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次の週末。
恭平はいつになく真剣な表情で、スケッチブックを抱えて街の公民館へと向かっていた。
目的は――
地域の学生美術コンクールへの出品。
ほんの数日前まで、誰にも見せられなかった自分の絵。
けれど、和也にあの日「本当の自分を守るのは、自分しかおらん」と言われ、
初めて、“怖さ”よりも“前に進みたい気持ち”が勝った。
受付で名前を書きながらも、手はまだ震えていた。
恭平:(……ほんまに出してええんかな)
受付の女性に作品を手渡したとき、自分の心が「何か」を乗り越えたのを感じた。
恭平:(出した。……俺、今、逃げんかった)
その夜。
シェアハウスに戻ると、丈一郎がキッチンで料理をしていた。
丈一郎:「あれ、恭平? どこ行ってたん?」
恭平:「ん? ちょっと用事や」
丈一郎:「へえ〜。なんか顔つきちゃうやん。……なんか、“自分のこと信じられた人の顔”って感じやな」
恭平は思わず吹き出した。
恭平:「なにそれ、ポエムか?」
丈一郎:「マジで言うてんねんって」
丈一郎が微笑んだあと、ふと真理亜が部屋から出てきた。
真理亜:「恭平くん、ちょっといい?」
恭平:「え? なに?」
真理亜:「今日、学校の先生から電話あってね。君が出した絵、一次審査通ったって」
恭平:「……え」
一瞬、言葉が出てこなかった。
真理亜:「まだ予選やけど、通過者の中でも特に評価が高かったって。“心の奥にある光を描くような作品”って評されてたよ」
恭平の目が、じわりと潤んだ。
恭平:(俺の“好き”が、誰かに届いた……?俺の“中身”を、誰かが認めてくれた……?)
丈一郎:「すごいやん!!」
と丈一郎が肩を叩き、
謙杜:「恭平、やるやん〜!!」
と謙杜も叫びながら走ってきた。
和也は、静かに笑って言った。
和也:「な? “おもろいキャラ”ちゃう恭平も、かっこええやろ?」
その夜。
恭平は、自分の部屋でスケッチブックを開き、真っ白なページを前に言った。
恭平:「次は……“笑ってる自分”を描こうかな」
“本当の自分”で、誰かの心を動かした。
それは、初めて“キャラ”じゃない自分を、心から好きになれた瞬間だった。
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