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ドアの前に立つ悠真は、いつもの余裕のある顔じゃなかった。
少しだけ息が乱れていて、たぶん急いで来たんだと思う。
「……話、してんの?」
低い声でそう言う。
その視線は俺じゃなくて、涼に向いていた。
「うん」
涼も逃げない。
静かに、でもはっきり答える。
「ちょうど、聞こうとしてたところ」
その言葉で、空気が一気に張りつめた。
逃げ道は、もう完全になくなった。
「じゃあ、ちょうどいい」
悠真が一歩、こっちに近づく。
「俺も聞く」
その目は、まっすぐ俺を見ていた。
いつもみたいに軽く笑ったりしない。
ごまかしも、冗談もない。
ただ、答えを待ってる目。
「……ずるいよな」
気づいたら、そんな言葉が出ていた。
二人が少しだけ驚いた顔をする。
「どっちも、ちゃんと大事で」
「どっちといても楽しくて」
言葉にするほど、自分が中途半端なのが分かる。
「でもそれじゃダメってのも、分かってる」
風が吹いて、制服の裾が揺れる。
誰も何も言わない。
だから、続けるしかなかった。
「悠真はさ」
名前を呼ぶと、少しだけ肩が動いた。
「昔から一緒で、気づいたら隣にいて」
「たぶん、一番自然で」
言いながら、胸が少し苦しくなる。
「でも、そのままでいいって思ってた」
変わらなくていい関係だって。
そう思ってた。
「涼は」
今度はそっちを見る。
涼は、静かにこっちを見返していた。
「後から来たのに」
「なんか、どんどん近くなって」
「気づいたら、意識してて」
その言葉に、涼の目が少し揺れる。
「……俺」
深く息を吸う。
ここで止まったら、たぶん全部壊れる。
だから、ちゃんと言う。
「ちゃんと、向き合いたいのは——」
少しだけ間が空く。
その一瞬が、やけに長く感じた。
「悠真」
名前を呼んだ瞬間、
空気がはっきり変わった。
悠真の目が、わずかに見開かれる。
「ずっと一緒にいたの、当たり前すぎて」
「ちゃんと考えたことなかったけど」
「離れるの想像したら、無理だった」
言いながら、自分でもはっきり分かる。
ああ、これが答えだったんだって。
しばらく、誰も動かなかった。
風の音だけが響く。
「……そっか」
最初に声を出したのは、涼だった。
驚くくらい、落ち着いた声だった。
でも、その奥が少しだけ震えてるのが分かる。
「ちゃんと、答えてくれてありがと」
そう言って、少しだけ笑う。
無理してる笑い方だって、分かるのに。
「ごめん」
思わず言うと、涼は首を振った。
「謝らなくていいよ」
「聞いたの、俺だし」
その言葉は優しいのに、少しだけ痛かった。
「……行くね」
そう言って、涼はドアの方へ歩き出す。
すれ違うとき、一瞬だけ足を止めた。
「二人とも、ちゃんとしなよ」
軽くそう言って、屋上を出ていった。
ドアが閉まる音が、やけに大きく響いた。
残されたのは、俺と悠真。
しばらく、どっちも何も言わなかった。
「……マジで?」
ぽつりと、悠真が言う。
「うん」
「俺でいいの」
いつもの軽さが、少しだけ戻ってる。
でも、その裏に不安があるのが分かる。
「いいじゃなくて」
一歩近づく。
「お前がいい」
そう言うと、悠真は一瞬だけ黙って——
「……反則だろ、それ」
って、小さく笑った。
その笑い方が、なんかすごく安心して。
やっと、ちゃんと選べた気がした。
でもきっと、これで終わりじゃない。
涼のことも、ちゃんと向き合わなきゃいけないし、
三人の関係はもう前とは違う。
それでも。
「なあ」
悠真が呼ぶ。
「ん?」
「とりあえずさ」
少し照れたみたいに目を逸らして、
「これから、よろしく」
なんて言うから。
思わず笑ってしまった。
「こっちこそ」
春の風が、少しだけやわらかくなっていた。
#愛され