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明るい一筋の光がステンドグラスから差し込む。
その光が照らすのは、倒れた1人の男と広がる赤色の輝く血溜まりだった。
凍りつくような教会の中で、白い息だけがそこに存在していた。
どくどくと溢れる血。眩しい光に、肌に痛いほど刺さる寒さ。
男ーーショッピは1人息を切らして光の下死を悟っていた。
ふっと意識が薄れ、生きているのか死んでいるのかも分からない中、ぽつんと居るショッピの前に何かが始まる。
(走馬灯、というやつだろうか)
本当に見えるんだな、と思いながらそれをぼうっと眺める。1番に映ったのは、自分のことをずっと気にかけてくれていた「あの」人だった。
(死ぬ間際までこの人のことを見るのか)
ははっと少し笑いながらまた走馬灯を眺める。
先程よりはっきりと、にかりと笑う「あの」人の顔が見えた。
その笑顔はいつもと変わらなくて。
ほっとしながらショッピは息絶えた。
凍てついた教会の中に最後の白い息がふわりと浮いて、また溶けていった。
あの人と最初に出会ったのはある晴れた冬の日だった。
その日も肌を突き刺すような寒さで人々が吐いた息は白く漂っていた。
軍学校入学当日。自分と同じ新入生がぞろぞろと校門へと向かっていく。
トラブルを起こさないように、目立たないように生きよう、と思ったその時だった。
ドンッ、と鈍い音がして地面に倒れ込む。
「…おい新入生」
擦りむいた腕を擦りながら声の主を見上げると、そこにはガタイのいい屈強な男が数人立ちはだかっていた。
「ぼうっとして歩いて俺に当たるとは、いい度胸してんなァ?」
真ん中のリーダーと思われる男がそう言う。双眸は赤く光っていて、その目に無事に帰れるかどうかの不安感が押し寄せてくる。
「なんとか言えよッ!!!」
言葉を発しない自分にいらいらしたのか男が殴りかかってきた。完全に怯えているこの状態から躱すことなど出来ず、ぎゅっと目をつぶる。できるだけ痛くないよう身構えておいた。
ーーが、来るはずの痛みは来ない。
恐る恐る目を開くとそこには殴りかかった右手を制す1人の男の姿があった。
恐らく先輩だろう。季節外れに半袖短パンだ。着ているサッカーのユニフォームは、スポーツに疎い自分でも知っている強豪チームのものだった。
「…おいおい、恥ずかしくないのか?新入生苛めて!怖がらせて!先輩としての威厳はどうなんや!」
煽るような口調でそういうと、ぱっと今まで掴んでいた右手を押し離した。その反動でリーダーのような男は倒れ込む。
ぜぇぜぇと息を切らしたまま声を絞り出していた。
「くっそ…「コネシマ」…舐めてると潰すぞ…」
コネシマ、と呼ばれた男はまた煽るように言う。
「お前らになんて潰されねぇよ」
アッハッハッハと特徴的な笑い声で笑うと、数人の男達は唇を噛んで悔しそうにしながら校舎の中へと逃げていった。
それを見計らってショッピは立ち上がり頭を下げる。
「助けていただきありがとうございます。」
そう言うと男は「あぁ」とこちらへ向き直り手を差し出した。
「気にすんなよ。俺はコネシマ!仲良くしような新入生!」
はい、とショッピも手を出し握手した所で、頭にひとつの考えが巡ってきた。
(まずい…この人、あれだ)
さあっと血の気が引いていく。ここまで目立って、しかもコネシマという有名人と絡んでしまったら平穏な学校生活が遅れるはずもなかった。
コネシマ。軍学校3年生。成績はトップクラス。戦闘実技は同学年の「ゾム」や「シャオロン」と張合える程の実力の持ち主。だが人当たりは良く、友達も多い。入学する前から耳にしていた有名な話だ。
(あぁ…コネシマって…この人かぁ…)
青ざめていくショッピを心配したのかおろおろとした様子でコネシマが「大丈夫か!?」と聞いてくる。
その声すらも耳にあまり入っていなかった。
「あっ、そうや新入生!名前聞いとこ!うん!なんて言うん?」
此方の事情などお構い無しににかにかと笑顔を浮かべてそういうコネシマに、ため息をついて自分の名前を告げる。
「…ショッピっていいます…」
「ショッピ君かぁ、ええやん!よろしくなショッピ君!」
うんうん、と1人で大袈裟に頷くその姿にショッピは自分の普通な学校生活を半ば諦めたかのようにまたため息をついた。
「よし!そうや!これから入学式やん!人生の一大イベント!遅れたらあかん!」
今度はぱんっと手を叩きそういう彼に「え?」と疑問の表情を浮かべたのもつかの間、ショッピの手は引っ張られ物凄いスピードで校舎へと引き込まれていった。
「ちょ、まじでなにやってんすか…!?」
「早めに席着いとこ!講堂遠いし急ご急ご!」
自分の話などコネシマの耳には届いていないのだろう。着いて行けなくなるほどのスピードで廊下を駆け抜ける中ショッピはやっとの事で声を絞り出した。
「ああっ…この…クソ先輩がっ…!!」
なんとか入学式も終えたその月は、コネシマに絡まれながら、同級生の冷たく鋭い視線も感じながら過ごしていた。平穏とは程遠い荒れた毎日。入学して日も浅いのに心はぐったりと疲れきっていた。
「大丈夫かー?疲れてるのか?ショッピー」
机に突っ伏していた自分に入学して出来た数少ない友人・チーノがそう声をかけてきた。
厚くそして不透明な彼の眼鏡の奥はこちらからはあまり見えないがそれでもなにかワクワクしていることが感じ取れる。
(まさか人の弱みに漬けこもうとしてる…??)
