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ひより
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#ロマンスファンタジー
Jasmine
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「それが――ヴァンクロフト公爵家の軍勢です!」
駆け込んできた騎士が叫んだ。
「……え?」
思わず聞き返す。その直後――。
ドドドドドドッ!!
地面を揺らすような音が響いた。路地の先。武装した兵士たちが、次々と姿を現す。掲げられた旗には――見覚えのある紋章。
「殿下!」
そこへ、ギルバートが騎士団を引き連れて戻ってきた。
「孤児院の子どもたちと職員の避難、完了しましたぜ! って――何なんすか、あれ!?」
「ヴァンクロフト公爵軍だ」
「公爵軍?」
ギルバートの表情が、ぱっと明るくなる。
「魔物討伐の援軍っすか?」
「俺は援軍など要請していない」
ギルバートと目が合った。
「嫌な予感しかしねえっす」
(奇遇ね。私もよ……)
ザッ――。
公爵軍が、私たちの前で止まった。前列の兵士たちが、一斉に剣を抜く。
ジャキィンッ!!
その切っ先が向いたのは――私たち。
(……え?)
(援軍って普通、こっちに剣向けないわよね!?)
「全軍――攻撃開始!!」
「なっ!?」
兵士たちが一斉に駆け出した。
「皇太子殿下をお守りしろ!」
「迎撃態勢!」
ガキィィィン!!
瞬く間に、剣と剣がぶつかり合う。
「なんでいきなり内戦始まってるんすかぁぁぁ!?」
「喋っている暇があるなら剣を振れ!」
「御意!!」
そのとき――。
「……っ」
敵兵の剣に目が止まった。刃の周囲に――どす黒い靄がまとわりついている。
(瘴気……!?)
ザシュッ!
「ぐっ……!」
皇室騎士の腕を、敵の剣先がかすめた。傷は浅い。なのに騎士は膝をつき、腕には黒紫色の筋が浮かび上がっていく。
(やっぱり……武器そのものに瘴気が仕込まれてる!)
公爵兵が、膝をついた騎士に剣を振り上げる。
「やめなさい!!」
反射的に手を伸ばした。
パァァァァッ!!
エメラルドグリーンの光が敵の剣を包み込む。
ジュウウゥッ!!
どす黒い瘴気が、一瞬で消えた。
(よし――って!)
そのまま剣が、私へ向かって迫ってくる。
(物理攻撃は別なのよね!!)
ガキィィィン!!
目の前で、剣が止まった。カイル殿下だ。敵兵の剣を受け止め、そのまま弾き飛ばす。
「ソフィア……今の光は何だ?」
「えーっと……」
「妃殿下ぁぁっ!」
ギルバートまで目を剥いた。
「まさか……聖力っすか!?」
「た、たぶん?」
「たぶん!?」
「私だって今日使えるようになったばっかりなのよ!」
「今日!?」
「説明はあと! 今は目の前の敵をどうにかしましょう!」
「大賛成っす!!」
カイル殿下は、私の手元を一瞬見つめた。けれど――すぐに敵軍へ向き直る。
「ギルバート! 後方へ障壁を張れ!」
「御意!」
ブォォォン!!
半透明の魔力障壁が広がり、飛んできた矢を次々と弾く。
「負傷者は障壁内へ運べ!」
「はっ!」
「ソフィア、頼めるか!?」
「分かってるわよ!」
私は倒れた騎士へ駆け寄った。傷口へ手をかざす。
パァァァ……。
柔らかな緑の光に触れ、黒紫色の筋が消えていく。
「妃殿下が……治した……?」
「まさか、本当に聖力……?」
「次!」
立ち上がる。
「怪我人は全員、こっちへ連れてきなさい!」
「は、はい!」
前線では――。
ドォォォン!!
カイル殿下の魔力が敵兵の武器をまとめて弾き飛ばす。飛んでくる矢や魔法は、ギルバートの障壁が防ぐ。
(攻撃のカイル殿下)
(防御のギルバート)
そして私は――治癒と浄化。
(……意外と、いいチームかも?)
「ソフィア!」
「何よ!?」
前線から、カイル殿下の声が飛んでくる。
「無茶をするな!」
「無茶してるのはそっちでしょうが!」
「俺は平気だ!」
「そういうこと言う人が、一番信用できないのよ!」
「だから――」
一瞬、言葉に詰まる。
「絶対に無事で戻ってきなさいよ!」
カイル殿下が目を見開いた。
「……分かった」
「え?」
「妻からの命令なら従おう」
「え、私……離婚書類置いて逃げたんだけど!?」
「受理していない」
「今それ言う!?」
「戦闘中だから続きは後だな」
「はあ!? そっちが始めたんでしょうが!!」
「殿下、妃殿下! 夫婦喧嘩はあとにしてもらえますかねっ!?」
「してない!!」
声が重なった。そのとき――。
「……あれ?」
敵兵へ視線が止まった。剣を握っている腕に――同じ黒紫色の筋が浮かんでいる。
(この武器……使っている本人まで瘴気に蝕まれてる?)
