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※東京湾――三台のバイクが、地鳴りのような轟音と共に到着する。
「ようやく来ましたか……」
沿岸で待ち兼ねたように呟いたのは、狂座現責任者代行――霸屡だった。
「――もう! 安全運転でって言ったじゃないですか!」
「こ、これが普通だって」
そんな事はお構い無しに、琉月が後ろから降りながら、不満を時雨へとぶちまけている。
「ああ楽しかった~。今度は皆でツーリング行こうね」
「オレはやだ……」
逆に悠莉は楽しそうだが、ジュウベエは振動酔いか、悠莉に抱えられたままぐったりとしていた。
「……お待ちしてましたよ」
彼等の緊張感の無さに、うんざり気味に溜め息を漏らす霸屡。
「もう貴方の後ろには、絶対に乗りませんから!」
「そ、そんな~」
「あはは~、嫌われてるし~」
和気藹々と五人は霸屡の下へ。
「……お前一人か?」
「あの創主はどうした?」
二人だけ神妙な面持ちの幸人と薊は、一人で待っていた霸屡へ、その是非を問う。
それもその筈。今回の闘いは正に、御互いの存亡を賭けた雌雄を決する場。其処に狂座の頂点の姿が見えないのは、どういう了見か。
「誰が創主も闘うと言いました? そもそも、あの御方は闘う意味が無い。ノクティス様は地下宮殿にて、貴方達の行く末を見届けるのみです」
霸屡は当然とばかりに主張。
「ちっ……まあいい」
やはり何処か信用に足らないが、反論しても不毛。多分、そうじゃないかと思っていたからだ。
“闘うのは狂座の主力のみ”
「さあ――貴方達はこれへ」
霸屡は沿岸へと指差した。其処には白い大型クルーザー船が停泊してある。
霸屡が事前に用意したのだろう。これに乗って決戦の場へ、その目的地まで赴こうという訳だ。
「目的地まで自動操縦となっております。場所は我等狂座が用意した、地図には標されない有機無人島……。ある程度の闘いの余波は此方まで届かないので、どうぞ存分に闘ってください」
クルーザー船に乗り込む際、霸屡が簡易的に説明する。
「おうおう、随分と豪気な事で」
「だね~」
無人島を一日そこらで用意するという、狂座の持つ底知れぬ権威力以前に、霸屡の言動からはまるで他人事のように感じられた。
「お前は行かないのか?」
説明だけ促して最初から動こうとしない霸屡に、幸人他がそう思うのも当然。
創主のみならず責任者代行までも、今回の闘いには茅の外でいるつもりなのだ。
「私には他にやる事があります。今回の件の“後始末”を……ね」
だが霸屡は別用件がある事で、それを否定。そのメタルフレームから覗かせる、灰色の瞳が妖しく光る。
別行動で何をするというのか。
「分かった……」
「では、御武運を」
幸人には大体予想がついた。こちらは余計な詮索も、後の心配もする必要は無く、闘いのみに集中すればいい事が。
五人を乗せた船は、霸屡に見送られながら“自動”で動き出す。
「あぁそうそう。さっくり終わらせて帰って来るから、俺らのバイクはちゃんと見張っといてくれや。ハーレーは盗難されやすいからよ」
「了解……監視をつけます。貴方達は何も心配する事無く、任務に集中――遂行してください」
出発の間際、思い出したかのように時雨が停めてあるバイクの心配と、後の事を伝えていた。
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※東京湾より出航してより数時間――時刻は正午。船は目的の地へと到着した。
五人は島へと降り立つ。周りは海一辺倒の、見渡す限りの地平線。かなり広大な島とはいえ、早急に造ったのか、身を隠す場所等何処にも無い荒野が広がる、本当に何も無い島だった。
「幾ら何でも、色気無さ過ぎんわこりゃ……」
もっと豊かな、自然の無人島を想像していたのだろう。見渡して開口一番、時雨がぼやいていた。
「観光に来た訳では無いのですから……」
琉月の言う事は尤もだ。確かに最終ステージの場としては少々色気は無いにしても、闘いの場に於いては余計な障害物は極力無い方が好ましい。
「これでは逃げる事も、隠れる事も出来んな……。御互い小細工は一切出来ない、という訳か」
薊の言う通り、地の利はどちらにも無い。戦略よりも、純粋な実力による差が勝敗を別ける。
「遅いな、奴等……」
幸人は鞘に納めたままの刀を手に呟く。当然というか、まだ彼等以外の人の気配は無い。
定められた約束の時間は過ぎているのだが、一向に連中が現れる気配は無かった。
「今更びびってたりしてな、奴等」
「でも出来れば、あの人達と闘わずに済むなら、ボクはそれでもいいな~って――っ!?」
悠莉の願望。それはほんの刹那の間だった。
「あっ!」
それはあっさりと覆される事となる。
“来たか!”
現れたのだ、唐突に。彼等の眼前にネオ・ジェネシス――三柱神が。
「やあ、遅くなって済まない」
全然済まなさそうに、エンペラーが彼等へと会戦の遅れを詫びる。
エンペラーはおろか、チャリオットとハイエロファントの二人までネオ・ジェネシスの象徴でもある、純白のフードを纏っていなかった。この場では今更必要無いのだ。
「へっ……。びびってもう来ねぇのかと思っちまったよ」
時雨がいの一番に遅れた彼等へと向けて、皮肉で罵った。
「相変わらず根拠の無い強がりね~時雨。 声が震えているわよ?」
「何だと!」
それをチャリオットが軽く受け流し、貶す。
「まあまあ……」
正に一発触発だったがエンペラーが仲裁に入り、辺りを見渡しながら五人を見据える。
「ノクティスの姿が見えないが、やはり傍観を選んだか……。まあいい。さて、一応訊くが、本当に闘うつもりなのかい私達と? 折角こうして全員が揃ったのだから、闘うなんて無駄な事はせず、御互い協力関係になる事がベストだが?」
この期に及んで、エンペラーはまだ闘いを避ける道を示唆していたのだ。だが、それは闘いたくないというよりは、闘った処で結果は火を見るより明らかと暗に示してもいるのだが。
「笑わせる……。お前達に生きる術は、もう何処にも無い。それより亜美は無事なんだろうな? テメェが死ぬ前に返して貰うぞ」
当然、幸人の答は最初から決まっている。既に眼鏡を外し――雫へと。時雨も薊も同様、既に臨戦態勢へ移行していた。
「何を勘違いしているのかは知らんが、返すも返さないも無いよ幸人。本当に君は頭が弱いというか、前が見えないんだね。フフ……」
「あぁ!? ふざけろ! これ以上は時間の無駄だ。今すぐ黙らせてやる」
雫は刀の鯉口を切りながら、いきり立った。
「まあいい……。では軽く“捻って”あげようかな? 君達が如何に無力で無為だという事を、改めて知る必要があるみたいだし――」
エンペラーとしても、闘うのならそれでもいいと。
そして今此処に、狂座とネオ・ジェネシスによる、両者入り乱れの戦闘が幕を開ける――
…