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第2話 ゼロ・シェア
朝。
久瀬トウマは、目を開けるより先に左手首の震えを感じた。
ぶるっ。
短い振動。
布団から腕だけを出す。
マインドバンドが起床を検知し、今日最初の記録を表示した。
睡眠時間 7時間31分
睡眠状態 正常
身体疲労 低
マインドレベル 100
マインドリンク 未確認
マインドシェア 0.0
最後の数字を見て、トウマは目を細めた。
「今日もゼロ」
別に驚かない。
昨日もゼロ。
一昨日もゼロ。
一年前もゼロ。
トウマのマインドバンドには、物心がついたころからほとんど同じ数字が並んでいた。
十九歳になった今も変わらない。
灰色がかった髪は寝癖で跳ね、前髪の一部が額に落ちている。
細身の身体に寝間着を着たまま、トウマはベッドからゆっくり起き上がった。
眠そうな目でバンドを操作する。
昨日表示された、不明なマインド反応。
履歴を開く。
不明なマインド反応を検出しました。
詳細情報 取得不能
接続元 不明
接続先 不明
「何なんだよ」
指で触れる。
警告。
許可されていない処理です。
「それは昨日も見た」
もう一度。
警告。
もう一度。
警告。
三度目で表示が消えた。
「ケチ」
マインドバンド相手に文句を言ってから、トウマは立ち上がった。
洗面所へ向かう途中、廊下で兄のリョウとすれ違う。
二十三歳のリョウは、短い茶色の髪をすでに整え、薄手の上着まで着ていた。
トウマより少し背が高く、朝から姿勢もいい。
「おはよ」
「おはよう」
「昨日の提供、いくつだった?」
「いきなりそれ聞く?」
「俺、記録更新した」
リョウが嬉しそうに手首を見せる。
マインドシェア 3.8
「多くない?」
「昨日、研究処理の追加募集があった」
「よくやるな」
「寝てる間だし」
「意識は使ってるだろ」
「まあね」
リョウは自分のこめかみを指で軽く押した。
「ちょっと重い」
「やっぱり使いすぎじゃん」
「昼には戻るって」
「身体だけ寝ても意味ないな」
「でも世界の役には立った」
「はいはい」
リョウがトウマのバンドを見る。
「そっちは?」
「聞く必要ある?」
「ああ」
トウマが腕を向ける。
0.0。
リョウは一秒だけ数字を見る。
「いつも通りだな」
「いつも通り」
それだけだった。
リョウは昔から、トウマのゼロを珍しがらない。
トウマにとって、それはありがたかった。
世の中には、ゼロという数字だけで話が長くなる人がいる。
朝食を済ませ、トウマは家を出た。
昨日と同じ施設へ向かう予定だった。
榊原ジンから、追加検査をすると連絡が来ていた。
アドミン。
マインドネットを管理する専門家。
昨日の検査では、トウマのマインドプログラム能力をまともに測定できなかった。
それだけなら、以前にも経験がある。
ただ。
不明なマインド反応。
あれだけは初めてだった。
トウマは歩きながらマインドバンドを見る。
表示の端には小さく、今日の世界マインドシェア状況が出ていた。
本日の提供マインド
現在値 標準範囲
その下には、昨夜提供されたマインドがどこへ使われたのかが流れている。
広域天候予測。
感染予測。
交通流処理。
仮想現実維持。
生体研究。
マインドネット維持。
何十億人という人間が、眠っている間に少しずつ意識を出す。
一人分なら小さい。
集まれば巨大になる。
街角の表示にも、同じ数字が出ていた。
昨夜もありがとうございました。
あなたのマインドが、今日の世界を動かしています。
通り過ぎる人の何人かが、それを見上げていた。
誰も立ち止まらない。
珍しいものではない。
水を使った。
食事をした。
眠った。
マインドを提供した。
そのくらい当たり前のことになっている。
トウマは表示の前を通り過ぎた。
自分は、その中に入っていない。
入れない。
駅へ着く。
今日は少し混んでいた。