やはり詐欺師と称されるに相応しいな、と思っていると教室の前扉が大きな音を立てて勢いよく開いた。
「ショッピぃ!!!!いるか!!??」
にぱーっと満面の笑みのまま1年生の教室に乗り込んでくるコネシマ。
教室内が一気に静かになり、クラスメイトの視線が突き刺さる。
その視線は「教室でも喋らない何考えてるかわかんない奴がなんでコネシマさんに呼び出されてるの?」と言いたげなものだった。
「呼ばれてるで〜」
チーノが小声でそう冷やかしてくる。仕方が無いのでため息をひとつついて机から離れた。
「……なんすか」
「いやな、大したことじゃないんやけどな」
コネシマは面倒そうに言うショッピをお構い無しに1枚の手紙を見せた。
「1年生と3年生合同実習訓練!1年生と3年生がペアを作って訓練するんやけど、組まへん?知り合いの1年生ショッピ君くらいしかおらへんし、何よりペアくみたいし!」
見せられた手紙に目を通してみると、そこには希望制の文字があった。実習を受けなくても問題ないということだ。ただ、今のこの人のテンションは自分に拒否権を与えてくれはしない程に高いということは簡単に予想出来た。
「…じゃあ、いいですよ。」
この人は俺の技量を知っているのか?という疑問は浮かんでいたが、そう返事をしてあげるとコネシマは嬉しそうに目を輝かせた。
「いや〜さすがやショッピ君!!ありがと!頑張ろうな明日から!」
話も終わったからか「じゃあ明日な!!」と大きな声で叫んで1年生の授業棟から走り去っていった。明日から訓練ということは今知ったが、断れない為心の準備が出来ないまま明日を迎えることになるだろうということは痛いくらいわかる。そして、クラスメイトだけでなく学年生徒の負の視線も自分に突き刺さっていることも容易に分かった。
「面白いことになりそうやん」
離れたところからにぃっと笑みを浮かべるチーノの目には、やはり何かを期待しているような感情が秘められていた。
「お前さすがやなぁ!」
砂埃が舞う訓練場には気絶し倒れている同学年の姿と自分と瞳を輝かせるコネシマだけがあった。
自分達が一時的に意識を失わせる麻酔剣で切り倒したぴくぴくと震える奴らのことには目もくれず、痺れる両手をグッと握りしめそう叫んでいた。
「こんな凄いヤツやと思わんかった!流石やショッピ!」
ショッピは子供のように無邪気にそういう先輩の姿に何度目かも分からないため息を着いた。
「いや…俺庇って何度も攻撃受けたじゃないですか。すごくないんですよ。先輩傷つけてるんで…」
「初戦で完璧やったら脅威すぎて殺してるわ!安心せぃ!」
コネシマはそう言うとばん、と音がなりそうなほど強くショッピの背中を叩いた。そして、「俺のクラスメイトじゃあらへんし」とにかっと笑う。
しかし、ショッピは自分を褒められたことを素直に喜べないでいた。褒められることに慣れていないということもあるが、コネシマに守ってもらわなければならなかった自分が悔しかった。
「俺を守ってたら、あんたが死ぬやないですか」
目の前の先輩は、表情に「?」を浮かべ安心しきっている。
「これが戦場だったら、本番だったらーーーー。俺は確実にあんたを死なせてるんですよ」
そう思うと、自分の情けなさに笑えてくる。
それは、自分の過去の思い出からくるものだった。
チリン、と鈴の音が響いて、声が耳の中でこだまする。
『あなたが助けてくれたならーー』
目の前の傷ついた呑気な先輩を見ないため目を伏せれば、その記憶が鮮明に蘇ってくる。
『皆死なずに済んだのに』
「どうしたんだショッピ?」
間抜けなその声にはっとし、顔を上げると、そこには早く戻ろうと言わんばかりのコネシマが振り返っていた。
現実に戻り、ズレたヘルメットを元に戻す。
「はい」
返事だけして、転がる人間には目もくれずに少し前を歩く先輩を速歩で追いかけた。
追いついたところで、思わず声が零れる。
「俺が殺すまで、死なんといてくださいね」
ぼそっとそう言ったショッピに対し、コネシマは乾いた笑い声をあげた。
「なら、待っとるわ」
ぽん、と肩に手を置かれ、左斜め前を無意識に見た。
そのまま自分より少し背の高い先輩と並んで校舎へと戻る。
口をついて出た言葉は、いつしか自分の生きる理由になっていた。