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第三話「血と鋼の糸」
「いいか絢、普通の剣士は刀を自らの腕とする。だがお前さんの腕は、その指先から伸びる『鋼の糸』、そしてその先にある『絡繰(からくり)』じゃ。人形に命を吹き込め!」
お師範――ぜんまい爺さんの元での修行は、病み上がりの僕の身体にはあまりにも過酷な地獄だった。
最初の三ヶ月は、指先の感覚を極限まで研ぎ澄ますための訓練。
お師範が作った、自動で針を大量に飛ばしてくる巨大な絡繰人形の前に、僕は立たされた。手にあるのは、鋼の糸に繋がれた、お兄さんとの一番の宝物である『コハク人形』。
「糸の張力を緩めるな! 少しでも弛めば、針はお前さんの肉を貫くぞ!」
シュッ、シュババババッ!!
容赦なく飛んでくる千本の針の雨。
僕は指先を死に物狂いで動かし、コハク人形でそれを受け流そうとする。けれど、最初は糸の引き加減が分からず、針が次々と僕の肩や頬をかすめて血が吹き飛んだ。
(痛い……っ。でも、絶対に諦めない。お兄さんのコハク人形を、こんな針なんかで傷つけさせない……!)
お兄さんとの裁縫で培った繊細な指先の感覚。それを限界を超えて集中させる。指の皮が破れ、鋼の糸が肉に食い込んで血が滴り落ちても、僕はコハク人形を操り続けた。
三ヶ月が経つ頃には、指先にかかるわずかな風圧だけで、飛んでくる針の軌道を見切ってすべて叩き落とせるようになっていた。
そして、修行を始めて半年。
訓練は次の段階――「人形との完全同調」へと進んでいた。
「がはは! 人形の動きに合わせるのではない、お前さんの神経を糸の先まで通わせるんじゃ!」
お師範が操る、木刀を持った獰猛な戦闘用人形が僕たちに襲いかかる。
僕はコハク人形を盾にするように引き戻しながら、地面を転がって間一髪でその一撃を躱した。
――壱ノ型:身代わり木偶(みがわりでく)
敵の攻撃が当たる直前、鋼の糸を鋭く引っ張り、コハク人形を身代わりに差し出す。木刀の風圧がコハク人形の髪を揺らしたその一瞬の隙に、僕は泥だらけのまま相手の死角へと滑り込んだ。
カチカチと不気味に響く絡繰の音。糸を通じて伝わってくる、人形の重心の移動、関節の曲がり方。
それらを自分の脳に直接叩き込んでいく。人間には不可能な角度で動く人形と、僕自身の肉体の動き。その二つが、少しずつ、だけど確実にカチリと噛み合い始めていた。
「へへ……、どうですか、お師範……!」
「ふん、まだまだ動きが硬いわ! だが、その指先のキレ……悪くないな」
ひょっとこの面の下で、お師範がフッと鼻を鳴らす。
全身傷だらけで、肺が焼けるように熱い。だけど、病気で寝たきりだったあの頃とは違う。僕の指先には、確かに僕だけの『傀儡の呼吸』の力が宿り始めていた。
胸元に戻ってきたコハク人形をそっと撫でる。
お兄さん、僕、少しだけ強くなれたよ。
でも、こんなところで立ち止まってはいられない。もっと、もっとお師範の技術をすべて奪って、あの青藍色の刀の人に追いつくんだ――。
――第三話・完――
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コメント
1件
わっふるさん、第3話「血と鋼の糸」読みました!!😭💕 修行シーンがもう熱すぎるっ…!!鋼の糸が指に食い込んで血が滴る描写とか、針の雨をコハク人形で受け流すとことか、痛みと成長がリアルに伝わってきて鳥肌たったよ…!でも一番グッときたのは「お兄さんのコハク人形を傷つけさせない」って絆の強さ。お兄さんとの思い出が彼の原動力になってるの、尊すぎる…🥺✨ 「壱ノ型:身代わり木偶」もカッコよかった!!次の戦いがもう待ちきれないよ〜!!🔥