階段が崩れ、深い穴に落ちてしまったグレッグ。
彼を助けるため、進とマリーは穴の奥深くへと降りていた。
マリーの緑魔法で生み出した植物をロープ代わりにして、進む。
「グレッグさん生きているんでしょうか?」
「それは奴の生命力次第だな―――」
「だが、もし助けられるなら助ける。」
「この天才”天童進”名に懸けて―――」
だから死んでくれるなよ・・・。
漆黒の穴の底を目指して進む中、進は日本にいた頃を思い出す。
幼少の頃より両親から古今東西あらゆる学術、格闘術を仕込まれ育ってきた。
幸か不幸か大抵のことは見ただけで覚え、再現できるくらいのスペックと言うこともあり、どんな勝負にも勝ち続け、いつしか世間からは”天才”と呼ばれ持て囃された。
周囲から見れば羨ましくなるようなことだが、進自身の思いは違っていた。
いつも彼は勝負に勝つ度にある種の憂鬱な気分になっていた。
今回は勝てたが、次また同じように勝てるとは限らない。いつも不安を胸に抱え戦っていた。
もし負けたら、親、世間、周囲からの期待を裏切ることになるんじゃないかとそんな不安が常にあった。
当たり前がどれだけ難しいのか。
何度逃げ出そうと思ったか数えきれない。
今にしては下らないことばかり―――
親が大企業の社長であったため、テレビや雑誌への露出も多く、気が休まる日が少なかった。
学校では有名人と言うこともあり、周りからは絡みにくいと思われているのか友達も中々できなかったが、幼馴染の未央だけは昔から自然と仲良くしてくれた。
未央と一緒にいるときだけは、自分自身が自然に振る舞うことができた。
アイツのオカルト話を放課後帰るときに聞かされるのがオレの日常―――
そんな下らないオカルト話をするときの未央の楽しそうな顔が心から好きだった。
オレはそんな楽しい日常に戻りたいと心から思っている。
もう一度未央の前を迎えに行くときオレはオレ自身が胸を張って誇れる存在になっているのか。
もしこのままグレッグを見殺しにしていたら、オレはそんな存在になれないような気がした。
だからオレは奴を救出する。
何としても―――
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「チッ!」
グレッグは激しい痛みを全身から感じながら、舌打ちをしていた。
「体が動かねぇ!」
「こりゃ全身の骨が折れていやがる。」
「オレはこのまま死ぬのか…」
グレッグの腹から鮮血がドクドクと流れていた。
どうやら落ちていた先の岩石が尖っていたようでグレッグの脇腹に刺さっているようだった。
暗い前も見えないこんなダンジョンでグレッグは死を覚悟する。
「結局オレは何者にもなれなかったな―――」
冒険者ランクはC止まり、フラムのような若い有能な冒険者に先を越され、何度悔しい思いをしたか。
もちろん冒険者になりたての頃はそれは夢や希望に満ち溢れていた。
オレはいつかビッグになるなんてそんな希望を持っていた。
しかし、現実はそんなに上手くいかない。
それで酒に酔って物や人に当たったりしたことも数知れない。
「あ~オレの人生ってこんな惨めにも終わっていくんだな。」
グレッグは薄れゆく意識の中、大粒の涙が頬を伝っているのを感じていた。
「勝手に終わってもらっては困るんだが!」
急に上の方から明かりがやってきた。
「テメーは何でここに!?」
「お前を助けに来たんだよ。」
進とマリーがグレッグのところにやってきた。
「白魔法:ヒール」
白魔法でグレッグの傷を治す。
「おぉ!なんだ体の痛みが無くなっていく。」
暫くしてグレッグの傷が完全に塞がり、普通に会話ができるまでになった。
「どうしてオレを助けた?」
「前にオレはお前に殴ろうとしたんだぞ。」
「別に死ぬほどの悪い奴じゃないと思っただけだ。」
「そんな理由だけでこんな危険かもしれないところに二人だけで来たっていうのか!?」
「悪いか?」
「いや悪くはねぇけどさぁ!」
グレッグは呆れて、深い溜め息をついた。
「もういいや、お前らに対して前に無礼な態度を取ったのは謝る。」
「今後はああいったことはしないと誓う。」
そう言って、グレッグは頭を下げた。
「もういいって。オレもお前のことをぶっ飛ばしたわけだしそれでチャラにしよう。」
こうして進とグレッグは和解した。