この作品はいかがでしたか?
9
この作品はいかがでしたか?
9
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「朝ごはん食べ忘れてたんだけど、絶対お腹減るよねー」
西川有希(ニシヤマ ユキ)17歳:食いしん坊な紫色役。愛称はユキリン。
「カロリーメイト食べる?腹が減ったら食べようと思ってて余分に持ってきたら」
森山嬉々(モリヤマ キキ):18歳:何かと気が利く緑色役。愛称は魔女。(某ジブリ作から)
「流石いつも気が利くね」
江原玖瑠美(エハラ クルミ)19歳:チーム最年長でリーダーの赤色役。愛称はクルミン。
「もしもの時にいつも持ち歩いてるしねー、はい」
「いいの?ありがとう」
チョコレート味のカロリーメイト半分を有希に手渡す。有希は直ぐにそれを口に運ぶ。
今いるこの場所はとある楽屋である。私達の新曲でもある『rainbow-修正版-』の初の全国ツアー真っ只中。今日はその千秋楽で、開始1時間前の楽屋で、みんな揃ってメイクさんによる化粧をして貰っている。
「始まる(ツアー)時はこれから長い日が始まるーって思うけど、終わる時は不思議と寂しくなるよねー」
そう言っているのは私、咲楽である。歌手あるあるかも知れないが、新曲を出すと毎回ある全国ツアー。特に私達にとっては初の全国ツアーで、勿論スタッフの中にもツアー自体初めての方が居る中で、右も左も分からない状態でスタートし、正直これからやって行けるのか不安な中で過ごしてきた。しかし不思議な事に人は慣れてくるもので、今回5都道府県回ったのだが、3つ目の時は、まぁまぁスムーズに動いていた。それもあってか私達歌い手も心のゆとりが出来てきていた。そんな収穫を得た中で迎えた千秋楽だ。
「そうだよねー、最初はあんなにバタついてたのにね」
藤井愛花(フジイ アイカ)15歳:チーム最年少のゲーム好きな水色役。愛称は愛ちゃん。
「今日はパーッとやります?」
佐々木・シェリル・美希(ササキ シェリル ミキ)18歳:フランス生まれで日本育ちのハーフ。日本では法律の関係で『佐々木 美希』と省略だが、本人は折角ある名前を使いたいという事で、話す時だけフルネームを使ってる。アクロバティックが得意なオレンジ色役。愛称はシェリミキ。
「おっさんか!」
徳富伊織(トクトミ イオリ)16歳:お笑い好きのゲーム好きな青色役。愛称は織ちゃん。
お互いの化粧台が離れている中、華麗なるエアーツッコミを見せる。
「織ちゃんは今日も絶好調だね」
玖瑠美が相変わらずなと言わんばかりの表情を見せてそう言う。
「だって千秋楽だよ?今回の初全国ライブの集大成じゃん?」
因みに年は違うが全員タメ口で、又、お互いを愛称で呼んでいる。基本的にモープロ業界では、その業界に入った年数ではなく、チーム発足時点の上下関係を表している為、チーム内に年の差があろうがなかろうがタメ口で話す事になる事が多い。逆にどんなに年下であろうが、早めにデビューが決まっている場合、その方には基本は敬語で話さないといけない。ここで言う”基本”は、友人関係で、それに関してはタメ口を許している。まぁチーム発足は若い順から基本は発足していく。先にデビューを決めている人達は殆ど年上なので、必然的にそれなりの喋りになる。
「疲れてないの織ちゃん?」
私はそう尋ねた。
「疲れてるよそりゃー。でも今は何故かアドレナリンが高ぶって」
そう言うと”ワクワク”と小声で言いながら両腕を両脇にリズムを取りながら何度も挟む。
「織ちゃんのその元気の源はなんだろうね?」
再び玖瑠美が尋ねるが、当の本人は”分かんない”と言いつつまだワクワク行動をしている。
「あの織ちゃん、メイク出来ないから一先ず落ち着こうか」
「すみませーん」
ワクワク行動が収まるのを10秒ほど待っていたメイクさんは、終わる気配がなかった為に注意が入る。そう言われて止めるが、あまり反省していない様子の伊織。メイクをされながらニヤニヤしている。『笑顔が一番』を合言葉にしている自分より笑顔満開に、この言葉を贈呈したいと思った今日この頃。
「よし、大丈夫ですよ」
私達は既にメイクが終わり、後ろのソファーでゆっくりしていた。結局、ニヤニヤしたせぃでメイクに時間が掛かった伊織が最後となった。
「じゃー集合」
「「はい」」
伊織がメイク場所を立った合図で、リーダーの玖瑠美が声を掛ける。そして円になり、その園の中心に手をパーにして指先を当てる様にくっ付ける。
「さっき織ちゃんが言った通り、今日で長かった初ライブも最後、今までの集大成になります。それぞれ思う物があると思いますが、先ずはこの千秋楽を悔いなく歌って踊り切りましょう、せーの!」
「「虹色、ストーリーーー‼フーーー」」
そう歌の題名みたいな掛け声を言いながら、先程まで差し出していた手を一斉に上に上げ、”フー”の所でその手を振りながら下ろす。これが所謂私達の『円陣』だ。因みにこの円陣を考えたのはリーダーでもある玖瑠美がこのツアー時に開発した。虹色は文字通り私達を意味するレインボー。ストーリーに関しては、これから私達の物語が始まる意味を表しているらしく、”フー”の所は完全にオマケ。実際に初日にやって、上げた後にどうするか考えた末に即席で編み出した。これを含めて満場一致の案であった。
