テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#王子
そのあまりに真っ直ぐで不器用な、けれど抗いがたい響きを持った言葉は
熱に浮かされていた夜の彼よりも、ずっと深く、激しく私の心に突き刺さった。
◆◇◆◇
午後の庭園は、春の柔らかな日差しが満ち、色とりどりの花々が芳醇な香りを振りまいていた。
いつもなら、主従の距離を守って数歩後ろを歩く私を、アイゼン様は強引に隣へと引き寄せた。
「ノエル、お前はいつも俺に尽くしてばかりだが……お前自身が望むものはないのか? 行きたい場所、着たい服、食べたいもの」
「私が望むもの、ですか……?」
「……あぁ、どんなに些細なことでもいい。せめてもの恩返しに俺がすべて叶えてやりたい」
実家では、息をすることさえ許しを請わねばならなかった私。
戸惑う私を見て、アイゼン様は不器用な手つきで
私の肩にかかった一房の髪を指で弄んだ。
その指先が耳元を掠めるたび、電気でも走ったかのように体が震える。
「お前は無防備すぎる。……誰にでもそんなふうに、無邪気に尽くすのか? あの夜、俺の背中を拭いたときのように」
「っ……! あの時は、アイゼン様が辛そうで、少しでもお役に立ちたくて……」
「お前は優しいからな…ただ、ああいうことを他の男にされると思うと、辛抱ならん」
「そ、そんなことアイゼン様にしかしませんよ…!」
「お前のその温かな手も、優しい声も……すべて俺だけのものにしたいと言ったら、お前は困るか?」
アイゼン様の瞳は、獲物を狙う猛獣のような鋭い独占欲と
捨てられた仔犬のような、私の返答を恐れる切実さを同時に宿していた。
その熱烈な射抜くような視線に捕らえられ、私は自分の顔が沸騰しそうなほど熱くなるのを感じた。
「アイゼン、様……?ど、どういう意味で…?」
「……すまない、困らせてしまって。だが、俺はもう……お前のいない日々など考えられなくなった」
彼はそう言うと、私の小さな手を、壊れ物を扱うような慎重さで包み込んだ。けれど、そこには決して逃がさないという、鉄のような強い意志が込められていた。
告白というより懺悔のような
重く掠れた声でアイゼン様が紡いだ言葉に
私は世界が音もなく崩れていくような衝撃を覚えた。
これまで、母からの愛に飢え続け
実家では侮蔑の対象でしかなかったこの身が
今は、大陸最強の武人と言われる氷の皇帝によって求められている。
嬉しさと困惑とがごちゃ混ぜになり、返事を返すどころか
鼓動が耳元で雷鳴のように轟き、呼吸すらうまくできない。
喉がカラカラに乾ききって、返すべき言葉が何も出てこなかった。
顔が燃え上がるとはこういうことなのだろう。熱い。焼け付くように熱い。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!