テラーノベル
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朝礼の後。
この日も、売り上げ表彰やイベント設営についての説明が行われた後、企画部はそれぞれのチームでの打ち合わせをしていた。色々と長いミーティングが終わって、部屋へ戻ろうという時。たまたま少し離れた位置にいた、リュウジはサンゴめがけて走ってきた。
「サン先輩、待って〜!わああ」
「きゃああ!あぶないよ!」
会議で使われていた配線に、リュウジは思いっきり足を引っ掛けて思いっきり壇上にずっこけた。
「大丈夫?怪我しなかった?」
「だ……大丈夫です。はず……かしい……」
壇上に座ったような形になったリュウジのすぐそばに、サンゴは細い手を差し出した。
「ほら、つかまって」
サンゴの声に、リュウジは顔をむけて、すぐにその柔らかそうな手をギュッと握った。
「ありがとうございます」
「せーの」
サンゴの手に寄りかかって、ちゃんと起き上がったリュウジは、彼女の手を右手で握ったまま、左手でふわっと撫でた。
(!!?)
「先輩の手、なんかしっとりしてる」
「ええ〜?やだ。汗かな?」
「ハンドクリームかな?フルーツのいい匂いする」
そのまま、手を匂いを嗅ごうとするリュウジの鼻筋や顎のラインが見えて、一瞬ドキッとしたサンゴは、パッと手を引っ込めた。
「ヤダヤダ、変な匂いかも」
「いいのに……」
いつもの甘い声じゃなくて、残念そうに吐息まじりに呟くリュウジを見て、焦ったサンゴは話を変えた。
「それよりもお〜!!ドジっ子なんだからぁ」
「へへへ」
「こんな可愛いお顔に傷ついちゃったら大変だから、気をつけてよぉ」
「先輩やさしー」
「も〜、一人でちゃんと道とか歩ける?」
「やだなあ。歩けますよぉ。今日はたまたまですよぉ」
「リュウくんってば本当に天然なんだもん!!心配すぎ……」
「リュウジですよ、先輩」
「わかってるってば」
会議が終わった後、多くの企画部の人間が周りにいる中。堂々と、しかもなんだかしっとりじゃれあっている二人を遠目に見ながら、みんな赤く頬を染めていた。
(ああ、今日も小動物たちが尊い……)
遠目から眺めていた蘭も、どうしても頷きながら二人を見つめてしまっていた。
(なんか、今日はさらに潤いがある感じがする……癒されるわ)
その横に、いつものように長身をかがめて、八村がこちらの顔を覗き込みにきた。
「蘭、気持ちはわかるよ。あれ?二人って付き合ってたんだっけ?二人の話、もう聞いたんだっけ?こっちの感覚がおかしいのかな?こっちが何か間違えたかな?ってなるもん……」
「……」
(うん。まあ、言いたいことわかるけどね)
八村は長めのセンターパートの髪をふわふわ揺らしながら、コクコクと頷いていた。そして、細長い手を両ポケットに突っ込むと、また、こちらの方へ屈んで顔を寄せてきた。
「でもさ、だからって、お前、あいつらのこと見過ぎ」
「だって……」
(可愛いんだもん)
「何?朝から欲求不満なの?」
チラリと彼の方を横目で見ると、大きくて切れ長の瞳はこちらを睨みつけていた。
「朝からも何もないけど……」
「図星?」
「本当に、八村ってそんなことしか考えてないわけ?」
ため息をつくと、八村は胸に手を当てて不服そうな表情をした。
「また、俺だけ穢らわしいものに落とし込めようとしてる……ひどいやつめ」
八村は口を尖らせて睨みながら企画フロアへ戻って行った。
(……ごめんよ。八村に厳しいこと言いつつ、もちろんこっちも思いっきり潤ってるけどさ)
企画部は大きなイベント前ということもあって、その日は夕暮れ時になっても大忙しで、全員フル稼働だった。フロア中に電話が鳴り響き、走ったり、資料をかき集めたり、通話しながらメール返信をしている人が殆どだった。
