなんだよ。そばにいるだけで嬉しいんだよ』
そう言うと、ほっとしたように青はぽろぽろと涙を流しながら笑った。
この笑顔が、普通になるように。
ずっとずっと支えるから。
桃『青。部屋戻ろっか』
青『桃くん、』
真っ赤になった目でこちらを見つめる青。
桃『ん?』
しゃがんで目線を合わせると、勢いよく抱きついてきた。
桃『うおっ、』
体制を崩しながらも何とか受け止める。
青『だっこがいい、』
照れながら言う。
青が「帰りたい」以外ではじめてわがままを言った。
桃『もちろん』
これが、大きな1歩だ。
この小さな笑顔から、青が「幸せ」と言ってくれるまで。