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#高校生
第51話 「最後のスコアブック」2021年9月。
夏の甲子園準優勝から数週間。
柳城高校野球部では、新チームが動き始めていた。
一方で。
静かに一区切りを迎えようとしている人がいた。
小早川舞。
三年生マネージャー。
その日。
部室では引き継ぎが行われていた。
机の上には何冊ものスコアブック。
舞が三年間書き続けたものだった。
一年生の女子マネージャーが緊張した顔で座っている。
「そんなに難しく考えんでいいよ」
舞が笑う。
後輩も少し緊張がほぐれた。
「でもね」
舞はスコアブックを優しく撫でる。
「これ、ただの記録じゃないんよ」
後輩が顔を上げる。
「みんなが頑張った証やけん」
そう言って最後の一冊を渡した。
練習終了後。
部員全員が集められる。
福間監督が前へ出る。
「今日は三年生マネージャーの最後の日や」
選手たちが拍手する。
舞は少し照れくさそうだった。
福間監督は続ける。
「甲子園準優勝は選手だけの力じゃなか」
静かな声だった。
「見えん所で支えてくれた人がおる」
部員たちが舞を見る。
「よう頑張った」
それだけだった。
だが福間監督らしい言葉だった。
舞は深く頭を下げた。
「ありがとうございました」
少しだけ声が震えていた。
その日の夜。
おっちゃんとおばちゃんの店。
野球部の送別会が開かれていた。
柴田たち三年生。
舞。
福間監督。
みんなが集まる。
店の壁には甲子園準優勝の記事。
写真。
色紙。
思い出が並んでいた。
「舞ちゃんも卒業か」
おっちゃんが言う。
「早かったね」
おばちゃんも笑う。
舞は少し考えた。
「長かったような、短かったような」
その言葉に全員が頷く。
気付けば夜も更けていた。
帰り際。
舞は一人で学校へ寄った。
グラウンドの照明は消えている。
誰もいない。
静かな野球場。
バックネット裏へ立つ。
一年生の頃。
兄の啓介を見ていた場所。
マネージャーになった場所。
甲子園を夢見た場所。
泣いた日もあった。
笑った日もあった。
全部ここだった。
しばらくして舞は空を見上げる。
「終わったね、お兄ちゃん」
誰もいないグラウンドへ向かって呟く。
返事はない。
けれど不思議と寂しくなかった。
野球部は続いていく。
佐伯たちの新チームへ。
塁と史陽の世代へ。
そして、まだ見ぬ未来へ。
舞は最後に一礼する。
三年間通ったグラウンドへ。
感謝を込めて。
そして静かに歩き出した。
もう野球部のマネージャーではない。
けれど柳城野球部は、これからもずっと特別な場所だった。
第51話 終
コメント
1件
読んだよ〜〜!!😭💕 第51話、区切りとしてめっちゃ綺麗でじーんときた……! 舞ちゃんがスコアブックを撫でながら「ただの記録じゃない」って言うシーン、泣ける。「終わったね、お兄ちゃん」って誰もいないグラウンドに向けて呟くところで完全に心持ってかれたよ……。福間監督の「よう頑張った」も短いのにあたたかくて、本当にいいチームだなって思った! 舞ちゃんの三年間、ちゃんと報われてる感じがして読後感すごく良かったです🌸 連載中なら続きも気になるけど、この話だけでじゅうぶんエモかった……!! 天海先生、素敵な話をありがとうございます✨