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#王子
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目の前にいるアイゼン様───
あの氷のように冷徹と噂される皇帝が、今は信じられないほど苦しげに眉根を寄せ
まるで断罪される前の罪人のように私の反応を待っていた。
深い翠玉の瞳が不安定に揺れている。
そこに映るのは、どうしようもなく狼狽し、真っ赤になった自分の姿だ。
(嘘……嘘でしょ? アイゼン様が……私を?)
混乱が頭の中で渦巻く。
だって私はただの添い寝係。
家族からも蔑まれてきた存在だ。
彼はこの広大な帝国の絶対君主。
私が踏む草一枚ですら、本来なら畏れ多い存在のはずだ。
アイゼン様の大きな手が、私の小さな拳をすっぽりと包み込んでいる。
触れられた部分から火がついたように熱が伝わり、そこから全身へと拡散していく。
(あの硬い掌……熱がある時にも握りしめ返してくれた力強い手……)
記憶が鮮明によみがえり、余計に動揺する。
「……ノエル?」
アイゼン様が心配そうな、それでいてどこか期待を押し殺したような声で囁く。
その低く響く声が脳髄を直接震わせるようで、もう立っているだけで精一杯だ。
「あの…えっと……その……!」
なんとか絞り出した声は自分でも恥ずかしくなるほど震えていた。
舌がもつれてうまく回らない。
「わ、私なんかが……いいんですか? だって、私、なにも持ってなくて……」
自分で言いながら情けなくなる。
結局また卑屈になっている。
でも事実だ。
爵位もない、財産もない、特別な才能もない。
ただ『疲れを癒し安眠させる力がある』という一点だけでここにいるに過ぎない。
「……そういうところだ」
アイゼン様は小さく息をついた。
それは失望のため息ではなかった。
もっと複雑で、苦しげで、そして愛おしむような吐息だった。
「お前がそうやって、すぐに自分を卑下するのが嫌なんだ。俺が欲しいのはお前の何もない過去じゃない」
「今、ここにいるお前自身だ。その献身的な優しさも、路地裏で見ず知らずの俺をなんの見返りも無しにわざわざ助けてくれた勇気も……全部だ」
真摯な告白に、涙腺が緩みかけた。
初めてなのだ。
こんな風に真正面から、自分自身を見てほしいと願われたのは。
「それに」
アイゼン様はほんの少しだけ目を細め、悪戯っぽい光を宿した。
「お前が思う以上に、お前は魅力的だだ。少なくとも俺にとってはな」
わざと露骨に言い換えた言葉に、ぼんっと音がしそうなほど顔が真っ赤になるのが分かった。
わざとだ。
この人は、この状況を楽しんでいるのだ。
でもその笑みは、あの時の自嘲的なものとは全く違う。
温かくて、心の底から楽しそうで。
初対面のとき怖いと思っていた厳格な表情よりも
今みたいに少し意地悪く笑う顔の方が何倍も素敵だと気づいた瞬間