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2.東第二公園
土曜日の午後12時半を回った頃、奴は本当に居た。
公園のブランコの隣にあるベンチで優雅に本を読んでいる。
悔しいことに、全身ジャージ姿で足を組むその姿がとても絵になるのだ。
「、、」
散歩に来たおじさんも、公園で子供たちを遊ばせているマダム達も、先程からチラチラと奴のことを見ている。
僕は少し躊躇ったあと、奴が座るベンチへと近寄った。ズザッ、ズザッという砂を踏む音で奴は顔を上げる。そして花が咲くようなスマイル。
「お、来た」
「あ、どうも、」
パタンと本を閉じてジャージのポケットにそれをねじ込む美少年。やることは全く優雅じゃないんだな。本の角が曲がったりよれてたのはそのせいか、、。
「じゃあ行こう」
「えっと、どこに?」
「こっち」
と、手招きをされて、遊具のある広場から抜ける。
この公園はかなり広くて、遊具のある広場が2つ、野球場がひとつに、あとは広い芝生のエリアが全体のほとんどをしめている。
脚が長いからぐんぐん進んでいってしまう彼に追いつこうと、僕は早足になる。
しばらく歩くと人気の無いエリアに。両サイドに鬱蒼とした木々が生い茂る小道を通り、そのまま脇のトイレへと向かう。
なんだ、トイレに行きたかったのか。そう思って、声をかける。
「あっちにもっとキレイなトイレあったのに」
「知ってる」
そして美少年は、迷うことなく女子トイレへ入ろうとする。僕は慌てて引き止めた。
「ちょっ、ちょちょ!そっち女子トイレ!」
「知ってるよ」
「え?」
「何か問題でも?」みたいな顔でそのまま女子トイレに入ろうとするから、僕は漫才師のツッコミ担当みたいに「おいおい待て待て」と美少年の腕を掴んでそのまま外へ引きずり出す。
「何してんだよ!」
「花子さんに会いに来たんだよ」
「は、はぁ?」
急に何を言い出すんだ?
ポカンと口を開いたまま、彼の顔を見上げる。
こいつ、ほんとに頭がおかしい奴なんじゃないか、?
「何ふざけたこと言ったんだよ」
「ふざけてないよ。僕は真剣に調査しに来たんだ」
「何をだよ」
「ネットの掲示板で有名なの知らない?このトイレに花子さんがいるって」
「知らないよそもそもネットの掲示板なんて見ないよ」
「えぇ?あんなに面白いもの見ないなんて、、」
「それに、トイレの花子さんって学校のトイレだろ?なんでわざわざ公園のトイレなんだよ」
「学校なんて人目が多いだろ?もし女の子が入ってきたらどうするんだよ」
「それはここも一緒だろ?!」
「ここは薄気味悪いから子供達もよってこない。大人も近寄らないよ」
何となく言いくるめられている気がしなくもないが、第一何で僕がこんな犯罪めいた事に誘われないといけないんだ?
僕は急に怖くなって辺りをキョロキョロと見回す。
多分、、監視カメラは無い、、多分。
おかしいな、こういうじっとりしてて人目がない場所って絶対監視カメラある気がするんだけど、、
「ほら行くよ」
「うわっ、」
腕を引っ張られて女子トイレへ。
こんな奴説得しても絶対に聞かないから、仕方ない、もう手っ取り早く済ませてしまおう。
僕は美少年の背中をポンポン叩いて「早くしろよ」と念を押す。
トイレの個室は4つ。
手前側に二つの洋式トイレと、もう一つ奥は和式便所。さらにその奥は車椅子の人でもゆったり入れる大きさの多目的トイレ。
美少年は奥から二番目の和式便所の前へ。僕も大人しく着いていく。
コンコンコン
と、3回叩いてから、
「花子さん、遊びましょ」
美少年の声がトイレに反響する。ただのふざけた遊びって分かってるけど、なんだか背中がひんやりする。
少し不気味だ。
もちろん、返事は帰ってこない。
扉を2人で見つめたまま1分ほどしてから、僕は美少年の腕をちょんとこずく。
「な、もういいだろ。行こーよ。誰か来たら困る」
「しっ」
その時だった。
扉の先から、小さく、本当に小さくだけど足音が聞こえる。
コツン、コツンと、時折ピチャンピチャンと水溜まりを踏むような音だ。
ハッとして辺りを見回す。
外から誰か来たのかと思ったけど、違う。
絶対にこの扉の中からだ。
第一、昨日は晴れだった。水溜まりなんてない。
足音は、確実に近づいてきている。
息ができず、足も動かない。フリーズする。
隣を見ると、あろうことか美少年が扉を開けようとしている。
「おいバカ__」
そして、次の瞬間、
ドンッ!!!
と何かが力強く当たる音。それを聞いた瞬間、僕の身体に、末端神経の先まで、指先の毛細血管まで、ヂリヂリッ!と危険信号という名の電流が駆け巡る。
「ここは絶対にヤバい!逃げろ!」だ!
僕は、美少年の首根っこをむんずと掴む。「くえっ!」と変な音がしたが気にしない。
走れ!とにかく走れ!
僕は美少年を引きずり出すように、トイレから駆け出した。