(自分の兵士まで、使い捨てにするつもり……?)
ドォォォォォンッ!!
「うわっ!」
凄まじい衝撃波が吹き荒れ、ギルバートの障壁が軋んだ。
「な、何だこのすげえ魔力……!?」
公爵軍の後方。
黒いローブをまとった人物が、片手を掲げて蒼白い魔力を渦巻かせている。
「……皇族の魔力か」
「え?」
黒ローブの人物が、再び腕を振る。同時にカイル殿下も魔力を放った。
ドガァァァンッ!!
爆風が黒いフードを吹き上げる。
バサッ――。
「…………え?」
現れた顔に、息を止めた。ヴァンクロフト公爵。公爵はゆっくりと前へ出ると、私を見て眉を上げる。
「……ほう。まだ生きていたのか、ソフィア」
「シェリー」
呼ばれたシェリーが、杖を手に進み出た。突然の戦闘で、彼女を囲んでいた騎士たちの包囲は崩れている。
「申し訳ありません。あと少しで――」
「もういい」
公爵は興味を失ったように遮った。
「お前が騒ぎを起こしたおかげで、予定通り皇太子と皇室騎士団をここへ引きずり出せたからな」
(……最初から、グルだったのね)
「お父様……どうして、魔法を……?」
「不思議か?」
公爵が口元を歪めた。
「私にも、先帝の血が流れているのでね」
「……え?」
思わずカイル殿下を見る。けれど――彼は驚いていない。
「殿下も、ご存じだったんですの?」
「ああ」
カイル殿下は公爵から目を逸らさない。
「ヴァンクロフト公爵が祖父上の庶子だという話は、皇宮では公然の秘密だ」
(ちょっと待って)
(ってことは、この人……カイル殿下の叔父なの!?)
(そんな設定、ゲームじゃ一度も出てこなかったんだけど!?)
「ただし――これほどの魔力を持っているとは知らなかったが」
公爵が鼻で笑う。
「母の身分が低かった。ただそれだけで、私は皇子として認められなかった」
その視線が、私へ向く。
「その光……聖力か?」
公爵が声を荒げる。
「なぜだ。私のもとでは、一度たりとも発現しなかったはずだ!」
苛立ちを押し殺すように息を吐くと、再び表情を戻した。
「皇太子の子を産めば、それでよかったものを。その子を玉座へ座らせ、私が操る。それだけの話だったのだ」
冷たい視線が、私へ突き刺さる。
「だが、お前は帳簿を暴き、私の資金源まで潰した。よくも、計画を狂わせてくれたな!」
公爵は両手を広げ、狂気じみた笑みを浮かべた。
「回りくどい真似はもうやめだ!! 私自身が玉座へ座ればよい!!」
再び、両軍が激突する。 けれど――。
ドォォォン!!
「ぐあっ!」
カイル殿下の魔力に押され、公爵軍が次々と後退していく。公爵の顔から、余裕が消えた。
「今すぐ、大規模な『亀裂』を開けろ!」
シェリーの顔色が変わる。
「大きな亀裂には、膨大な生命力が必要です! それに――私にも制御できないかもしれません!」
「問題ない。必要な生命力なら、すでに貧民街全域を囲むように用意してある」
「でも……」
しばらく、俯いたまま黙り込む。
「忘れたのか、シェリー。父も、母も、一族も――帝国に奪われた。今度は――帝国が、すべてを失う番だ」
やがて、顔を上げた。
「……分かりました」
ドンッ!!
杖が地面へ突き立てられる。
ズドォォォォォンッッ!!
シェリーの足元から、禍々しい紫黒の光脈が放射状に走る。
――ピシッ。
何もない空間に、一本の黒い亀裂が走った。
バキバキバキバキィィィッッ!!!!
「な……っ」
亀裂が一気に裂け広がり、巨大な裂け目が口を開ける。 その奥――。 闇の中で。 一つ。 二つ。 三つ。 無数の赤い瞳が、一斉に開いた。
コメント
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シェリー頑張れ📣
「援軍だと思ったら敵」って、まさかの展開に心臓が止まるかと思いました…!公爵軍がまさか皇太子とソフィアに剣を向けるなんて。それに瘴気を帯びた武器って、本当に公爵はどこまでも非道ですね。 でもソフィアの聖力が発現したところは鳥肌でした。カイル殿下が「妻からの命令なら従おう」って返すシーン、戦闘中の夫婦漫才も最高で笑いました。そしてシェリー…まさか彼女が公爵側だったとは。黒い杖の意味がここで繋がった気がします。 最後の巨大な亀裂と無数の赤い瞳、不気味すぎて続きが気になって仕方ないです。今回もどんでん返しが効いていて、物語の深みが増しましたね。