ウィリアムやセレンを乗せた馬車が立ち去ると、ラウが控えめに申し出た。
「お部屋を整えてございます。お疲れでしょうし……少しお休みになられますか?」
ラウの申し出に、何となくランディリックを見遣ったリリアンナである。ナディエルは侍女らしく、数歩下がった位置からリリアンナを静かに見守っていた。
「疲れたならそうさせてもらうといいよ」
その視線にランディリックが言って、「ここの主人はキミだからね。誰にも遠慮することはない」と付け加える。
「えっ?」
なんとなく……生家であるここも、ランディリックが取り仕切っている館、という印象を勝手に抱いていたリリアンナは、その言葉に思わず声を漏らした。
「だってここはウールウォード邸だろう?」
頭をふわりと撫でられて、優しい眼差しを向けられたリリアンナは、ドギマギしてしまう。
「で、でも、私……」
ウールウォード家のために、何ひとつ貢献できていない。
きっと現在、ウールウォード家の領地経営を中心になってみてくれているのはランディリックだ。そうしてその手足となって働いてくれているのはきっと、今目の前にいるラウたちなのだ。
「今までは何も出来ていなかったかもしれないけど、これからは違うだろう? ね、リリー。僕が何のためにウィルに頼んで、キミが心地よく過ごすための人員を手配してもらったと思ってるの?」
「それは……」
ただ単に、昔を懐かしんで涙するためでないのだけは確かだ。
「リリー。キミはこの四年間、クラリーチェ先生の元で沢山勉強をしただろう? 最初は戸惑うかも知れないが、身に着けた知識はきっと役に立つし、分からないことがあっても皆が助けてくれる。――もちろん、僕だってリリーのためなら何だってするつもりだ。だから自信を持って? ここの主人は紛れもなくキミ――リリアンナ・オブ・ウールウォードだ」
真摯な眼差しで見下ろされたリリアンナは、小さく頷いた。そんな二人のやり取りを、心配そうに見つめていたナディエルだったけれど、リリアンナのその言葉を聞いてホッとしたように肩の力を抜いた。
それは目の前で二人のやり取りを見ていたラウにしても同じだったらしい。
「リリアンナ様、どうかこのラウめにご指示を」
胸に手を当て、頭を下げる。
「あ、あの……じゃあ私、荷物を置いたらランディと一緒に庭を回りたい。さっきベルトンが言ってた、チュリーヌの花を……見に行きたいの」
今は下がってしまった庭師の名を告げてそう言えば、
「かしこまりました。ではそのように手配いたしましょう」
ラウが恭しく一礼をした。
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