テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
K-Takasaka
22
#人狼
#思わず笑ってしまうお話
K-Takasaka
134
朝のシェアハウスには、静かな時間が流れていた。
キッチンでは、アオノが無言でコーヒーを淹れ、マサカゲがテーブルの上に朝食を並べている。ミステーは窓辺に立ち、ピラミッドの被り物をかぶったまま、庭の植木をじっと見つめていた。
「太陽は今日も東から出ている」
「毎日そうだ」
マサカゲがトーストを皿に置きながら答える。
「しかし、昨日より少しだけ右にいる」
「ミステー、それは時間の問題だ」
「太陽にも迷う日がある」
「ない」
リビングのソファでは、K-Tが黒色の硬いガラケーを開いていた。アンテナは伸ばしていない。画面を確認しながら、黙々と朝の予定を整理している。
そのとき、階段の上からカキが姿を現した。
右手にはフライパン。
左手にはお玉。
「よし、メバルちゃんを起こしに行くか!」
マサカゲが顔を上げる。
「普通に声をかけろ」
「声をかけても起きないんだよ。昨日も三回呼んだのに、寝ながら『あと五分』って言って、その五分を四回繰り返した」
「それは合計二十分だな」
アオノが淡々と計算する。
「今日は確実に起こす! 朝ごはんもできてるし、みんな待ってるからな!」
カキはフライパンとお玉を持ち上げた。
「待て、カキ」
K-Tが短く言う。
「何だ、Kさん?」
「それは危険だ」
「大丈夫だって。叩くんじゃなくて、音を出すだけだ」
「音が危険だ」
「問題ない!」
「それは俺の台詞だ」
K-Tがカキを見つめる。
しかし、カキはすでに階段を上り始めていた。
「メバルちゃん、起きろー! 朝だぞー!」
返事はない。
カキはメバルの部屋の前で立ち止まり、フライパンとお玉を構えた。
「いくぜ……!」
「やめろ、カキ」
マサカゲの声が階下から飛んでくる。
「遠慮するなって言われた!」
「誰も言っていない!」
次の瞬間。
カン、カン、カン、カカカカカン!
フライパンをお玉で叩く音が、家中に響き渡った。
窓が震え、テーブルの上のスプーンが跳ね、ミステーの被り物がわずかに傾く。
「音が家の形を変えた」
ミステーが真剣に呟いた。
「変わってない!」
マサカゲが叫ぶ。
部屋の中から、低い声が聞こえた。
「……んー……?」
カキはさらに勢いをつけた。
「メバルちゃん! 朝だぞ! 起きろー!」
カンカンカンカンカン!
「やかましい……!」
扉が勢いよく開いた。
寝ぐせのついたメバルが立っていた。目は半分しか開いておらず、普段の明るい笑顔はどこにもない。
手には枕。
髪はあちこちに跳ねている。
カキは得意げにフライパンを掲げた。
「おはよう、メバルちゃん! どうだ、これなら――」
「カキちゃん」
「ん?」
「今、何時?」
「七時!」
「朝ごはんは?」
「できてる!」
「今日は何曜日?」
「えーっと……」
カキが腕時計を見ようとした、その瞬間だった。
メバルは無言でカキの腰に腕を回した。
「えっ?」
「起こし方が!」
メバルの足が床を踏みしめる。
「乱暴すぎるんだよーっ!」
次の瞬間、カキの体がふわりと浮いた。
「うわあああああっ!?」
メバルはそのまま、カキを廊下の端へ投げ飛ばした。
もちろん、そこにはあらかじめ置かれていた大きなクッションがあった。カキはクッションの山に突っ込み、フライパンとお玉を手放しながら、ぽすん、と埋まる。
「……着地成功!」
「成功じゃないよ!」
メバルは肩で息をしながら叫んだ。
「朝が弱い人を、フライパンとお玉で起こす人がある!? 普通は優しく声をかけるの! 肩を揺するの! カーテンを開けるの!」
「全部やったぞ!」
クッションの中からカキが顔を出す。
「声をかけたし、肩も揺すったし、カーテンも開けた! でも起きなかったから最終手段だ!」
