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第87話話 「それぞれの未来」
2023年8月。
甲子園優勝から数日後。
柳城高校。
優勝旗が学校へ戻ってきた。
校門には多くの生徒たち。
保護者。
卒業生。
地域の人たち。
大きな拍手が響く。
全国制覇。
柳城高校野球部創部以来の快挙だった。
体育館では優勝報告会が開かれる。
壇上には選手たち。
そして優勝旗。
立花理事長が誇らしそうに語る。
「柳城高校の歴史に新たな1ページが刻まれました」
大きな拍手。
続いて福間監督。
マイクの前に立つ。
会場が静まり返る。
「選手たちが頑張った結果です」
それだけだった。
だが。
会場中から笑いと拍手が起こった。
いかにも福間監督らしかった。
報告会終了後。
夕方のグラウンド。
誰もいない。
塁と史陽だけが残っていた。
風が吹く。
優勝旗が静かに揺れる。
史陽が呟く。
「終わったな」
塁も頷く。
「ああ」
三年間。
本当に終わった。
一年生の春。
啓介たちを見送った日。
初めての公式戦。
宮城育英との敗戦。
センバツでの再敗戦。
そして。
甲子園優勝。
すべてが昨日のことのようだった。
そこへ。
舞がやって来た。
大学の夏休みで帰省していた。
「お疲れさま」
二人が振り返る。
舞は笑っていた。
「優勝おめでとう」
史陽が照れくさそうに笑う。
塁も頭をかく。
「ありがとう」
三人でしばらくグラウンドを見つめる。
ここにはたくさんの思い出があった。
舞がマネージャーとして走った日々。
啓介たちの代。
双子たちの三年間。
その全てが詰まっていた。
夜。
塁のスマートフォンが鳴る。
啓介だった。
「優勝おめでとう」
久しぶりの電話だった。
「ありがとう」
塁が答える。
電話の向こうで啓介が笑う。
「宮城育英に勝ったらしいな」
「なんとか」
「なんとかじゃないやろ」
珍しく啓介が笑った。
史陽も電話に加わる。
「兄ちゃん、見たか?」
「ちゃんと見た」
短い言葉だった。
だが。
兄としての誇らしさが伝わってきた。
しばらく話した後。
啓介が言う。
「俺も頑張らんとな」
大学3年生。
秋のリーグ戦が待っている。
まだ大学野球は終わっていない。
塁が笑う。
「兄ちゃんも全国一になれよ」
啓介は少し黙った。
そして。
「簡単に言うな」
四人とも笑った。
電話が終わる。
窓の外には夏の夜空。
甲子園優勝。
それはゴールでもあり。
新しいスタートでもあった。
塁と史陽は次の進路へ。
舞は教師を目指して学び続ける。
そして啓介は。
大学3年生として。
まだ自分の夢を追い続けていた。
柳城高校の夏は終わった。
だが。
物語はまだ終わらない。
それぞれの未来へ向かって。
新しい季節が始まろうとしていた。
第88話 終
天海カオル
2,018
コメント
1件
ああ、素敵な幕切れでしたね……。 優勝報告会で福間監督が「選手たちが頑張った結果です」とだけ言ったシーン、あの短い言葉にすべてが詰まっていてグッときました。そして誰もいない夕方のグラウンドで塁と史陽がただ「終わったな」「ああ」と言う――競技の熱狂が去った後に残る、静かな充足感と少しの寂しさ、あの空気感が本当に丁寧に描かれていました。 舞さんが「お疲れさま」と三人でグラウンドを見つめる場面も、長い日々を共にした者にしか出せない空気で……。 最後の啓介との電話、「簡単に言うな」のやり取りに兄としての誇りと悔しさが滲んで、胸が熱くなりました。 終わったのに終わらない、ひとつの季節の区切りに立ち会えた気がします。お疲れさまでした、天海さん🌷