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第七章:「広島が失われた時のこと」
記憶が疼く。
私はまだ、見たこともないはずの“過去”に手を伸ばす。
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🌇Scene.1:幻影の中の少女
ヒカリは今、落ちながら見てる。
東京の崩壊じゃない。
それよりももっと深い、“日本の始まりの終わり”。
焦げた空。赤く染まった川。
焼け焦げたランドセルの横に、立っていたのは一人の少女。
鯉城ヒロ。広島の化身。
薄く透けるような存在なのに、彼女は確かにそこに立っていた。
まっすぐな瞳で、空を睨みつけるように。
「……あれが、私を消した火だよ」
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🔥Scene.2:1945年、8月6日
一瞬の閃光がすべてを変えた。
「みんな、助けてって叫んでた。でも、声が届く前に消えてった」
ヒロは静かに話す。
当時の広島には、街も、人も、未来もあった。
けど、それがたった一発の爆弾で焼かれたんだ。
ヒカリは聞く。
「苦しかった?」
ヒロはうなずく。
「うん、痛かった。でも一番痛かったのは、
“私がいたこと”が、誰にも覚えてもらえなかったこと」
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💣Scene.3:化身の死、それは“忘却”
ヒロは笑った。強がってるのがすぐわかる笑い方。
「私はあの瞬間、“鯉城ヒロ”じゃなくなった。
ただの“記録されなかった誰か”になったの」
ヒカリは泣いていた。
自分より前に、こんなに強く、こんなに悲しい“少女の光”が消えていたことを知らなかったから。
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🕊️Scene.4:伝えられなかった祈り
ヒロは言う。
「本当は、誰かに言いたかったんだ。
“怖かった”って、“さよなら”って、“ありがとう”って」
「でも、爆風がそれを許してくれなかった」
ヒカリはそっと手を伸ばす。
でも触れられない。
これは記憶の世界。もうヒロはいない。
それでも、彼女の言葉は確かにここに残った。
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🌅Scene.5:ヒカリの決意
ヒロは振り返らずに歩いていく。
燃える瓦礫の向こうへ、ゆっくり、ゆっくりと。
その背中に、ヒカリは叫んだ。
「ヒロ……私、忘れない!
あなたが広島だったこと、
あなたが笑って、そして泣いてたこと!」
ヒロの足が止まる。
そして、ほんの少しだけ――振り向いた。
「……ありがと。
それだけで、私は……まだ、ここにいたって思えるよ」
その言葉を最後に、ヒロの幻影は静かに、朝靄のように消えていった。
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💠Scene.6:現実へ
ヒカリは目を開ける。
まだ落下は終わってない。
でも、心の中には確かに、ヒロという光が灯っていた。
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“広島が消えたこと”は、
“鯉城ヒロがいたこと”と、もう、イコールなんだ。
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🔜次回予告・第八章「長崎が失われた時のこと」
もう一人、祈るように消えた少女がいた。
その名は、九凪ナキ。
教会の鐘が鳴るとき、彼女の記憶もまた開かれる。
コメント
2件
戦争って無惨だなぁ