認証ゲートの前に列ができている。
トウマも最後尾へ並んだ。
前には学生らしい三人組がいた。
一人が自分のマインドバンドを見せている。
「昨日二・七だった」
「私、一・九」
「少なっ」
「ゲームしてたから」
「ゲームに使ってシェア減らしたの?」
「自分のマインドなんだからいいでしょ」
三人が笑う。
トウマはぼんやり聞いていた。
「でもゼロよりいいじゃん」
「ゼロってできるの?」
「設定で最低値あるでしょ」
「ノンマインドならゼロらしいよ」
トウマの視線が少しだけ上がった。
三人はこちらを見ていない。
「マジ?」
「うん。ずっとゼロ」
「ずるくない?」
「ずるいっていうか、出せないんじゃなかった?」
「でもマインドネット関係のサービスは使えるんでしょ?」
「一部は使えるらしい」
「みんなが少しずつ世界支えてるのにね」
列が進んだ。
トウマも一歩進む。
「私だったらちょっと気まずいかも」
「毎朝ゼロって出るんでしょ?」
「うわ」
「見たくないな」
そのとき、一人が振り返った。
トウマと目が合った。
視線が下がる。
左手首。
NON-MIND。
学生の口が止まった。
隣の二人も振り返る。
数秒。
誰も何も言わない。
トウマは軽く首を傾けた。
「続きは?」
三人の表情が固まる。
「え」
「話してたじゃん」
「いや……」
「俺も気になってた」
トウマは自分のバンドを持ち上げた。
「毎朝ゼロ見るの、どんな気分なんだろうって話だろ?」
「別に、そういう意味じゃ」
「こんな感じ」
表示する。
マインドシェア 0.0。
「慣れるよ」
三人とも黙った。
ちょうどゲートが進む。
トウマはそれ以上何も言わず、認証を済ませた。
ピッ。
通過。
後ろから小さな声が聞こえる。
「怖……」
足が一瞬だけ止まりかけた。
止まらなかった。
トウマはそのままホームへ向かった。
怖い。
何をした。
話しかけただけだ。
それでも、NON-MINDの表示を見たあとなら意味が変わる。
ノンマインド。
マインドを出さない。
何を考えているか分からない。
ボディユニットを改造できる者もいる。
マインドプログラム能力が高い者もいる。
怖い。
トウマはホームの椅子へ座った。
「便利だな、その言葉」
誰にも聞こえない声でつぶやく。
嫌いと言えば理由を聞かれる。
怖いなら、それで終わる。
電車が到着した。
施設へ着いたのは午前九時を少し過ぎたころだった。
受付には昨日と同じ女性がいた。
短い茶色の髪。
丸い眼鏡。
トウマを見ると、昨日より少し早く端末を操作した。
「久瀬トウマさんですね」
「はい」
「榊原アドミンがお待ちです」
「今日は長い?」
「検査内容までは聞いていません」
「短いといいな」
「どうでしょう」
女性は少しだけ笑った。
昨日より声が柔らかい。
トウマも軽く頭を下げて奥へ進んだ。
検査室。
榊原ジンはすでに待っていた。
三十二歳。
長身で、短い灰色の髪を整え、今日も背筋をまっすぐ伸ばしている。
表情は落ち着いているが、机の上には昨日より多くの資料が積まれていた。
「遅刻はしていないな」
「俺を何だと思ってるの」
「記録上、問題行動の多い元学生」
「元学生って部分いらないだろ」
「事実だ」
「今日もそれ読むの?」
「必要なら」
「やめて」
トウマが椅子へ座る。
ジンはすぐにトウマのマインドバンドを見た。
「今朝の記録を」
「どうぞ」
トウマが腕を差し出す。
ジンが読み取る。
睡眠時間。
身体状態。
マインドレベル。
そして。
マインドシェア 0.0。
「当然だが、変化なし」
「毎日だから」
「マインドレベルは百」
「寝たから」
「昨日の検査後も低下していない」
「そうみたい」
「普通なら低下する」
「へえ」
「へえ、ではない」
ジンが資料を一枚出した。
「昨日、君に簡単なボディユニット操作を行わせた」
「指動かしたやつ?」
「あれでもマインドは消費する」
「俺、減ってなかった?」
「ほぼ変化なし」
