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「う、キュウリ、ここは危ない……から、向こうへ行っておきま……おきなさい」
思わずいつも通り。『ウリちゃん、ここは危ないでちゅから向こうへ行っておきまちょうね』なんて話しかけそうになるのを必死にこらえた。
「ぶちょ? ひょっろしれ緊張しれましゅか?」
(ああ、色々とな!)
荒木羽理の言葉に即座に心の中でそう返した途端、
「ホント、可愛いんらからぁ♥」
ヘラリと笑われて「か、かわっ!?」と反応せずにはいられない。
(お、俺はっ。お前にだけは可愛いと言われるよりかっこいいと思われたい!)
むしろ可愛いのは彼女の方なのだ。
無理矢理手を引かれて座らされた椅子の上。
荒木にほわほわと頭へ触れられながら、大葉はそんなことを思った……のだが。
「わ、熱い、熱い! バカ! 荒木、やっぱ自分でやる! 貸せ!」
酔った荒木にドライヤーを渡したのは間違いだった。
同じところにブォォォォと当てられ続ける熱風に、危うく火傷しそうになった大葉は、ガッと立ち上って荒木の手からドライヤーを奪い返したのだが……。
それと同時、ハラリと彼女のタオルが外れて。
(んっ? やわらかっ……)
「やぁんっ! 屋久蓑ぶちょぉのえっちぃ」
はずみで荒木の胸をギュッと掴んでしまった大葉は、酔っぱらった彼女にペチッと力のこもらないビンタをされた。
「ああああああっ! すまん! お、俺っ、べ、別に今のはわざとじゃ……。いや、確かに触ってみたいとはずっと思い続けていたけど……そ、それはこういうタイミングじゃなくもっとじっくりな感じなわけで! ……じゃなくっ。あああっ、何を言ってるんだ俺はっ‼︎ ――お、お願いしましゅ、ウリちゃんパパを助けてくだちゃい……」
突然のラッキースケベにテンパる余り心の声を駄々漏らした挙句、キュウリのことをいつも通り〝ウリちゃん〟と呼んで幼児語で話しかけてしまった大葉である。
「なっ、何れ部長がわらしより真っ赤になっれ照れてりゅんれしゅかっ。しょれに……わらしはぶちょぉをパパに持った覚えなんれありましぇんよっ⁉︎ あっ。もしかしれ、そのパパは……パパ活のパパれしゅか!? わらし、そんなちゅもりもありましぇんからね⁉︎」
荒木羽理が真っ裸のままポカポカとグーパンチしてくるから、大葉は(何でそうなるんだ!)と声にならない抗議の声を上げながら、たまらずその場へしゃがみ込んで「ウリちゃん……!」と足元に近付いてきたキュウリを抱きしめた。
そんな感じ。
キュウリで必死に隠した股間が、まさかギンギンに反応していて痛いだなんて、今の荒木にバレていいはずがないではないか。
「ほ、ぇっ?」
ギュッと縮こまって荒木の怒りと、下腹部の熱が去るのを待つ大葉に、酔っ払い娘が頭上から間の抜けた声を落としてくるから。
その声に思わず荒木の方を見上げたら、彼女の薄い下生えに包まれた大事なところを仰ぎ見る羽目になって、大葉はキュウリを抱きしめる腕に力を込めて慌てて視線を逸らした。
だが、荒木はそんな大葉の様子に気付いた風もなく、キョトンとしてキュウリを指さすと、「ひょっろしれ……しょの子も〝うり〟ちゃん?」と問いかけてくる。
大葉はキュウリを二の腕に抱き締めてうつむいたまま、コクコクとうなずいた。
そうしてキュウリを片腕で支え直すと、足元へ落ちたままのバスタオルをバッと荒木の方へ突き出して、「どっ、どうでもいいからっ! さ、先にこれ、巻き直せ! 襲われたいのかっ」と吐き捨てる。
荒木羽理は大葉の言葉にぽやんと自分の身体を見下ろして、次の瞬間今更のように「きゃぁぁぁーっ。何れもっろ早く言っれくれないんれしゅかぁ!」と叫んでタオルを手にその場にへたり込んだ。
そのせいで、大葉の視線が再び真正面から自分とかち合ってしまうことになるだなんて、思ってもいないんだろう。
「ば、馬鹿っ! 何故しゃがむ!」
荒木羽理の白い裸体が目の前へかがみ込んできたことに驚いた大葉は、キュウリを抱いたまま慌てて立ち上がったのだけれど――。
「やぁん! ぶちょぉのえっちぃー! めっちゃ反応してりゅじゃないれしゅかぁ!」
そのせいで下からこちらを見上げる形になった荒木にそそり立つ股間を見られて、いわれのない(?)非難をされる羽目になった。
***
何だかんだと色々トラブルがあったけれど……。
とりあえず二人とも無事髪の毛も乾いたしということで各々ちゃんと服を着ようという話になった。
大葉は以前荒木羽理から預かっていたアパレルメーカーの袋を彼女に手渡して脱衣所を明け渡すと、自分は寝室へ移動して綿麻の上下セットアップの黒いルームウェアに着替えたのだけれど――。
「何でお前、そんな服しか持って来てないんだ!」
何故か再度対面してみれば、荒木は白いシフォン素材の長そでVネックブラウスに、ミディアム丈のベージュのフレアスカートと言う、どう見ても今からご出勤ですか?というオフィスカジュアルに着替えていた。
***
何でそんな服しか持ってきていないんだ!と屋久蓑大葉から責められた荒木羽理は、(だって、ワープしたあと外に出ることを考えたら、まともな格好しておかなきゃって思うじゃないですかっ)と、かすみの掛かった頭のまま心の中、割とまともな言い訳をしていた。
「外に出るかりゃれすよっ」
なのに頭で思ったままをうまく言葉に出来ないのは、きっとアルコールのせいだ。そう分かっていても、どうすることも出来ないのだから意味がない。
羞恥心とか恥じらいとか……乙女が持つべき色んなものがポォーンと思考力の彼方へ追いやられていることを頭の片隅で何となく自覚しながらも、肝心な対外面がついてこないのだから性質が悪いではないか。
「はぁ!? 荒木、ひょっとしてもう一度俺にお前の家まで送らせるつもりかっ!」
自分だけラフな格好に着替えて〝お寛ぎモード〟な屋久蓑部長に、羽理は何となくズルイと思ってしまって。
「自分らけジュルイれしゅ」
本来ならば、『タクシーとかで帰るのでお気遣いなく!』と返すところなのに、ショート寸前な思考回路では、思いの強い方が先に出てしまうらしい。
「じゅるい? ……ああ、ズルイってことか。……って何がだ!」
「わらちらってこのままごろぉーんと転がれるような服が着たいれす!」
そう。家でいつも着ているような、ダラリとえり首あたりが伸びたようなだらけたやつ。
もしくはダボダボTシャツにズボンなし!
屋久蓑部長が聞いたら、『俺は別にだらけた格好なんてしていないぞ⁉︎』と反論してきそうなことを思いつつ。
(何でこんなお仕事に行くみたいな格好してるんですかね、私!)
自分がそれを用意したからに他ならないのだが、羽理はそんな不満まで抱えてしまった。
だが――。
「そ、それは……つまりっ。う、うちに泊まりたいってことでいいんだな?」
やけにしどろもどろで屋久蓑部長がそんなことを言ってくるから、何のことでしょうね?と思ってしまって。
「ほぇ?」
間の抜けた声を出したら「ダラッと出来る格好になれたら、そのまま横になりたいんだろ? 違うのか?」と畳みかけられた。