そんな中、サンゴも三つのメールへの返信で、頭をフル回転させている時。リュウジが部長に呼ばれて、駆け足で席を立った。サンゴはそれを横目で見送りながら、膨大な資料をめくってメールの返信内容を必死に探していた。そこへ、普段は別フロアにいるはずの常務が通りがかり、彼女のデスクのすぐ側で足を止めた。
「有村ちゃーん、今日はまた随分と綺麗な格好してるじゃないか?どうしたんだ?彼氏とデートか?」
「い、いえ」
一度資料をめくっていた手をとめ、苦笑いで頭を下げると、常務は近づいてきた。
(やばい、頭下げなければよかったかな)
サンゴはまた、資料をめくる手を動かし始めたけれど、常務はさらに言葉を続けた。
「せっかくこんな可愛い格好してるのに、勿体無いじゃないか!どうだ?今日夜美味しいご飯をご馳走してやろう!!」
(どうか、美味しいご飯なら奥様やお子様たちと食べにいってくださいませ!って言いたい。……涙)
社内で、若い女性に声をかけまくっていると有名な常務は、たまに会うとすぐ声をかけてくる。
「え、えーっと、さすがにイベント前ですし、残業なので無理かと……」
「若者がそんな固いこと言ってたらいけないよ、なあ」
周りの同僚たちは全員見て見ぬふりを決めこんでいた。
パッとデスク二つ分先の、蘭の方へ助け舟を出そうと思って振り返ると、蘭はデスクの電話を片手にパソコンと睨めっこをしていた。そのすぐ側にいる同期の八村君も、同じように電話対応をしながら頭を下げていた。二人はこちらには気づいてくれなそうだった。
(やばい、詰んだ……)
「本当に、納期がまずいんです……」
「イベント準備は、前倒しでやるようにに言ってあっただろう?どうしてこんなことになってるんだ?」
(前倒してやってるし、余裕あるけど、夕食にはいきたくないからですよ!!断ってること察してくださいよー!!)
「えーっと……」
粘りまくる常務からの怖すぎる夕食へのお誘いに、この上どうやって断ればいいのかわからず、ただただ冷や汗だけ出てきてしまう。
するとーー
「センパーイ!!」
部長のところにいたはずのリュウジが手を挙げてこちらへ向かって走ってきた。
(!!!??)
「もー!!先輩も、この企画の件で一緒に部長に呼ばれてるんですよ?一緒に来ないでどうするんですか!!」
「ああ、そうだっけ?」
「ダメですよ。一人でサボってたら」
「ご、ごめんね」
リュウジはすっと常務とサンゴの間に入った。
鷹のような鋭い目で、思いっきり常務を見下ろして睨みつけていた。
「有村先輩は忙しいので、失礼します」
その低音ボイスが、室内に妙に響き渡った。そのフロアの全員が、思わずそちらへ注目してしまう。
「あ……ああ…そうか…邪魔したね」
常務は罰が悪そうに、その場に立ち尽くしていた。
「はい!」
リュウジはくるっと踵を返し、サンゴを引き連れて部長の元へ戻っていった。
「よ、呼ばれてたの?」
誰にも聞かれないように、リュウジの耳元へ寄って聞いてみる。すると彼はにっこり笑って小声で返した。
「俺だけじゃ説明手詰まりだったんです。お願いしますね」
「ああ。うん……」
サンゴは、リュウジが実は助けてくれたことに、心の中でこっそり「ありがとう!!!」と叫んでいた。
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コメント
1件
第2話、めっちゃよかったです😭💕 リュウジくん、転んじゃうところから常務撃退までギャップがエグい…!普段の天然小動物モードから一転、低音ボイスで「有村先輩は忙しいので」ってキメるとか反則でしょ!!サンゴ先輩を守る姿に胸キュンが止まらなかったです🥺✨二人の尊さに蘭さんや八村さんの反応も含めて癒されました〜!次回も楽しみにしてます🌸