「燃費いいんじゃない?」
「そんな単純な話なら楽なんだが」
ジンが椅子へ座る。
「久瀬。君はマインドシェアについてどう思っている」
「急に?」
「答えろ」
「別に」
「別に、とは」
「できる人がやればいいんじゃない」
「君は提供したいと思うか」
「できるなら」
ジンの目が少し動いた。
「意外だな」
「何が?」
「嫌っているのかと思った」
「何で?」
「長年ゼロという数字を理由に嫌な思いをしてきただろう」
「だからって天候予測に恨みはないよ」
ジンが少し黙った。
トウマはバンドを指で回す。
「俺が出さないんじゃなくて、出せないだけだし」
「その違いを理解しない人間もいる」
「知ってる」
「気にしていないのか」
「気にしてたら毎朝大変だろ」
トウマは笑った。
けれど、指はバンドの表示を消した。
ジンはそれを見ていた。
何も言わなかった。
「今日の検査は、シェアそのものではない」
「じゃあ何?」
「昨日測れなかった部分を分解して調べる」
「また壊れない?」
「測定装置を?」
「うん」
「壊したら請求する」
「俺のせいじゃないって」
奥の扉が開いた。
一人の女性が入ってくる。
二十代後半ほど。
耳の下まで伸びたベージュ系の髪が柔らかく波打っている。
細身で、動きはゆっくりしているが、手首にはアドミン用のマインドバンドがついていた。
「この子?」
「久瀬トウマだ」
「こんにちは」
「こんにちは」
女性はトウマの前へ座った。
「七瀬ハル。アドミンをやってる」
「アドミン二人?」
「今日はね」
「俺、そんな危ない?」
「危ないか調べるために二人いるの」
「怖」
ハルが笑う。
ジンは笑わない。
「七瀬は測定側を担当する」
「よろしく」
「はい」
ハルが測定器を準備する。
昨日より簡素だった。
頭部へ何かをつける必要もない。
トウマのマインドバンドと、検査用のボディユニットを連動させる。
「最初は普通の処理からね」
「昨日と同じ?」
「もっと簡単」
「退屈そう」
「退屈なくらいが安全だから」
部屋の中央に小さなボディユニットが置かれている。
人型ではない。
腕だけを模した検査機。
五本の指がある。
「人差し指を曲げて」
トウマが意識を向ける。
曲がる。
「戻して」
戻る。
「中指」
曲がる。
「全部」
握る。
ハルが数値を見る。
「正常」
「そりゃそうだろ」
「次、動作速度を一・二倍」
動く。
「一・五倍」
動く。
「二倍」
動く。
ジンが横から言う。
「そこまで」
「まだいけるよ」
「知っている。だから止めた」
トウマは腕を止めた。
ハルが記録を見る。
「マインド消費、ほとんど出てない」
「昨日もそうだった」
「トウマ、何か特別なことしてる?」
「普通に動かしてるだけ」
「プログラムを頭の中で組んでる感じ?」
「違う」
「じゃあ、どうやってるの?」
「こうしたいって思う」
「それだけ?」
「うん」
ハルがジンを見る。
ジンは腕を組んだまま動かない。
「次へ」
「了解」
ハルが処理を切り替える。
「今度は、この腕の動作プログラムを見て」
「触っていい?」
「見るだけ」
「またそれ?」
「昨日の記録を読んだから」
「信用ないなあ」
「二十八件は強いよ」
「数えるなよ」
トウマは検査用の腕を見る。
昨日と同じ。
眺める。
ただそれだけ。
なのに。
頭の中に動きが浮かぶ。
指。
関節。
速度。
力。
その奥。
制限。
ここから先は動かない。
ここから先は力を出さない。
ここから先は一般利用者には触らせない。
そんな境界がある。
「見えた」
ハルが顔を上げる。
「何が?」
「制限」
「どの制限?」
「全部」
「……全部?」
「たぶん」
ジンが近づく。
「解除できるか」
「できると思う」
「するな」
「分かってるって」
「では、制限の一つ手前まで処理を組め」
「一つ手前?」
「解除せず、解除直前まで」
「変な検査」
「できるか」
「やってみる」
トウマは腕を見る。
境界へ意識を伸ばす。