「最終手段が打楽器なの!?」
メバルはフライパンを拾い上げ、カキをにらんだ。
「しかも、わざわざ私の部屋の前で……!」
「でも、起きただろ?」
「起きたけど、怒りで起きたの!」
階下では、マサカゲが額に手を当てていた。
「だから普通に起こせと言ったんだ」
「カキは朝から元気だな」
アオノがコーヒーを飲む。
「現在のメバルの覚醒度は、通常時の八十七パーセント。怒気による一時的な上昇が確認できる」
「測らないでよ、アオノちゃん!」
ミステーがクッションから這い出したカキの前にしゃがみ込む。
「カキは今、布団ではなく雲に着地した」
「雲じゃない。クッションだ」
マサカゲが訂正する。
「つまり、空に近いクッションだ」
「何も解決してないよ、ミステーちゃん」
メバルは大きく息を吐き、ようやく少し落ち着いた。
「……カキちゃん」
「はい」
「次からは、もっと普通に起こして」
「分かった!」
「本当に?」
「次は鍋にする!」
「そういうところだよ!」
メバルがフライパンを握り直す。
カキは反射的にクッションの後ろへ隠れた。
そのとき、リビングからK-Tが歩いてきた。手には、いつの間にか伸ばされていたガラケーのアンテナ。警棒の形になっている。
「カキ」
「はい、Kさん!」
「朝から騒ぐな」
「ごめん!」
「メバル」
「はい……」
「投げるなら、もっと低く」
「指導するところ、そこ!?」
メバルが目を丸くする。
K-Tは淡々と続けた。
「高く投げると危険だ」
「いや、投げないように言ってよ!」
「クッションがあれば問題ない」
「問題あるよ!」
マサカゲがため息をつきながら、テーブルを指さした。
「全員、朝食にしろ。冷める」
カキはクッションの陰から出て、髪についた綿を払い落とした。
「メバルちゃん、朝ごはん食べようぜ!」
「その前に、カキちゃん」
「何だ?」
「フライパンとお玉は、ちゃんと洗って片づけること」
「分かった!」
「あと、明日から起こす係は禁止」
「ええっ!?」
「当然でしょ!」
メバルはぷいと顔を背けた。しかし、テーブルにつくと、カキの皿にだけトーストを一枚多く置いた。
カキが嬉しそうに笑う。
「メバルちゃん、やっぱり優しいな!」
「怒ってるけど、朝ごはんは別なの!」
「仲間思いだ」
マサカゲが微笑む。
「メバルちゃんは面倒見がいい」
アオノも頷いた。
「ただし、起床直後の接触には注意が必要」
「みんなで私を危険物みたいに扱わないでよ!」
ミステーがトーストを見つめる。
「メバルは朝、冬眠から目覚めた熊に似ている」
「ミステーちゃん、今すぐその発言を撤回して」
「しかし、熊にも朝食は必要だ」
「そういう問題じゃない!」
シェアハウスには、いつものようにメバルのツッコミが響いた。
カキは投げ飛ばされたことなどすっかり忘れた様子で、トーストを頬張っている。マサカゲは全員の飲み物を確認し、アオノは壊れかけた時計を修理し、ミステーは植木に朝の挨拶をしていた。
そしてK-Tは、何事もなかったようにガラケーを閉じた。
「明日の起床担当は、俺がやる」
「Kさんなら安心だな!」
カキが言う。
メバルは一瞬ほっとした顔をした。
しかしK-Tは、黒色のガラケーを持ち上げた。
「アラーム音は最大にする」
「Kさんもフライパン禁止ーっ!」
朝のシェアハウスに、再びメバルの叫び声が響き渡った。
コメント
1件
読了したよ〜!📖✨ もう朝からめっちゃ騒がしくて笑った😂 カキちゃんのフライパン&お玉作戦には「そっち!?」ってツッコミ入れたくなったけど、メバルちゃんに投げ飛ばされるまでがワンセットで面白すぎるw K-Tさんの「投げるならもっと低く」がなぜか一番クセになるアドバイスだった…あれは指導なのか?🤔 最後にトースト多めに置くメバルちゃん、怒ってるけど優しすぎて尊い…🥺💕 賑やかで愛しいシェアハウス、続きも楽しみにしてるよ〜!🌸