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まだ開けない闇の中、葉の隙間からこぼれ落ちる満月の光が足元を照らしている位。静寂にみちる空間、私の足音だけが孤立していた。
踏み進む度に、匂いの濃度が増していく。振り返ると、私のいる場所はもう花園へは戻れないように感じた。そう遠くない先に、黒い塊が見える。それは既に焦げてしまっているのか、暗闇も相まって確認することは出来ない。ただ、形や大きさで言うと一つの個体という訳ではないようだ。複数個の何かがまとまって焼き尽くされたような。私はその個体の足元に跡を見つけた。それが人の足跡だと言うことに、気付かないままでいたかった。
途端、目の前を何かが掠めた。
背後を振り向くと、木の幹にカードのようなものが刺さっていた。
「誰かいるのかな」
私は反応を待った。しかし、答えるものはいない。私がおそるおそるカードをひっくり返すとそこには、とある写真が写っていた。
「貴様を待っていたんだ」
声に振り向くと、黒い服を身にまとった男性がいた。その姿に、私はどこか既視感を覚えた。記憶を辿ると、ドルから見せてもらった写真に写っていたあの黒服集団と同じ姿だったからだ。
「貴様のことだろう」
彼は私の手の内に収まっていた写真を指さしながらに言う。促されるように再び目を通す。そこには、私とよく似た姿の人が手に松明を持ち、火を撒いているところだった。場所には見覚えがあった。今、ここまで私が足を運んできたこの場所がそうだからだ。
「これは…」
写真には私が写っている。別人と言えばそこまでかもしれないが、私はこの人物が他人だとは思えなかった。
「貴様が我ら軍の安息地に火を起こした事は、全世界共通の悪事である」
私は黙っていた。彼は刑を処す執行人のように、事柄を述べながら説明を始めた。
「焼け野原計画後、我々はここへ戻った。しかし、静かに仕掛けられていたそれはタイミングを計ったように燃え盛り、軍の数名が火の海に飲み込まれた」
彼は拳を握り、怒りを露わにしていた。
「この写真は部下が撮ったものだ。だが、その報告も虚しく、全て消え失せた後だったがな」
彼は黒い外套に覆われ、何を所持しているのか分からなかった。ただ、私の言葉ひとつで、命を刈り取ることは出来ると言わんばかりに、腰に手を当てている。
「さて、貴様はこれをどう弁明するというのだ」
彼が言葉を告げると、暗闇からもう一人迫る影が見えた。どうやら援軍も呼んだのか、確実に仕留める気のようだ。
けれど、私は困惑していた。彼らが言うこの写真の人物、これは間違いなく私なのだろう。記憶はないが、これはどう見ても私であり、現にこの場所まで訳もなく来てしまった事に異議を唱えることは難しい。それに、男性の目は唯一表情を伺える場所だが、仲間を殺された復讐心のようなものを感じれるほど殺意が見えている。そんな相手に何を言っても無駄だと思う。 これは私が、ドルと男性を重ねて見てしまっているのかもしれない。そう、私はドルの命にも値する計画の邪魔をしてしまった。
「沈黙が答えか。なら、貴様を殺すことにも躊躇いなく出来るな」
引き金をひく音がする。気付けば、その矛先は 私に向けられていた。こんな時になって、私はある言葉を思い出す。
「コリエンヌの深層心理を読み取っただけ」
「私はコリエンヌに素直になって欲しかった。だから、気持ちを引き出して動かした」
チタニーの言葉だ。私がしたかった事。それは本当に、こんな犠牲を払うほどのものだったのか。私にとっては不本意な結果であれども、彼女にとって…またはドルにとっては違うものだったのか。私には分からない。
「永遠に眠れ。火炎を起こした極悪人よ」
考える時間もないほどに、そこで私の人生の幕は閉ざされたのだと。
そう思った時だった。