難しくない。
扉がある。
開ける必要はない。
取っ手へ触れる。
そんな感覚だった。
「できた」
ハルの測定器が鳴った。
ピッ。
数値が上昇する。
ハルの表情から笑みが消えた。
「待って」
「何?」
「まだ何もしてないよね?」
「解除はしてない」
「ジン」
「見えている」
ジンが表示を見る。
マインドプログラム処理値。
一般利用者の範囲を越える。
専門技術者の範囲を越える。
上級技術者。
アドミン。
さらに上。
数字が止まらない。
トウマは腕を見たままだった。
「まだ?」
ハルが答えない。
「ねえ」
「ちょっと待って」
「疲れてきた」
「マインドレベルは?」
ジンがトウマのバンドを見る。
99。
「一しか減っていない」
「普通じゃないの?」
「普通ではない」
処理値がさらに上がる。
測定器が短い警告音を鳴らす。
ハルが手を止めた。
「上限近い」
「じゃあ終わり?」
「トウマ、処理を戻して」
「はい」
トウマが意識を離す。
検査用の腕は何も変わっていない。
指も動いていない。
安全制限も残っている。
ただ、そこへ触れる直前まで行っただけ。
それだけだった。
測定器には数値が残っていた。
ハルが椅子へ座る。
「これ……」
ジンが言う。
「もう一度測る」
「同じ結果になると思う」
「確認する」
「測定器を替える?」
「ああ」
別の装置が運ばれてくる。
もう一度。
トウマが見る。
制限へ近づく。
警告音。
上限。
停止。
三台目。
同じ。
四台目。
同じ。
トウマは途中から欠伸をしていた。
「まだやる?」
「最後だ」
「さっきも聞いた気がする」
「今度こそ最後だ」
五台目。
結果。
測定上限。
ハルが額を指で押さえた。
「私より高い」
トウマが見る。
「ハルより?」
「かなり」
「アドミンなのに?」
「そうだよ」
「ジンは?」
ジンが答える。
「私の測定値も越えている」
「へえ」
トウマは少し考えた。
「じゃあ俺、アドミンになれる?」
「資格がない」
「能力あるのに?」
「能力だけでなれる職業ではない」
「残念」
「それ以前に前歴を考えろ」
「ああ」
トウマは納得した。
ハルが記録を見つめている。
「変だね」
「何が?」
「マインドシェア、ゼロなんでしょ」
「うん」
「マインドリンクも自動では起きない」
「うん」
「マインドレベルの提供もない」
「うん」
「なのに、プログラム能力だけこれ?」
ハルが表示をトウマへ向ける。
測定不能。
トウマは昨日も見た言葉を眺めた。
「またそれ」
「慣れてる?」
「三回くらい」
「これは慣れちゃだめなやつだと思う」
ジンが資料を並べる。
マインドリンク。
未確認。
マインドシェア。
ゼロ。
マインドプログラム。
測定不能。
三つの結果が並ぶ。
まるで別々の人間を調べたようだった。
「普通、マインドプログラム能力はマインドネットとの接続経験にも影響される」
ジンが言う。
「毎日ネットを利用し、処理へ触れ、訓練することで上達する」
「俺、行ったことないけど」
「だから問題なんだ」
「独学」
「独学で説明できる数値ではない」
「才能?」
「それで片づけるには高すぎる」
トウマは少し嬉しそうに笑った。
「褒められてる?」
「困っている」
「同じようなもんだろ」
「違う」
ハルが笑った。
そのあと、表示を見て表情を戻す。
「ノンマインドって、こういう人が多いの?」
「一部には高いマインドプログラム能力が確認されている」
ジンが答える。
「ただし久瀬ほどではない」
「じゃあトウマだけ?」
「現時点では分からない」
トウマは手首を見る。
0.0。
その数字のすぐ近くに、測定結果が追加される。
マインドプログラム 測定不能。
ゼロ。
測定不能。
片方は何もないように見える数字。
もう片方は、測れないほど大きい。
「変なの」
トウマがつぶやく。
ジンが見る。
「何がだ」
「俺のバンド」
「そうだな」
「何も出さないって言われるのに」