-本番30分前-
「じゃーそろそろ準備をお願いします」
現場スタッフが私達に声を掛ける。
「「宜しくお願い致します。」」
私達はそう返した。
「会場は盛り上がってるみたいだよー」
先程迄このライブの確認で離れていた、ウチのチームマネージャーでもある島田さんが私達の所に戻って言ってきた。流石千秋楽とあってか、会場は初めての満員御礼だそうだ。私達は緊張と最終日という気合の気持ちの中で準備に入った。
因みに今回のライブはコンサートホール‥ではなく、今までもそうだったけど、とあるライブハウスで行われる。と言っても、地域の有名処のライブハウスをチョイスしているので、まぁまぁ経費が掛かっているらしい。流れとしては新曲を含めて6曲のオリジナル曲を歌う。MC等含めても約30分の短時間ライブだ。その後はサイン会並びに握手会があり、合計で1時間前後ってとこ。
「長い様で短いライブが今日で終わるのかーー」
如何にもライブ終了した感を出して、背伸びしながら話す最年少の愛ちゃん。
「ほんとにー?私なんかやっとかよって感じなんだけど」
そう言ったのは私。私達にはモープロが所持している劇場が2つあり、半月交代で普段から行き来しつつ、それとは別にチーム練習や個人練習で通っているダンス教室やジム。ただでさえゆとりがないのに、今回はそれプラス、慣れないツアーが入って来たもんだから、個人的に限界状態となっている。言ってしまえば毎日アイドルしている。正直、半年間でツアーを回るのだが、4つ目くらいのツアー場所では、”私は一体何のためにアイドルやってるんだろう”って自暴自棄になり掛けていた。相談しようにも折角のチームの人気が急上昇している大事な時だから、ずっと抱え込んでる。
「色んな思いがある今回のツアーだよね」
「一言で纏めないでよクルミン」
冗談の様に言ってると思い、軽く突っ込むと
「いゃ真面目に思うんだよね、さっきの織ちゃんみたいにワクワクしている人もいれば、既に充実している人もいるし、咲ちゃんみたいに”やっと”という人がいて、色んな思いがあるんだなって今思ったんだー」
「そうだね。ユキリンとかは相変わらず食いしん坊だし(笑)」
「確かに。この状況でも普通に腹減るんだーって思っちゃったもん(笑)」
私と愛ちゃんは言い合って笑う。それを聞いた玖瑠美は
「そう。同じ事してる筈なのに、こんなにも人それぞれ捉え方というか、思いが違うんだなって思った」
「だからこそ、色んな意味で集大成だね」
私がそう言うと笑顔で玖瑠美は頷いた。
「なーに話してるの」
噂をすればユキリンで愛称の有希が、後ろからちょっと身体を私にぶつける。
「痛い~、噂をすれば来たよクルミン」
「ホントだ(笑)」
「ちょっとなんの話~?」
「みんな違ってみんな良いって事」
玖瑠美は今までの話を纏める様にヒントを出す。
「ん?どういう事?隠さないでよー」
理解が追い付かないユキリンは、話を逸らしてる風に聞こえている様子。
「クルミン、ナイスな纏め、ユキリン、本当にそんな話だから」
「意味わからんわ、ねぇー聞いてよー織ちゃーん」
詰まらなそうにそう言って、少し離れている伊織、魔女の愛称の嬉々、そしてシェリミキの愛称の美希の所に行く。因みにクルミンやらユキリンやら愛ちゃんやら、私で言うと咲ちゃんやら。読む人からすればかなり頭を使うと思いますがしっかり付いて来てね!。一応言うと書く方も大変だから(笑)。
‐ライブ直前-
いよいよライブが始まる。私達はステージ横に行き、ちょっと横から顔出せば、お客さんの姿が見える。満員御礼という事で、かなりガヤガヤしていて、ペンライトを振っていてボルテージが上がっている。
「フー!今までになくいっぱいいるー!」
織ちゃんが先程からの流れでテンション高めに私に抱き着く。
「いやんもう織ちゃん、ちょっと強いよー」
「ごめんごめん、色々感情が出ちゃって」
という織ちゃんだが、いつもにないハイテンションなので、もしかすると緊張を隠している感じも見える。というか、本人が言ってる通り、色んな感情が彼女の中にあるんだなぁと思った。
「じゃーそろそろ開始だから、いつもの様に並ぼうかー」
マネージャーの島田さんが声を掛ける。その声に私達はそれぞれで返事をして順番に並ぶ。実際に並びも虹色に拘り、赤から玖瑠美、オレンジの美希、黄色の私、緑の嬉々、青の伊織、水色の愛花、紫の有希となる。因みに色に関して本来の虹色の正式色は、青が藍で、水色が青。そしてオレンジが橙なんだけど、『世間一般に認識していて且、伝えやすい色』として、誰でもわかる色を使おうという判断で現色となっている。
「いい?今日が泣いても笑っても初ライブ最終日だから頑張ってね」
「「はい」」
私達はそう言って準備に入り、デビュー曲の『rainbow』の曲に合わせて一斉に出ていき、鳴り響く歓声の中でライブ千秋楽が始まった。
to be continued…