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「お前にはいつか話さなきゃいけないとは思っていた。だが、いつの間にか私たちのせいでお前は結局ずっとフラフラとした生活を送るようになってしまった。だからそれを話す前に、いつか誰かを守れるしっかりした人間になれるように、私の会社に入らせて一から鍛え直そうと思ったんだ」


そう樹に話す社長の口調からは、樹への心配と優しさ、どちらもが伝わって。

社長の厳しさは樹への愛情があるからこそ。

だけど、きっとその時の樹は気付けなかった。


「だから急にオレを縛り付けるようになって厳しくしてたってワケか・・」


社長のその言葉にようやく納得したような口調で呟く樹。


「お父さんと約束してたのよ。私がもし夢を叶えることが出来たら、それからは樹はお父さんに任せるって。本来はあなたは立派なお父さんの元で育ててもらうはずだったのに、私の我儘で側にいてもらってたのだから」


そっか。

最初から二人で決めてたことだったんだ。

例え離れても、二人にとって樹は大切な存在で。

そして樹の存在が、きっと二人を繋ぐ絆にもなってる。


「オレは母さんの側にいれて良かったって思ってるよ。実際フラフラしてたのは多分オレの甘えだったんだろうと思うし。まぁ実際やりたいこともなかったし将来も何も期待とかしてなかった。その場その場でなんとなく生きてたんだよね。だから親父の会社に入ることになっても、正直最初は全然やる気もなかったし、会社継ぐとか想像も出来なかったし」


きっとそれが私と最初にこの会社で出会った時。

新人研修の時、何に対しても投げやりで興味も無さそうで。

だけど、それはホントにやる気がないとかそんな感じじゃなく、なぜか少し寂しそうで。

ちょうど樹はその頃、母親の力になりながらも、父親に力になってもらってたことが、もしかしたらもどかしかったのかもしれない。


「それが、いつの間にかお前が変わったのは、その望月さんの影響か・・?」


静かに社長が樹に尋ねる。


「そう。どうしようもないオレを救ってくれたのが彼女。新人研修の時に、彼女がオレの指導についてくれて。正直まだその時のオレは当然やる気もなかった。でも適当に生きてたオレを、彼女は否定することなく、オレの気持ちに寄り添ってくれた。今のオレでいいんだって、自分に嘘ついてムリして生きなくていいんだって。その時に聞いたんだよね。彼女が母さんのブランドのネックレスから頑張れる力をもらえてるって」


なぜか放っておけなかった。

どこか寂し気だけれど、どこか耐えてるような、一人気を張って頑張ってるようなそんな気がして。

なんとなく。

自分に似ているような、そんな気がしたから。


「それがさっき言ってたうちのネックレスね?」


REIKA社長にパーティーで話したこと、ちゃんと覚えててくれたんだ。


「そう。それ言ってた彼女がすげぇ輝いててさ。母さんが夢見て頑張って来た想いがさ、ホントにそうやって届いてるってわかって、めちゃめちゃ感動して嬉しかった。こんなに笑顔にして幸せな気持ちにさせて頑張れる力になってるんだなって。それでオレにも自分みたいにそんな頑張れる理由を探してみたらって言ってくれた。なんかさ、それでホントにオレ一瞬でその時世界が変わったんだよね。それから彼女がオレの頑張る理由になった。彼女の存在で初めてオレは変わることが出来た」


何気ない出会いと何気ない言葉が、お互いを勇気づけて。

だけど、どれも自分自身を信じたくて、届ける想いや言葉。

REIKA社長はそのネックレスに想いを込めて。

そして私はそのネックレスに力をもらえて頑張れる力になって。

そこからまた樹にまた繋がる想いや言葉。

樹が世界が変わったように、私も樹に出会って世界が変わった。


「そこからか・・・お前が急に別人のように仕事に力を入れるようになったのは」

「そう。彼女の隣に胸張って立てるように、そこから自信も実力もつけた」

「正直私もお前がここまで変わるとは思ってなかった」

「全部彼女のおかげ。彼女がいるから今のオレはいる」


この社長の言葉で想像出来るくらい、それからの樹はきっと変わった。

私が同じ会社で活躍している姿を知っても、あの時の彼だと気付かないくらい。

あの時の少しやる気のなかった少し寂しそうなあの時の彼は、そこにはもういなくて。

顔つきからも佇まいからも、自信とやる気がみなぎっているような頼れる男性として存在していた。


そして、今。

その彼が、両親の前で堂々と自分への想いを伝えてくれていることが、すごく幸せで嬉しかった。

本気になってはいけない恋

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