トウマは指で表示を切り替えた。
「こっちは多すぎて測れないんだ」
ハルは何も言わなかった。
ジンもすぐには答えなかった。
トウマは椅子から立ち上がる。
「終わり?」
「ああ」
「帰っていい?」
「今日はな」
「今日は?」
「追加検査が必要だ」
「また?」
「当然だ」
「面倒くさい」
「君自身のことだ」
「十九年これで生きてるからなあ」
センサーを外す。
部屋を出ようとしたところで、ジンが呼び止めた。
「久瀬」
「何?」
「一つだけ聞く」
「うん」
「学生時代、ボディユニットの制限を解除したとき、どこで方法を覚えた」
「覚えてない」
「思い出せ」
「本当に習ってない」
「では、どうやった」
「見たら分かった」
「最初から?」
「たぶん」
ジンの眉がわずかに寄る。
「プログラムを学ぶ前からか」
「うん」
トウマは少し考えた。
「小学生のころ、ボディユニット見てたら、ここ変えられそうって思った」
「変更したのか」
「そのときはしてない」
「そのときは?」
「中学でやった」
「やはり君は問題児だな」
「昔の話」
ハルが小さく笑う。
「今は?」
トウマが答える。
「必要ならやる」
「変わってないね」
「ちょっとは変わったよ」
施設を出る。
午後の日差しが街へ落ちていた。
通りには大きな表示。
今日も世界マインドシェアへのご協力ありがとうございます。
数字が流れている。
何億。
何十億。
膨大なマインド。
その前を人々が歩く。
誰かのマインドが天候を読む。
誰かのマインドが研究を進める。
誰かのマインドが仮想現実を支える。
一人では小さな力。
集まれば世界を動かす。
トウマは自分のバンドを見る。
マインドシェア 0.0。
駅で聞いた声を思い出す。
みんなが少しずつ世界を支えてるのに。
ゼロ。
確かにゼロだ。
どれだけ眺めても増えない。
その下。
今日、新しく記録された項目。
マインドプログラム 測定不能。
トウマは二つを交互に見る。
「何も出せない、か」
少しだけ笑う。
「じゃあ、これは何なんだろうな」
バンドを閉じようとする。
その瞬間。
表示が揺れた。
昨日と同じ。
不明なマインド反応。
トウマの指が止まる。
周囲を見る。
誰もこちらを気にしていない。
もう一度表示を見る。
不明なマインド反応を検出しました。
その下。
昨日にはなかった項目が増えている。
マインドプログラム応答。
トウマの目が細くなる。
「応答?」
自分は何も送っていない。
何も提供していない。
マインドシェアはゼロ。
それなのに。
何かが返ってきている。
指を近づける。
警告。
許可されていない処理です。
トウマは動きを止めた。
学生時代なら、迷わず触っていた。
入れるなら入る。
変えられるなら変える。
それで何度も怒られた。
今も好奇心は消えていない。
むしろ強くなっている。
けれど。
トウマは一度だけ指を離した。
「……家でやるか」
完全にやめる気はなかった。
駅へ向かって歩き出す。
背後では巨大表示が、世界中のマインド提供量を更新し続けている。
一。
二。
三。
数え切れないほどの意識が集まっていく。
その中に、久瀬トウマの数字はない。
今日もゼロ。
明日も、おそらくゼロ。
世界から見れば。
何も提供していないノンマインド。
けれど、そのゼロの奥には。
アドミンでも測れないほどの何かが、確かに存在していた。
コメント
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第4話読み終えた!トウマの「ゼロ」と「測定不能」のギャップ、めちゃくちゃ気になる設定だわ。駅の学生たちの「みんなが世界支えてるのにね」発言、グサッときた…。でもトウマは「慣れるよ」って返すんだよな。その強さと、最後に「家でやるか」って自分で決めるところ、すごくトウマらしくて好き。プログラム能力だけ飛び抜けてる理由、早く知りたい!柘榴とAIさん、この世界観好きです🔥