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※人間とは愚かな存在だ。その結果が、この定められた運命。
確かに、直接の原因は私だが、そもそも私を創ったのは人間の業。限り無い欲望が全ての元凶だ。
それは異なる未来となったこの世界でも、四百年もの間何も変わる事は無かった……。
唯一異なるのは、未来で在る筈の狂座が四百年前に存続したのみ。
ユキも言っていただろう? 運命を変えると……。
綺麗事では無い。誰かが成し遂げねばならない。
ユキも私も、正義というつもりは無いよ。人間も含めて全てが等しく悪だ。
悪は悪を以て制せねばならない。正義の裁き等、ただの綺麗事だ。
その為に必要なのが悠莉だ。この子なら、全てを根本から変えられる。
その時、人は本当の正義を知るだろう……――
…
*
「…………」
幸人は、ただ黙してノクティスの言葉に耳を傾けていた。
確かにその通りだ。反論しようも、反論する気も無い。
“エンペラーもノクティスも、どちらも悪で在り、どちらも正しい”
そもそも人間そのものが元凶。
「分かってくれたかな? それに……云わば悠莉は私と君の、分身にも娘にも等しい存在だ。これからは家族水入らずで、共に世界を――運命を変えようじゃないか?」
ノクティスは腰掛けたまま、本当の目的を提案した。
それは三人で世界を――宇宙そのものを牛耳る事。
「そうだな……」
即座に返す幸人の返答に、隣で悠莉は吃驚する。
“幸人お兄ちゃん?”
まさか呑むつもりだろうか。
そんな事は考えられなくとも、それが一番正しい道な気もしていた。
「俺も、狂座もネオ・ジェネシスも人間も、全て救いようのない悪だ」
幸人の考えも、ノクティスと同感。
「ただ、一つだけ分かった事がある……」
だが唯一異なり、変わらないのは――
「テメェが一番の悪だって事をな!」
幸人は刀を抜き放ち、その意図を痛烈に突き付けていた。
最初から、ノクティスと闘い全てを終わらせる。これに揺るぎは無い。
「人間が滅びの道を辿るなら、それもいいだろう。それは自ら選んだ道だ。だが、意図的に変えようとするテメェは存在するべきではない。だからこそ奴も抹消する事になった……。お前一人残るのは不都合だ。せめて、元ある場所へ帰してやる」
世の為、人の為では無い。自分に出来る最後の役目はそれ。
幸人は戦闘態勢に移行した。
“展開――モード・インフィニティ”
瞬間、幸人の瞳が金銀妖眼へと変わる。そして臨界値『400%』超を突破し、サーモの最終警告音が鳴り響いた。
幸人は本気だ。これに対してノクティスは――
「そうきたか……。だけど私も、本当はこれを望んでいたのかも知れないね……」
これまで玉座に腰掛けたまま、決して立ち上がろうとしなかったノクティスだが、遂に立ち上がった。
「もう一度、君と闘い合える時を」
そしてマントを翻しながら、幸人を見据え対峙する。
両者の間に明確な戦闘意向が成立した。
瞬間、ノクティスも力を解放し、臨界値『400%』超を突破。
この両者が其処に在るだけで、地下宮殿は激しく震動している。このまま崩れ落ちるかもしれない。
「ハル。時空障壁のフィールド展開を」
闘いに移る前に、ノクティスは霸屡へ指示を。それは両者の“闘いの場”を提供。
「了解しました。さあ悠莉、離れましょう」
「えっ?」
承った霸屡は、意味の分かっていない悠莉と共に下がり、手にしたリモコンのスイッチを押す。
「どっ、どうなったの?」
その瞬間、対峙する両者の周りに膜のような何かが覆われた。
二人は其処に居るのに、まるで干渉出来ない別世界にでも居るかのように。
