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その日は初任務だった。
実習訓練の2人の功績を聞いた学校長からの指令。
本物の軍隊に混じって戦争に参加するそうだ。
「でも1年生でこんなに早く行ってもらうことになるとは思わなかったゾ。よろしく頼むな。」
そう言われると、コネシマが「ショッピのことはお任せ下さい!」と自信満々に敬礼した。
その姿に呆れながらもショッピは学校長に向けて頷いた。
「生きて帰ります。お任せ下さい」
2人の意気込みを確認した学校長は大きく頷き、手元の書類に判子を押してからこちらへ向き直った。
「もう外まで迎えは来ている。急いで向かうように」
もう用はないよ、と言いたげにそう扉を指さすと、窓の方へ体を向けてもうこちらに視線をくべることは無かった。
「わかりました!行こうぜショッピ!」
子供のように楽しそうなコネシマに腕を引っ張られ、なんとか着いていくと、学校長がこちらを向くことなく自分に声をかけてきた。
「死ぬ覚悟をして行けよ」
その言葉が刺さったまま抜けなかった。
『僕は死んじゃったのにさ』
『なんで君はのうのうと生きているのかな』
『おかしいよね』
『『君だけが幸せに生きるなんてさ』』
「ーーーーーっ」
自分達を待っているという兵隊のもとへと向かっていると、脳内に過去の思い出だけがぐるぐると渦巻きはじめた。
自分より少し前を歩く先輩の声も聞こえない。響くのは「あの時」から時間が止まった死体からの叫びだけだった。
「…ピ?顔色悪いけど、…丈夫…?」
コネシマの途切れ途切れにしか聞こえないその声も何もかもが混じり、気持ち悪くなる。なんとか心を落ち着かせ「大丈夫です、すみません」と声を絞り出した。
すぐに兵隊達の元へと辿り着く。そこには多くの戦車と重機が並んでいた。すげぇ、すげぇと飛び跳ねるコネシマを横目に、リーダーと思われる1人に近づいて挨拶をしておく。
自己紹介も済ませ、戦車に乗せてもらい移動し始めると、隣の先輩はまだ感動していてそれを見た兵隊の人達に軍のことを教えてもらっていた。
ショッピが離れたところで外の景色を眺めていると、興奮が落ち着いたコネシマが近寄ってきて声を潜めて話し始めた。
「あんなショッピ、俺学校長が組織してる軍に誘われてるんや。ショッピを今日俺と一緒に行かせたのもそれが原因なんやけどな、学校長はお前のこともメンバーとして入れようとしてるらしいんや」
へぇ、と無感想に相槌をうつ。
「やから、」
そこまで言われたところで、ガタンという大きな音と共に車体が傾いた。
何者からか攻撃を受けたのだろう。兵士長の声が車内に鳴り響く。
「戦争準備!各自出て相手の大将を撃ち落とすように!」
それに合わせ戦車からみるみるうちに人が減っていく。それに合わせ2人も外に出ると、そこは荒廃していて至る所から煙がたっている、酷くきずついた場所だった。
「な、なんやこれ」
コネシマは驚いたようにそう声を漏らす。と、そこに敵と思われる1人が銃を構えていることに気付いた。
銃で敵を撃ち抜く。3発ほどの銃弾が、敵の体を貫いた。
『逃げろ』
昔の、自分の声が頭に響く。
「ショッピ!ありがとうー!よし、俺らも行くかー!」
コネシマが気合いが入ったようにそう叫ぶと、戦場を走り始めた。鞘から剣を取り出し構える先輩の後ろで自分も次の弾をセットし着いていく。
次々と呼び覚まされる自分の記憶に不安感を抱きながらも今は先輩と行くしかないと持ち直し走るスピードをあげた。
「はぁっ、はぁ…」
何度か交戦しているうちにコネシマとはぐれてしまったショッピは、すす汚れた廃教会に足を踏み入れていた。
悲鳴をあげる足にムチ打ち、太陽の光を受けて光り輝くステンドグラスの前まで進む。
その色とりどりの光は疲れきったショッピの体をカラフルに染め上げていた。
その刹那。
「バンッーーーー」
銃声が響き、太ももと背中に痛みが走る。頭にも当たったようだったが被っていたヘルメットのおかげで痛みはない。
