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「なっ……」
クレイテル本社に従事する者達は、突然の事にさぞ驚いたに違いない。
エリミネーター、それも特異点に相違ない者が擬装もせず、刀を手にして現れたのだから。それも明らかに、ただ事では無い――殺気にも通ずる雰囲気を以て。
其処に現れたのは、闘いを終えたばかりの雫と悠莉だった。
悠莉はまだしも、雫は完全な戦闘モード。今は先程までの金銀妖眼は表に出てないが、その銀色に輝く両眼は、有無を言わせぬ絶対的な死を連想させた。
どう見ても、任務完了を報告に来た者の雰囲気では無い。皆が唖然と、後ずさる者もいるのは、それは察知しているから。
“殺される!”
出向いていた『ネオ・ジェネシス』との闘いで、何があったのかは彼等には知るよしも無い。ただ、その予感だけは確足るものだった。
「――お待ちしてましたよ。そして……御苦労様でした」
誰もが驚愕している間隙を縫って掛けられる声。それは来訪を予想していたであろう、霸屡が一瞬でその場に姿を現す。
「花修院社長!?」
事態の蚊帳の外である彼等には、最早何が何だか分からない。
「貴方達は下がって。そして、本日を以て“裏の此処”は解散します」
そして皆を見回しながら霸屡はクレイテルの、その裏としての顔である狂座の解散を宣言した。
「えっ――!?」
「なっ――!?」
「…………は?」
代表取締役からの、突然の解散宣言。事態を把握してない彼等は、ますます混乱の一途を辿る事になった。
「……千尋。後の事は、全て貴女に委ねます。分かりますね? この意味が……」
騒然とする中、霸屡は一人の者を指名した。彼の秘書――右腕とも云える人物に。
自分に何かあった時、表の後釜として託せるだけの。
「社長……。はい、分かりました……」
千尋と呼ばれた若年の女性も、それが分かったよう頷いた後、深々と頭を下げる。
「さて、お待たせしました。では、行きましょうか?」
そして霸屡は雫へと、再度促した。
「俺が何故此所に来たのか、全て分かっているようだな?」
「ええ勿論。創主もお待ちです」
目的は御互い、今更聞くまでもない。闘いの顛末は恐らく、ずっと伺っていただろうから。
「案内して貰おう」
雫も最初から、それ以外をどうこうするつもりは無い。目的は一つ、霸屡とその先に居るノクティスのみ。
皆が呆然と見送る中、三人は地下へ向けて歩み出していた。
*
――エルドアーク地下宮殿へ続くエレベーターへ乗り込んだ三人。到着まで、まだ暫しの時間を要する。
「…………」
「…………」
その間、御互い交わす言葉も無い。真実を知ってしまった今、何を言っても取り繕えないだろう。
「……ねえ、ホントなの? ボクが……」
だが沈黙に耐えられないのか、再度事実を確認したいのか、悠莉は霸屡へ曖昧に訪ねていた。
「ええ……ユキの言った事は、全て事実です」
分かってはいても、心の何処かでは否定したかった。
「そう……だよね」
やはり間違いない。自分は創られた存在。悠莉は分かってはいても、落胆を隠せなかった。
「心配するな」
「そういう事。お嬢はお嬢だ。これからも、それは何も変わらねぇって」
雫が悠莉の頭に手を置き、ジュウベエが頬を寄せる。
「……うん」
自分の正体を知っても、何も変わる事は無い。それだけでもう、悠莉は充分な気持ちに満たされた。
「そうそう、今回の勝利を受け、核による日本消失は中止となりました。私としても一安心です……」
霸屡から不意に切り出す、核による中止の知らせ。
「お前は……何を求めていた?」
エンペラーやノクティスの目的は分かる。だがどうも、この霸屡という男の目的は読めない。
ノクティスを創った者。それに従う――本当にそれのみなのか。
「私にも……何が正しいのか、分からなくなっていました。悠久の時を存在するとは、そういうものです」
霸屡自身にも分からないのだ。
「ただ一つだけ確かな事は、どんな情勢を辿ろうと、これで一つの終わりを迎えるという事」
その答が――この先に有る。
「雫……。貴方に終わらせられますか?」
霸屡はそう確信し、そう雫へ問うていた。
***
――三十分後エレベーターは目的の地へ降り立ち、三人は王の間へと向かう。
此所に赴くのは、実に闘いの前以来。まさか今度は、闘う為に伺う事になろうとは。
否、闘うと決まった訳では無い――が、どちらにせよ全てに決着せねばならない。
「連れてきました……」
終着となる王の間前扉。霸屡がかの人物へ伺いたてる。そして少しの間を置いた後、重厚な扉はゆっくりと開かれていった。
――霸屡の役目はここまでと、雫等を先に通す。
「…………」
雫と悠莉は、ゆっくりと足を踏み入れていった。
眼前に見えるのは、変わらず玉座に腰を掛けるノクティス。
両者の距離が縮まっていくにつれ、否が応にも緊張が高まっていく。
そして遂に彼等の間は、謁見の距離へと。
「よく来たね。待っていたよ」
どちらが先に切り出すのかと思われたが、間髪入れずノクティスが先に口を開いた。
「そして、覚醒おめでとう雫――ユキ」
拍手で賛辞を贈るそれは、雫としてというより、転生体としてのエンペラーへ向けてだ。
「……その名を俺に口にするな。そして今の俺は雫でも無い。一人の『如月 幸人』という俺自身だ」
雫はエンペラーとしての自分も、エリミネーターとしての自分も、真っ向から否定した。
「つれないね……。君は確かにこの私が認め、唯一愛すると云っても過言ではないユキそのものだというのに。何処かで転生の仕方を間違えてしまったかな?」
雫――幸人の否定に、ノクティスは溜め息を吐きながら項垂れた。
「私がどれ程に、もう一度君に逢いたかったか分かるかい?」
意にそぐわなかった事が、ノクティスには本当に残念そうだった。
「そんな事、俺の知った事では無いし、関係無い。貴様こそ何故俺が此所に来たか、分かるな?」
馴れ合うつもりも、昔話に花を咲かせる気も無い。幸人の最後の役目は、狂座というそのもの全てを終わらせる事。今更真実を再確認する必要も無い。幸人が鯉口切らんとするは即ち、闘う事を意味していた。
「ああ……。ユキの言った事は、全て本当だよ。彼とは結果的に目的は異なってしまったが、想いは一緒だった」
ノクティスにもその意味は分かる。だが彼――彼女にその気は無いのか、まだ玉座から立ち上がろうともしない。
「定められた運命とは異なる世界を――。その為の鍵が悠莉、人の業を変える為に創られた存在」
「勝手な事ばかり言いやがって……。悠莉はテメェの玩具か何かか?」
「そうじゃない。彼女は運命を変える為に必要なのだよ」
二人の主張は尚も続く――。