「……臨界値『400%』超同士の者が本気で闘い合うと、一介の惑星程度はひとたまりもありません。その為に必要なのが闘いの場、即ち世界と隔離する事。今、二人の周りは何物も干渉不可の時空の壁で、外部との干渉を断ちました」
霸屡がその理由を悠莉へ語る。
「逃げる事も……向こうに行く事も出来ないって事?」
「そう。時空障壁の範囲は、極端に言えば宇宙空間そのものです。闘いの余波はまず、此方側まで届かないでしょう。しかし、それはあくまで宇宙という常識の枠に於いてです。常識を超えた両者の前では、それさえも崩壊の危険性があります」
霸屡は危惧していた。二人はエンペラーのように、意図的に力を抑える事はしないだろう。
「そんな……。幸人お兄ちゃん……」
この両者の前では、絶対安全圈とも云える時空障壁ですら力不足、かつ不安材料に過ぎない。
“本当に……全てが終わるかもしれませんね”
願うは“此処で決着出来るか”――それのみ。
“アブソリュート・オーバーゼロ――無氷零月・刹那”
最終決戦。先に動いたのは幸人。絶対零度超発動からの、それを集約した居合いの構え。
このフィールドなら、何の気兼ねも無い。最初から全力全開でいける。否、いく必要が有る。
「私は君のそんな所が好きだったよ。私達の闘いに於いて、小手先の技も力も一切不要。有るのは極限を超えた激突――最大の一撃のみ」
そして次は無い。御互いに。
幸人の技に対し、ノクティスはどうするつもりなのかと思われたが、すぐに氷解した。
「これを振るうのも四百年ぶりだ……」
ノクティスの右手には、何時の間にか武器が握り締められていた。彼もエンペラーと同様、自身の専用武器を擬装していたのだ。
「…………剣?」
二人の闘いの結末を見届けている悠莉は、ノクティスの持つ武器の特性をそう表現した。
得物は幸人と同様の刀剣。だが日本刀とは大きく異なる、両直刃の西洋刀――所謂『バスタードソード』と云うべき大剣だった。
だが、ここまで異質な輝きを放つ剣は見た事が無い。全体が豪華に彩られた、皇族のような装飾。そして何より、刀身が虹色に輝いていた。
「あれこそがノクティス様、唯一の専用武器。この地球上には存在しない、別天体の惑星で発見した未元鉱石で造られた“彼の為だけの剣”。それがあの――七星皇剣『グランステュリオン』。切れ味、硬度共に、地球上のそれとは比較になりません」
この闘い、霸屡は観戦、解説に徹している。ノクティスの武器に対する説明がそれだ。
訊かなくても分かる。ノクティスのそれは、霸屡が造ったのだろう。
「さあ、いくよ」
ノクティスも技の発動の構えを見せた。大剣を高々と天へ掲げる。七色の輝きが、より一層増して広がった。
“七星皇剣『グランステュリオン』最大顕現――極光・七熾星流転”
――それは七つに別つ、光り輝く剣の波動。ノクティスの持つ、物理法則外の力ーー“超光速”の最奥。
光速を超えた剣閃は恒星は疎か、クエーサーをも消し飛ばし、時空の壁をも破りかねない。
両者は――同時に技を放っていた。瞬間、御互いの言語を絶する一撃が衝突する。
「くっ!」
“マイナス一兆度超と秒速一兆キロ超の衝突、やはりこうなりましたか。果たしてケリが着くのが先か、時空障壁崩壊で全て終わるのが先か……”
両者のフィールド内で起こった衝撃比率に、霸屡はこれまでに無い危機感を覚えた。それは宇宙最大級恒星の、超新星爆発が放つエネルギーをも軽く凌駕していたのだから。
一瞬で銀河系全てを覆い尽くす程の衝撃の余波は、此方側まで届いていない。だがそれは“今はまだ”だ。この衝突が長引けば障壁は破られ、最悪の事態になりかねない。
両者の力は、完全に拮抗していた。
霸屡はサーモに目をやり、両者の最終レベルを確認する。
液晶は両者の比較を同時に計測していた――