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春の終わり、屋上はまだ少しだけ風が冷たい。
「またここ来てんの?」
振り返ると、フェンスにもたれかかりながら笑っているのは悠真だった。
「別に、静かだから」
そう答えると、悠真は「ふーん」と適当な返事をして、俺の隣に座る。
こいつは昔からそうだ。
距離が近いくせに、どこか踏み込ませない。
「てかさ」
悠真が空を見上げたまま言う。
「最近、涼と仲良くね?」
ドクッ、と心臓が跳ねた。
「……普通だろ」
ごまかすように言うと、悠真は横目でこっちを見る。
「普通、ね」
その言い方が妙に引っかかった。
涼は転校してきたばかりで、クラスでも少し浮いていた。
でも、気づいたら一緒にいることが増えていた。
「ここ、よく来るの?」
昼休み、屋上で出会ったのが最初だった。
「まあ」
短く答えると、涼は少しだけ笑った。
「じゃあ、また来てもいい?」
その言い方がやけに自然で、断る理由なんてなかった。
それから、三人で過ごす時間が増えた。
悠真と、涼と、俺。
バランスは、ちょうどいいはずだった。
「ねえ」
ある日、帰り道で涼がぽつりと言った。
「悠真ってさ、昔からあんな感じ?」
「まあな」
「そっか」
それだけ言って、涼は少しだけ黙る。
「……どうかした?」
聞くと、少し迷ったあと、彼は小さく笑った。
「いや、なんでもない」
でも、その「なんでもない」が嘘だってことくらい、分かってしまう。
変化は、少しずつだった。
三人でいるのに、
ふとした瞬間に、二人だけの空気になる。
悠真が俺にだけ見せる顔。
涼が俺にだけ向ける視線。
そのどちらにも気づいてしまって、
でも気づかないふりをするしかなかった。
「お前さ」
放課後、珍しく悠真が真面目な声を出した。
「どっちなんだよ」
「……何が」
分かってるのに、聞き返してしまう。
悠真は少しイラついたみたいに髪をかきあげた。
「俺といるときと、涼といるとき」
「全然違う顔してる」
言葉に詰まる。
「別に、そんなつもりじゃ——」
「あるだろ」
遮るように言われて、何も言えなくなる。
しばらくの沈黙のあと、悠真は小さく息を吐いた。
「……俺はさ」
その続きは、聞かなくても分かりそうで、怖かった。
次の日。
屋上に行くと、先にいたのは涼だった。
「珍しいね、悠真いないの」
そう言うと、涼は少しだけ困ったように笑った。
「今日は来ないって」
「そっか」
風が強く吹いて、フェンスがカタカタ鳴る。
沈黙が続く中、涼がぽつりと言った。
「ねえ」
「俺、ちゃんと聞きたい」
心臓が、嫌な音を立てる。
「君は、どっちを見てるの」
逃げ場は、もうなかった。
悠真のまっすぐさも、
涼の優しさも、
どっちも知ってるからこそ、選べない。
でも、選ばないままじゃ、きっと壊れる。
風の中で、ゆっくり息を吸う。
「俺は——」
言いかけた言葉の先で、
ドアが開く音がした。
振り向くと、そこに立っていたのは——
悠真だった。
三人の視線が、交差する。
何も言っていないのに、
全部伝わってしまうような空気。
このままじゃいられないってことも、
もう、分かってる。
どうするかは、自分で決めなきゃいけない。
誰かを選ぶってことは、
誰かを選ばないってことだから。