テラーノベル
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ある日突然、コネシマが人魚になった。
□
──事の発端は夏の太陽が猛威を奮っている時間、午後一時のことだった。
溜まっていた書類仕事にようやく区切りをつけ、昼食のことでも考え始めた矢先、書類の山に放っておいたスマホが、軽快な通知音を鳴らした。画面に表示されていたのは、予想だにしない人物からの、予想だにしないメッセージだった。
“すまん、暇だったら俺の部屋のバスルームに来てくれんか?ちょっと困った事が起きた”
短い文面。だがいつも騒がしい彼からの、どこか切羽詰まったようなその一文に、妙な緊張感が走る。
(これは⋯⋯緊急事態か?)
俺は昼食の予定を放り出し、その足でコネシマの自室へと向かった。
□
「⋯なんやねん、これ」
「俺が聞きたいわ」
なみなみと湯が張られたバスタブの中で、男──コネシマは、至極冷静に答えた。
(嘘だろ⋯)
そう思い何度目も擦っても、視界は変わらない。
本来そこにあるはずの、見慣れた”足”という部位がどこにも見当たらないのだ。代わりにあったのは、薄い硝子細工のような鱗がびっしりと並ぶ、巨大な尾ひれだった。
窓から差し込む陽光を反射して、水色に艶めくその下半身は、童話の中にだけ存在する伝説の生き物──”人魚”を想起させた。
「⋯これ、本物なん?」
信じられない思いでその尾を凝視する。すると時折、打ち上げられた魚のようにピチリと跳ねた。その生々しい躍動感は、到底作り物だとは思えない。
抗いがたい好奇心に突き動かされ、恐る恐るその尾ひれに指を伸ばしてみた。
「⋯⋯っ」
指先から伝わってきたのは、ぬるりとした、なんとも言えない不気味な感触だった。それは作り物には決して出せないリアリティだった。
「本物もなにも、俺だって訓練で汗かいて風呂入ったらこれやし。意味分からんわ」
「水に当たったら、尾ひれが生えてきたってこと?」
「そういうことちゃう?知らんけど」
なんとも他人事な返事をするコネシマに苦笑を浮かべる。俺は、暫しの逡巡のあと答えた。
「餅は餅屋ちゃう?」
「えっ?」
「つまり、こういう変な症状は全部ペ神に任せるべきってことや」
「⋯なるほどなぁ」
そしてひとまず、俺達はペ神を呼ぶことにした。