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「えっと、それでラルード様はどうなったのですか? 無事、助かったのですよね?」

「ええ、幸いにも雨が止んでくれたんです。僕達は震える体をなんとか動かして、正規のルートに戻りました。そして、一目散に下山したのです。かなり運が良かったといえるでしょうね。偶然が重なって、僕達は助かったのです」


ラルード様は、そこで苦笑いしていた。

一歩間違えれば、命を落としていたかもしれない。それは苦い経験所の話ではないが、それでも彼は笑みを浮かべていた。


「……ラルード様、お陰様で雨の恐ろしさというものがよくわかりました。この中を進むというのは、非常に危険で困難な道なのですね?」

「ええ、山でなくとも危険なことに変わりはありません」

「私は、命を投げ出そうとは思いません。だから、いつまでになるかはわかりませんが、このエンティリア伯爵家にお世話になります。どうかよろしくお願いします」

「ええ、もちろんです。こちらは大歓迎ですよ」


私は、ラルード様にゆっくりと頭を下げた。

彼の話のおかげで、私は命拾いしたといえるかもしれない。とにかく今度は、雨を舐めないようにしよう。そう思った。


「……それにしても、山というのは恐ろしい場所なのですね? 私は登山をしたことがありませんが、判断を間違えるととても危うい場所だと感じました」

「その通りですね。当時の僕達は、それをまったくわかっていませんでした。雨が降り始めた時から、判断ミスの連続です。あれから登山はしていませんが、もしも今後山に登ることがあったら、僕はあらゆる状況に対応できるように備えをします。道具と知識が必要だと思いますから」

「伝統は、これからも続けていくのですか?」

「どうでしょうね……それはまだわかりません。父上も、特に何も言っていませんし、それは僕の判断ということになるのかもしれませんね」


登山によって自らが高められるのは、恐らく間違いないのだろう。

ラルード様は色々と失敗した訳ではあるが、それでもそこから様々な教訓を学んでいる。当初の目的は、一応果たせているのだ。

ただ、それが危険なことであることは間違いない。その辺りをどう判断するかは、次期当主である彼ということなのだろう。


「まあとにかく、人間というものは自然には敵いませんね……こうやって家の中で暮らしていると忘れてしまいそうになりますが、僕達はひどく無力です。きっとそれは、胸に刻みつけておかなければならないことなのでしょうね」

「ええ、そうですね……」


ラルード様の言葉に、私はゆっくりと頷いた。

人間は自然には勝てない。それは確実なことだ。私もそれを忘れないようにしよう。




◇◇◇




ガラルトとロナメアは、突如降り出した雨に困惑していた。

山の天気は変わりやすい。そんなことも知らなかった彼らは急な天候の変化に驚いたのだ。

しかしながら、それでも彼らは呑気にしていた。家の中なら、特に被害はない。そう思っていたからである。


「ガラルト様、水が……」

「何? これは、雨漏りか?」


だが、二人は家の中にぽつりぽつりと落ちてくる水滴に、事態が楽観視できないと気付いた。

老朽化していた家の天井は、降り注いでくる大量の雨を凌げるものではなかった。雨の勢いが増すとともに、水滴の勢いもどんどんと増してくる。


「な、なんという家だ。くそっ、雨がっ!」

「せっかく掃除したのに、これでは意味がないじゃない!」


ガラルトとロナメアは、雨に向かって怒りをぶつけていた。

しかし、そんなことに大自然が耳を傾けてくれるはずはない。雨の勢いは、どんどんと強くなっていく。


「山を下りるか?」

「この雨の中を、ですか?」

「くっ! それは賢明ではないか……」


ガラルトの提案を、ロナメアはすぐに否定した。

当然のことながら、雨の中を進んで行くのは得策ではない。その判断は、二人にもできたのだ。

そこら中から雨漏りしている家でも、下山するよりはマシである。そう思った二人は、とにかく雨漏りに対処することにした。


「バケツがありましたよね?」

「ああ、これを使ってくれ」

「……とても足りませんね?」

「と、とにかく水を外に出さなければ……」


対処するのが遥かに遅かったため、家の床は既に水浸しになっていた。

それを外に出すために、ガラルトは家の戸を開けた。すると、外から冷たい風と水滴が押し寄せてくる。


「うおおっ! ロ、ロナメア! 窓を閉めるんだ! 雨だけじゃなくて風もある! このままだと家の中がもっと水浸しだ!」

「は、はいっ……!」


ガラルトの指示に従って、ロナメアは家中の窓を閉め始めた。

ガラルトも玄関の戸を閉めて、それに追従する。


「はあ、はあ……くそっ、雨漏りが! こんなのどうしようもないぞ?」

「こ、こんな所でこれから一夜を明かさなければならないのでしょうか?」

「な、なんだって?」


そこで二人は、あることを思い出した。

雨が降り始めた頃には、既に夕方だった。つまりこのまま、夜を迎えることになるのだ。

雨漏りして水浸しの家で、一夜を明かす。とても眠れそうにない環境に、二人は恐怖を覚えていた。


「む、無理だ。下山なんてできる訳がない」

「この家で過ごすしかない、ということですか……」


しかし、下山することはもっと過酷な道になる。

それを理解して二人は、その家で一夜を明かすことにするのだった。

婚約破棄された者同士、円満に契約結婚いたしましょう。

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