朝、目を覚ますと、照は先に起きていた。
キッチンでコーヒーを淹れながら、何事もなかったような顔をしている。
「おはよ」
「……おはよ」
気まずくなるのが怖かった。
けれど、照は何も変わらない。
(そうだよな。照にとっては昨日のことなんて、ただの酔いのせい)
「俺、そろそろ帰るわ」
「ん、じゃあまた後でな」
軽く手を振る照を背に、部屋を出る。
エレベーターの中で、大きく息を吐いた。
(期待するな。勘違いするな)
昨日照が受け入れてくれたのは、照が優しいからで…。
わかっているのに、心は照を求めてしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
音楽番組の収録が終わり、楽屋にはまだ熱気が残っていた。
メンバーたちは疲れた様子を見せながらも、達成感に満ちた笑顔を浮かべている。
「お疲れ!」
スタッフが差し入れを運んでくる中、無意識に照の姿を探していた。
(今日も格好良かったな……)
ステージの上で堂々とパフォーマンスをする照。
その姿に見惚れてしまうのは、もう何度目か分からない。
けれど、照の視線の先に自分はいない。
「ふっか、何ボーッとしてんの?」
佐久間の言葉にハッとして、「いや、なんでもねぇよ」と誤魔化す。メンバーには…気づかれたくない。
楽屋を出ると、廊下の端で照がスタッフと話しているのが見えた。
楽しそうに笑う姿。
あの笑顔が、自分に向けられることはないと分かっているのに、胸が疼く。
「…先に帰るわ」
誰に言うでもなく呟いて、テレビ局を後にした。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!