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布団の中、空気はどこまでも静かだった。
遥の体温はまだ熱を残しているのに、蓮司の指先だけがやけに冷たい。
さっきまでその体がどんな風に震えていたかを、知っていて触れている指だった。
「……ねえ、遥」
蓮司は、横に寝転がった遥の顔を覗きこむ。
その声はいつもと変わらない、軽い調子だった。
「今、どんな顔してんの?」
遥は答えなかった。目を閉じ、喉を鳴らす音すら抑えている。
その沈黙が、むしろ蓮司を愉快にさせる。
「さあて……泣いたあとの顔か、それとも──何も感じてないふり、か」
くす、と喉で笑う。
声には棘はない。ただし無関心でもない。興味本位。それが一番、タチが悪い。
「ずっと思ってたんだよな」
「おまえって、自分で思ってるよりずっと、わかりやすい」
蓮司の指先が遥の肩をなぞる。もう拒まない。もう逃げない。
それすらも、蓮司にとっては「飽きるまでの暇つぶし」に過ぎない。
「さっき、名前呼んだだろ。何回か」
「……気づいてた?」
遥のまぶたがかすかに震える。けれど返事はない。
「へえ、無視か。泣き声のくせに」
からかうように笑う。
「ま、いいけど。おまえが俺に何を期待してたかなんて、知らないし」
「それに……」
ふと、蓮司の声色が変わる。
少しだけ低く、けれど重くはない。むしろ空気のように軽い。
「おまえが欲しかったの、あれだろ。痛いくらい、ちゃんと触れてくれるやつ」
遥の胸がきゅっと縮こまる。
心臓が痛い。呼吸の仕方を忘れるほどに、身体の奥が冷たくなる。
「でもさ──それって、“壊してくれ”ってことだよな」
蓮司は笑う。あくまで冷たく、機嫌よく。
「お望み通り。よかったじゃん」
「……ま、俺はただ、見たかっただけだけど」
「おまえが、そういう顔して、そういう声出すの。──ね?」
その笑みには、残酷さの自覚すらない。
あるのは、退屈しのぎと興味本位。
蓮司は“自分が何を奪ったか”に、興味はない。ただ、“遥の反応”にしか価値を見出していない。
遥は、歯を噛み締めた。
でももう、何も言えない。
今さら蓮司を責める言葉を持たない。
何より──自分が望んだことだという感覚が、遥自身を一番深くえぐっている。
(……俺が欲しかったんだ)
(こんな風に、壊されることを)
そんな呪いのような確信だけが、遥の内側に残った。