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1.僕らの馴れ初め、ならびに自己紹介
軽くジャンプして背中にしがみついているリュックの位置を直してから、学ランの第一ボタンを開ける。
ふぅ、。
中学時代にはぶかぶかに感じていた学ランが、最近急に窮屈に感じだした。
ボタンを開けておくと母さんに「あんた!だらしない!」て言われるけど、こうやってしていないと首が詰まって詰まって堪らない。
足にガタンゴトン、、と振動が伝わってきて、続いてプシュワァーーーと、間抜けな音を立てながら電車が駅に着いた。
並んでいる人達の波に流されながら車内に入り、いつもの位置へ。
ここには座席がない代わりに、腰の高さくらいの所に鉄のポールが二本設置されている。
完全に座ることは出来ないが、軽く体をもたれることが出来るのだ。
僕はいつも通り、体の重心を後ろへ傾けてそこに重いリュックを預けた。
そして、いつも通り、斜め向かいの、ドアの窓から外の景色をぼーっと見つめているあの子を見つめる。
同じクラスの北野優希だ。
僕らの学年で知らない人はいない。
クラスの、、いや高校のマドンナ的存在。
眉目秀麗
この年代の女子にしてはかなり高い身長と、すらっと伸びた四肢のお陰でスタイルはモデル級。
成績も、この学年ではトップクラス。
それでいて控えめでおしとやか。
友達の話を、いつもにこにこと微笑みを零しながら聞いている。
高嶺の花とは彼女のことだろう。
あぁ、一応僕の説明も。
はじめまして、横田駿です。
僕はというと、成績も、容姿もぱっとしない、
クラスの中心的存在という訳でもない、かといって、いじられ役になる訳でもない、平凡オブザ平凡な学生。
僕のおばさんは
「駿は目が松本潤に似てるよ!大きくなったらどんないい男になるか楽しみね!」
と僕が小学生の時から高校二年生の現在に至るまで、会う度に言ってくれる。
僕が松本潤になれる日は一体いつ来るのだろうか、、。
誇れることと言ったら、、脚、、かな。
体力は一般的な人よりかはあると思うけど、息が苦しくなりながら長いこと走り続けるのは好きじゃない。
そんな僕は中学から陸上部で短距離を専攻にしている。いや、していた。か。
小さい頃から、足の速さだけには誰にも負けない自信があった。
一応、県で1位をずっと保持し続けているし、僕の記録を抜いた人は今までいない。多分。最近は大会に出ていないからよく分からない。
色々あって僕は今長いこと部活を休んでいる。
スランプって訳じゃないけど、、まぁ。何となくという言葉で片付けておこう。
まぁとにかく。
学生なら脳みそに行くべきエナジーが、僕は全振りで脚に行ってしまったらしい。
そして高校に入ってよく分かった。
足の速さでキャーキャー言われるのは小学生までなのだと、、、。
モテるためにやってるんじゃないけど、でもなんだか、寂しいよね、、。
肩からぶら下げているスパイクの入った袋を膝で軽く蹴りながら、ただただ彼女を見つめるのが日課だ。
「おーい横田ー」
昼休み、おにぎりに齧り付こうとした時に、クラス委員の園田が声をかけてきた。
一限目から空腹に耐えてきた僕は、遠慮することなくおにぎりにかぶりつきながら返事をする。
「ん?」
「放課後暇?」
「なんで?」
こういう時にすぐ「うん」と返事をしないことはとっても大事。
現在帰宅部の僕にとって委員会の仕事を押し付けられるのは、買ったばかりの新品の消しゴムを「貸してー」と言われる時くらいの不快感を催す。
僕は慎重に園田の表情を伺いながら聞いた。
「安心しな。委員会じゃない」
僕の心を見透かす様にニコッと笑って園田が親指を立てた。
「だったらなんだよー」
「部活のアンケートを回収してきて欲しいんだ」
「えぇ、、」
「頼む。明日の朝イチでまとめないと俺が叱られるんだ。来週から総体なのは知ってるだろ?部活サボったら監督に殺される」
お前ベンチだろうが。
「はぁ。昼休みの間に行けばいいだろ?」
「何でそんなことに彼女とのランチタイムを潰されなきといけないんだよ」
僕の放課後も潰すなよ!!
そうつっこみたい所だけど、「お前放課後何も予定無いだろ」と言われればそれまでな気がするのでやめた。
非リア充民だからと言って、そんなことでネチネチと文句を垂れるほど僕の品性は低くない。
「まぁ、すぐ終わるんなら、」
「よしっ。あと出てないのは写真部だけだから、、」
写真部、?
