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「――え!? 入る資格が得られないと?」
「決まりは決まりです。たとえ剣闘場で勝利をされても、あなた様は貴族では無いので」
「じゃあどうすれば?」
「アグエスタでは依頼は受けられない。以上です」
何という頭の固さ。何て融通の利かない連中なんだ。
剣闘場で騎士団の連中に勝利したおれはアグエスタのギルドに来ていた。しかし門前払いというひどい扱い。ノーブルナイトの国というのは見せかけで、実態は貴族以外ギルドお断りという理不尽さがあった。商売、あるいは資金稼ぎと思っていたのに拍子抜けもいいところだ。
「貴族の国は大体こんなものなの。冒険者も来たがらないし、ここで稼ぐのはやめた方がいいと思うの」
「そんなものなんだな……。身分差を露わにしてるし剣闘場も注目されなかったしな。引き上げるしかないか」
宝剣のフィーサを携え来たものの、まるで取り合ってくれなかった。彼女だけに聞こえる音量で話していてもギルドにいる騎士からは変な目で見られまくりだ。
「それがいいと思うの。ここを出て、別の所で稼ぐべきなの」
「よし、宿に戻ってすぐにでもここを出ることにしようか」
「はいなの!」
剣闘場のことはあれで終わりで、ギルドの態度を見れば無かったこと扱いということらしい。スキュラに任せていたもう一人の男の件も気になるし、気にしても仕方ないか。
おれたちは宿に戻った。部屋に入ろうとすると、何やらドアの隙間から湯気が立ち込めている。
まさか留守の最中に火事でも起きたんじゃ?
「な、何が起きて――い!?」
部屋の中へ慌てて飛び込むと、そこには温泉ともいうべき光景が広がっていた。
「あっ! おかえりなさ~い! 丁度いい湯加減ですよ~」
「はっ……? ルティ? 一応聞くけど、それは?」
「はいっっ! 即席温泉ですっ! とってもおっきめの桶を持って来たんですよ~!」
自前の即席温泉とは驚きだ。
「持って来た? え、どこから」
「もちろんわたしの家ですよ~! アック様が帰って来る前までに、大急ぎで!!」
何をどう突っ込んでいいのやら……。元気づけようとしてくれているのは分かりやすいけど、やりすぎだ。
「小娘!! イスティさまのお気を引こうとそこまでするなんて、ズルい、ズルイ!!」
「いや~それほどでも~。フィーサも入る?」
「錆びたくないから嫌だもん!!」
そういえばフィーサのお手入れ的なものはどうしているのだろう。ともかくこの現状にどう対応するべきか。スキュラはまだ帰っていないし、そもそも帰って来たら何て言えば。言われたとおり即席温泉に入るべきかどうかだな。
「ささ、アック様。どうぞ、お入りください~」
「は、裸で? ――でいいんだよね?」
「もちろんですよ~! そうすれば効果も上がりますから!」
一度見られたからではないとはいえ、ルティに恥ずかしがる素振りが無い。
意識してるのはおれだけか。
お湯を嫌がるフィーサを部屋の外に避難させ、おれは装備を外し裸になることを決意する。ルティがやたらとニコニコしている中、おれはゆっくりと湯の中に浸かった。
「うっ……!?」
こ、これは、もしや体力の全回復なのか?
全身に沁みわたる力の増幅な感覚……単なる温泉じゃない。
ステータスアップの温泉みたいなものだろうか?
「ご主人様。お湯加減はいかがですか~? お背中お流ししますよ~」
「うん、悪くない」
「ではでは、参りますよ~」
「――んっ!? 背中……? わー待った待った!!」
自分だけ裸で無防備なのにルティに背中を流してもらうとか、何かとまずいのでは。宿の部屋の中で逃げ場もないし。
「あ、わたしは服を着てますから、ご安心を~!」
「……だ、だよな」
何か安心したような落胆したような。これが回復魔道士である彼女のやり方なのか。
そうだとしたら身を任せてみる――しかなさそう。