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静かだった。さっきまで声をあげていたくせに、遥はもう黙りこんでいた。
蓮司は、仰向けのまま天井を見上げる。
吐いた息が、部屋の空気にしみ込んでいくのを、ただ感じていた。
(ああ、思ったより──脆かったな)
横目に見ると、遥は背を向けている。
声も、動きもない。けれど、肩が不自然に緊張していた。
「……死んだ?」
冗談めかして呟くと、かすかに遥の背がびくりと揺れた。
笑う気にもならなかった。
その反応すら、ありきたりだったから。
(壊した、ってほどじゃないな)
蓮司にとって、“壊す”という行為は、相手の輪郭が崩れる瞬間を見届けることだった。
けれど──遥は、もう最初からひび割れていた。
ちょっと触れただけで崩れたのは、自分のせいじゃない。
そう確信していた。
むしろ、それを“知ってしまった”ことに、少し興醒めしていた。
(つまんねぇな)
蓮司は身体を起こす。
遥はそれにも反応しない。
寝たふりか、本当に抜け殻か。どっちでもよかった。
裸の背中が小さく見えた。
少し前までは、あの背に触れることに興味があった。
何を言えば、どう動けば、どこまで落ちてくれるか──そういう“実験”として。
けれど。
(……答え、出るの早すぎんだよ)
つまらなかった。
蓮司は立ち上がり、床に投げ出してあったシャツを拾う。
そのまま袖を通しながら、もう一度遥を見た。
(こんな風に、ぐちゃぐちゃになって──それでも、何も言わねぇんだもんな)
「さあて」
言葉を落とすように吐いて、ポケットに手を突っ込む。
「おまえが黙ってるの、俺のせい? それとも、最初から壊れてたせい?」
遥は動かない。
蓮司は笑った。
乾いた、心のどこにも触れない笑いだった。
「──どっちでもいっか」
言い残して、部屋を出た。
扉の向こうに閉じ込められた沈黙を、振り返ることはなかった。