その単語を聞いた瞬間、園田が持っていたメモ用紙を光の速度で奪い取る。
なんせ写真部には、あの北野が所属しているからだ。
「、、、」
「なるほどねー。おっけぇおっけぇ第二美術室ね」
「お前、ほんとちょろいな、」
ふん、好きに言え。
好きな人とただ接点を持ちたいと思う、この純粋な気持ちを馬鹿にされる筋合いはない。
僕は園田から貰った(奪い取った)メモ用紙を丁寧に折りたたんでポケットに仕舞うと、鼻歌を歌いながらおにぎりにかぶりついた。
僕らの教室が並ぶ南館から渡り廊下を通って反対側の南館へ。
簡単な作りを説明すると、南館は僕らの教室並ぶ棟。1年生が2階、2年生になると3階、、とだんだん上がっていく。
1階は保健室と職員室だ。
渡り廊下を介して南館は、理科室や音楽室等の移動教室達。
写真部の部室となっている第二美術室、、と言っても写真部は写真を撮るのが活動だからここに集まってるのはあまり見た事がない。
そもそもそんな活発な部活動じゃないし、部員はほぼ幽霊部員と言っていい程認知度が低い。
今日だって、ほんとに部員いんのか?
とおもいながら、北野が中にいることを期待してドアをノックする。
「失礼しまーす」
ガラッとドアを開けると、やっぱり誰もいなかった。
うーん、まぁそうだよなー
とりあえず部屋の中をうろついてみる。
部活動アンケートさえ見つければ僕の任務は終了なので、勝手に探索させていただく。
と、
「お、めずらしー。入部希望?」
後ろにあった美術準備室のドアが開く音と共にそんな声が聞こえてきた。
「あ、すいません勝手に、、」
と振り返って、驚いた。
とんでもない美少年が立っていたから。
どれくらい美少年かっていうと、男の僕でさえフリーズして顔を魅入ってしまうくらい。
着てるのは体操服のジャージ姿なのに、別に街中をその格好で歩いても全然絵になるくらいに見える。
と、体操服のロゴに気づいた。
青色のロゴ文字は1年生、
赤色だと2年生、黄色だと3年生。
彼のロゴ文字は赤色なので彼は僕と同じ2年生ということになる。
同じ学年にこんな子いたか、?
「あー、あの、部活動アンケートって、」
「アンケート?あー、、、」
美少年は僕の前を通り過ぎると、「いやーどっかで見たなー」と言いながらぐちゃぐちゃになった棚を探り出した。
彼が動く度に香る柔軟剤の匂いに、格の違いを見せつけられる。
なんで顔がいい上に匂いまで、、
ん、?
なんかこの匂い、嗅いだことあるな、、
「あ、あー!!これじゃんあったあったありましたよー」
と、美少年は紙をヒラヒラさせて僕にひょいと渡してきた。
「これで合ってる?」
「あ、うん多分。どーも」
「あれ、横田君ってこの係だったっけ?」
「あいや、係の奴に頼まれて」
「あそっかー。遅れてごめんって伝えといて」
近い。不覚にもドキドキする。
僕の恋愛対象は女の子なはずだけど、いや実はそうじゃなくて男性だったかもしれないと思わせる程のイケメン具合だ。
あれ?そういえばなんで僕の名前知ってんだろう?
彼とは面識がないし、僕の学校は名札がない。
僕が知らないだけ?
いや、こんなとんでもイケメンがいたら学年中大騒ぎだ。気づかない訳が無い。
うーん、そう言われればなんかどっかで見た事ある顔だな、、
と、
「、、横田君って、お化け好き?」
「え?」
「お化け。幽霊とか」
「ほら、心霊特番とか見た事ない?」と彼がおばけのジェスチャー付きで教えてくれたが、僕が聞きたいのはそう言うことじゃない。
「え、別に、好きでも嫌いでも、、」
「じゃあ信じる?」
「時と場合による」
「いいね。じゃあ来週の土曜、東第二公園で。」
「え、は?」
「あ、俺そろそろ行かねーと。じゃね」
机の上に置かれていたスクールバッグと、くちゃくちゃに重ねられたシャツとブレザーをまとめてがさっとかき集めると、美少年は出ていこうとする。
「あ、1時に集合ね〜!」
「え?ちょちょちょ、、」
僕の呼び掛けも虚しく、美少年は階段をかけ降りていった。
美術室に取り残された僕は唖然とする。
僕は正体不明の美少年に、公園デートに誘われてしまった。
なんだか訳が分からず、しかも一瞬の出来事だったので、狐に化かされたような気持ちになる。
「なんだあいつ、」