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それでは、
どうぞ。
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朝のオフィスは、静かで整っている。
その空気を乱す存在が、1人だけいた。
💛「すみません、社長!!資料……っ?!」
ガシャン、と音を立てて書類が床に散らばる。
💜「、またか。」
デスクの向こうから、落ち着いた声が返ってきた。
綺羅は慌ててしゃがみ込む。
💛「ご、ごめんなさい…、!ちゃんとまとめたはずなのに……」
紙を拾おうとして、さらに一枚滑らせる。
💛(なんでこうなるの!?)
内心で叫びながら必死にかき集めていると、視界に靴が入った。
すっとしゃがみ込む気配。
💜「貸して。」
低くて、落ち着いた声。
社長が当たり前みたいに隣で紙を拾い始めた。
💛「い、いえ!私やります!!」
💜「いいから。」
淡々としてるのに、手の動きはやけに丁寧だった。
散らばった紙を順番通りに揃えていく。
その手元を見て、綺羅は思わず固まる。
💛(なんで…、こんな余裕なの……。)
自分はこんなに焦ってるのに。
💜「はい。」
差し出された書類を、慌てて受け取る。
💛「…あ、…ありがとうございます。」
💜「次からは落とす前提でまとめといて。」
💛「えっ」
💜「クリップ二重にするとか。」
さらっと言われて、綺羅は一瞬言葉を失う。
💛(それ、最初に言って欲しかった…!)
でも、言い返せない。
なぜなら____
💛「、すみません。」
素直に謝るしかないくらい、かっこいいから。
ーーーー
綺羅がこの会社に入ってから、数ヶ月。
正直に言うと、毎日が戦いだった。
仕事じゃない。
自分の心臓との戦い。
ーーーー
💜「今日の会議、10時からに変更。」
💛「はい!」
💜「資料は?」
💛「……っ、完璧です!」
少しだけ間があったのを桜花は見逃さなかった。
💜「“完璧です“って言う時、大体抜けてるでしょ。」
💛「え!?」
慌てて中身を確認する綺羅。
💛「あ、一枚足りない……。」
💜「ほら。」
💛(なんで全部バレるの!?)
さらっと言われて、ぐうの音も出ない。
ーーーー
昼過ぎ、コピー機の前。
💛「うわっ。」
紙が詰まって、綺羅は困る。
💛「ちょ、ちょっと待って…これどうやるの……」
背後から気配。
💜「開けて。」
ビクッと肩が跳ねる。
振り返ると、すぐ近くに社長がいた。
💛「え、あ、はい!」
言われるがままにカバーを開けると、すっと手が伸びてくる。
機械の中に指を入れて、詰まった紙を取り出す。
距離が、近い。
💛(ち、近い…!)
息がかかりそうな距離に、思考が止まる。
💜「ぼーっとしてたらまたするよ。」
💛「してません!」
思わず反抗すると、少しだけ口元が緩んだ。
💜「顔に出てる。」
その瞬間。
心臓が、変な音を立てた。
ーーーー
💛(無理……)
デスクに戻ってから、綺羅は顔を伏せる。
💛(距離感バグってるって…!!)
仕事中なのに、こんなことで動揺してる自分が情けない。
でも。
あの人は、きっと何も思っていない。
ただ、普通に接しているだけ。
それが余計に、厄介だった。
💜「綺羅。」
名前を呼ばれて、ビクッとする。
💛「は、はい!」
💜「この書類、誤字。」
💛「あ、…」
指摘された箇所を見ると、しっかりミスしている。
💛「すみません、…」
💜「落ち着け。」
短く言われる。
💜「急がなくていい。正確にして。」
その言葉は、責める感じじゃなかった。
むしろ
💛(ちゃんと見てくれてる…?)
そう思った瞬間、胸がぎゅっとなる。
💛「なんで…」
ぽつりと、声が漏れた。
💜「ん?」
💛「なんでそんなに…全部気づくんですか。」
桜花は少しだけ考えてから答える。
💜「見てるから。」
シンプルすぎる答えだった。
💜「秘書なんでしょ。支える側が崩れてたら困る。」
そう言って、軽く書類をトントンと整える。
💜「だから見てる。」
その言葉に、綺羅は完全に固まった。
💛(それは、ずるすぎる……)
夕方、オフィスの窓から差し込む光。
💜「今日はここまででいい。」
💛「え?」
💜「残りは明日。」
💛「でも…、」
💜「ミス増えるだけでしょ。」
言い切られて、何も言えなくなる。
💜「帰るよ。」
💛「…はい、」
並んで歩く帰り道。
静かな空気の中で、綺羅は何度も言葉を飲み込む。
💛(何か言いたいのに…)
結局、何も言えないまま駅に着く。
💜「じゃあ、また。」
桜花ぎ背を向けかけた、その時。
💛「あの!」
思わず声が出た。
振り返る視線。
それだけで、心臓が跳ねる。
💛「…、その」
言葉が詰まる。
でも、このまま終わるのが嫌だった。
💛「もっとちゃんと、できるようになります。」
ようやく出たのは、そんな言葉だった。
一瞬の沈黙。
それから、少しだけ柔らかい声。
💜「知ってる。」
💛「え…、?」
💜「最初から、そのつもりで採用した。」
さらっと言って、今度こそ背を向ける。
💜「明日もよろしく。」
残された綺羅は、その場に立ち尽くした。
💛(無理、…… 好きになるってこんなの。)
遠ざかる背中を見ながら、どうしようもなく振り回されている自分に気づく。
でもきっと、その距離から抜け出せないのは_
自分の方だった。
end.