「うっ…」
立っていられなくなり、その場に倒れ込む。
疲労している体では、立ち上がることは不可能だった。
ぴくりとも動くことが出来ない自分に死んだと勘違いしたのか敵はどこかへ消えていく。
どくどくと溢れる鮮血が教会の床を赤く染めていく。
寒く凍ったその中で自分の白い息だけが弱々しく溶けていた。
「……?…ぴ?…ッピ!!ショッピ!!」
聞きなれた先輩の声が教会内に響き渡る。ばたばたと走ってくる大きな足音は死にそうな自分にとって耳障りでしか無かった。
「なにやってんショッピ…!俺が目を離したからっ…!!」
「先輩のせいじゃないっす。でも…すみません、先に死んじゃって」
「絶対殺させへん…死なせへんから待って…!」そう言い立ち上がった途端、またバンッと銃声が響き渡った。自分が撃たれたのではない。コネシマの体を、心臓を、銃弾が貫いたのだ。
「こ、ねしま、さん…!」
「喋るな、こんなことに、体力を使っちゃ、あかん…」
敵の気配はもう感じられない。ショッピは涙をぽろぽろと零して掠れる声を振り絞った。
「すみま、せん…俺、が、コネシマさんを殺すって…言ったのに…」
そう言うとコネシマは涙ひとつ浮かべず軽く笑って見せた。
「そうやなぁ…でも、敵軍に殺されることになるのって、悲しいやろ………?」
心臓を撃たれたことはダメージが大きいのか、どんどん先輩の声が小さくなっていた。
自分の血とコネシマの血が溢れ続け、混ざっていく。
「お前…銃、持っとるやろ…それで俺を撃ってくれ…どうせ死ぬなら、お前に殺される」
そう言って悪戯な笑顔を浮かべた。光る水色の目は、何時も自分が見ていた目と変わっていなかった。
なんとか懐から小さな拳銃を取り出す。そして震える手でコネシマの脇腹に銃をくっつけると、ゆっくりと引き金を引いた。
「うっ」と声を上げ、彼のの双眸が閉じられる。と思ったら、コネシマが握っていた刀が自分の脇腹を突き刺した。
「ー!!」
「やられっぱなしは、悔し、いからな」
それを最後にコネシマの体温が消えていく。死んだ、と察することが出来た。
「…らしいですよ、クソ先輩」
それだけ零すと、自分の目の前も霞がかった。白くなり、感覚が無くなり、体が浮き。痛みも感じず、明るい光だけに導かれる感覚に陥った。
最後に見た走馬灯は、忌まわしいあの記憶ではなく、最期を共に迎えた先輩との記憶だった。その事にほっとしながら、息をすることを辞める。
最後の白い息が教会に漏れだし、すぐに消えていった。転がる2人の死体をチーノが見つけたのは、また後の話ーー。
『なぁショッピ、2人でさ、軍を作ろうよ』
『ええよ、なら、ここを逃げないと』
『ここにいたら、実験台にされて殺されるだけだからな』
『明日や、明日逃げよう』
『どこに逃げようとしてるんだい?』
バンッーー
『ショッピ!』
『…俺のことはいい…!!逃げろ…!早く、はやく逃げてくれ!』
『でも…!』
『後で追いつく、だから』
『ーーわかった!』
バンッー
『え?』『…あーあ、ショッピ君ーー逃げろだなんて言うから、死んじゃったよ』
『さぁ、大人しく実験に戻ろうね』
『ーーあの時お前が逃げろって』
『言わなければ』
『俺は死ななかっただろ…?』
『これをすれば、実験回線はショートできるはずなんだ、信じて』
『ほんと?じゃあ、入るね』
『絶対ーーっなんで?!』
『させるわけないだろ?だが、そのボタンを押してしまったなら、中には大きな電流が流れるんだよな…!』
『…!!あああっ!』
『そんな…』
『…ふっ、また、「殺しちゃった」なぁ、ショッピ君』
『自分の未熟さのせいで仲間を2人も殺した気持ちはどうだい?』
『お前があの時あんなこと言わなければーー』
『あなたが実験の時、私にあんなことを言わなければーー』
『僕らはまだ生きられたんだ』
『皆死なずに済んだのに』
『それなのに君はのうのうと生きているだなんて』
『ーーおかしいよね』
『もう生きてなんかいないよ』