テヒョンside
朝ジミナが起きると、僕は温かいタオルでジミナの顔を拭いてやった。ジミナの目は腫れていて、顔もむくんで腫れぼったい。
「ねぇテヒョン、僕の顔ひどいよね…先生たちに泣いてたってバレちゃうかな?」
「大丈夫だよ、ジミナは少しぐらい腫れぼったくてもかわいいよ。お餅みたいで」
「もう!僕は真剣なんだから、からかわないで!」
「ジミナおしっこは?尿瓶用意する?」
「うん、お願いー」
「わ、随分溜まってたんだね、いっぱい出たね。捨ててくるねー」
「そこ言わないでよ!点滴だけで結構な水分なんだから!」
朝食が運ばれてきた。
「ジミナー、トーストだよ。ジミナの好きなフルーツとヨーグルトもあるよ。」
「う、うん…」
「あんまり食欲ないの?フルーツだけでも食べられない?ほらイチゴだよ。」
僕は少しでもジミナに食べて欲しくて必死だった。
「う…。テヒョン…吐きそう…」
「う、うぇ〜…ハァハァ…」
ジミナは今食べたものを全部吐いてしまった。涙目で苦しそうなジミナの背中をさする。僕が無理やり食べさせたせいだ…。
「テヒョンごめん〜。吐いちゃった…お布団も汚しちゃった…(泣)」
「謝らなくて大丈夫だよ。ジミナ苦しかったね?すっきりした?ナースコール呼んで綺麗にしてもらおうね。口も拭いてあげるね。」
朝の回診でジン先生が病室にやってきた。
ジン先生はジミナの腫れぼったい顔を見て一瞬え?という顔をしたけど、そこにはあえて触れず、ジミナに体温計を渡す。
「はいお熱計ってねー。ジミナ、調子はどう?さっき吐いちゃったんだって?」
「うん…でもきのうよりは苦しくないし、身体も楽な気がするよー。」
「それは良かった。熱は37℃かー。だいぶ下がったけどまだ微熱があるね。今日は午前中検査が入ってるよ。血液検査だけ、今採血しちゃってもいいかな?今日の検査で痛いのはこれだけだよ。」
「え?心の準備が…。」
「はい、右腕出してね。手はギュっと握っていて。ジミンの血管細くて難しいんだよなー。先生頑張るけど、もしやり直しになったらごめん!」
ジミナは注射が苦手だから、固く目をつぶっている。僕は横で、ジミナの左手を握っていた。ジミナの細い腕は、点滴や注射の跡でいっぱいだ。1回でうまくいきますように、これ以上跡が増えませんようにと僕は心の中で願っていた。ジミナが腕の注射跡を気にして、夏でも絶対に半袖を着ないのを知っていたから…。
「よし成功!血、抜いてくよ〜。腕の力を抜いて楽にして。気分は大丈夫?ふらふらしたり、心臓がドキドキしたら言うんだよ?」
「あの…ちょっとふらふらしてきたかも…」
「ほんと?はい終わったよ、針抜くね〜。ジミナ身体きついかな?しばらくそのまま休んでいてね。後は心電図検査だけだよ。不安だったらテヒョンに付き添ってもらってもいいよ」
30分程経つと看護師さんが来て、ジミナはストレッチャーに乗せられ検査室へ行くことになった。ジミナはまだぐったりとしていて「テヒョンも来て〜」と弱々しく手を伸ばしてくるから、僕も付いて行く。
検査室に着くとジミナは仰向けのまま入院着の上半身を脱がされ、身体と足のあちこちに電極を付けられた。
「それ、痛くないの?」
「痛くないよ。これは昔からよくやってる検査だから。小さい頃はじっとしていられなくて動いてやり直しになっちゃって、よくジン先生に怒られてたなー」
この小さな身体で、幼い頃から検査や手術や痛い治療も沢山我慢してきたんだよな…。
検査が終わって病室に戻ると、ジン先生がやってきた。
「ジミナ、いい知らせだよ。検査の結果、心臓の機能は前より安定してる。今日から、少しずつなら車椅子に乗ってもいいよ。」
「え?トイレも行っていいの?」
「そうだね。但し1人では行かないで。必ず誰かに付き添ってもらうこと。それから車椅子は絶対に自分で動かさないで。ジミナは片手しか使えないから、それだけでも身体に負担がかかるからね。」
「お散歩は?」
「短時間ならいいよ。それも誰かに車椅子は押してもらうこと。」
「やったーー!!」
ジミナは喜んで僕に抱きついてきた。
「僕、売店に行きたいな。できたら中庭に行って日向ぼっこもしたいよー。」
キラキラした顔で話すジミナを見て、僕もすごく嬉しかった。
「ジミナ良かったね。オンマからお小遣いもらってきたから、ジミナの欲しいもの何でも買おうね!」
「ジミナ、あんまり調子のんなよー。身体に負担かかるようなことは絶対ダメだからな。テヒョンもちゃんと見張っててな!」
それから僕達は、一緒に売店に行ってお菓子と雑誌を買って、中庭に行った。車椅子をベンチの横に付けて、並んで座る。ジミナは朝食は吐いてしまったのに、チョコのスナック菓子はパクパクとよく食べて嬉しそうだった。吐いちゃうのは、やっぱり精神的なものもあるのかもしれないな…。
「ほら、テヒョンももっと食べなよー。これサクサクしてて美味しいよ!全然食べてないじゃん。」
「いいんだよ。僕はジミナが食べてくれたらそれでいいの!」
中庭は陽があたって気持ちが良かった。
「ねぇテヒョン。外っていいね!風は気持ちいいし、太陽はポカポカしてるし草の匂いもするよ。空も青くてすごくきれい。病室にいるとまるで自分が一生そこに閉じ込められて、いいことなんて1つも無いみたいな気がしちゃってさ…。テヒョン、連れ出してくれてありがとね。きのうはいっぱい泣いちゃって心配かけてごめん!なんかジン先生も、やけに今日優しくなかった?」
「そ、そう…?いつも優しくない…?」
自分がジン先生に話をしたことがジミナにバレるのではないかとちょっと焦る僕…。
久しぶりにジミナの輝くような笑顔が見れて、僕は心の底からホッとしていた。
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