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「今日だけは、彼女ってことで」
「おい、ジェル。もう帰れって言ってんだろ」
「むり。今日泊まるって決めてるし」
「は!? 勝手に決めんな、!」
さとみは、女の子になった自分を鏡で見てため息をつきながら、ソファにダラッと座ったジェルを睨む。
とはいえ、ジェルの“泊まりたい”には理由があった。
「だってさとみ、一人だと危ないやん。今の姿、どう見ても──」
「……女子やな」
そう言われるたび、さとみは顔を赤くして目を逸らす。
それが、ジェルにはたまらなく可愛く見えていた。
「てか、その部屋着……普通にやばいって。肩ちょっと見えてるし。かわいすぎ」
「う、うるせぇっ……部屋にあったのこれしかなかったんだよ!」
大きめのTシャツを着てはいるが、女の子の体ではゆるくて肌が見えすぎる。
ジェルは、ドキドキを抑えきれず、さとみに近づく。
「ちょ、ちょっと距離詰めんなっ」
「だって……かわいいんやもん。今のさとみ、反則やで……」
じっと目を見つめられて、さとみの顔がますます赤くなる。
「……そういうの、簡単に言うなよ」
「簡単に言ってへん。本気や」
ジェルはそのまま、さとみの頬にそっと触れた。
「今のさとみ、女の子の姿してるけど……中身はちゃんと、俺の大好きな“さとみ”やから」
「……っ、ジェル」
「好きやで。男でも女でも。お前のことずっと」
目を見たら、本気だってわかってしまう。逃げ場がない。
さとみの中で何かが溢れて、そっと目を伏せた。
「……そんな顔で言うな。……俺、耐えれへんで」
ジェルは小さく笑って、さとみの手を取る。
「じゃあ、今日だけは……彼女ってことで、甘えさせて」
「……は?」
「俺がぎゅーってして、あまあまにするから。我慢するなよ」
そのまま、ふわっと抱きしめられた。
さとみの体は細くて、柔らかくて。ジェルの体温が、心まで溶かしていく。
「……あまっ……」
「そりゃ甘いで。好きな人抱きしめてるんやもん」
鼓動の音が重なって、どっちのものかわからなくなる。
「……ジェル」
「ん?」
「……今日だけって言ったけどさ……ずっとでもいいかも」
「──それ、俺に一生甘やかされるってことやな?」
「……バカ」
けど、そのバカみたいにあったかい腕の中が、今は一番安心できる場所だった。
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