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#前世
shima7a
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第89話 「最後のグランド」2024年3月。
春。
柳城高校の桜はまだ蕾だった。
甲子園優勝から半年以上が過ぎていた。
明日は卒業式。
塁たち三年生が柳城高校を去る日だった。
放課後。
野球部のグラウンド。
三年生全員が集まっていた。
最後の練習。
最後のユニフォーム姿。
最後のノック。
福間監督がノックバットを握る。
選手たちは守備位置につく。
塁はマウンドではなく投手前。
史陽はいつものショート。
「行きます」
福間監督が打つ。
カキン。
鋭い打球。
史陽が飛びつく。
捕球。
一塁送球。
アウト。
仲間たちから拍手が起こる。
また一本。
また一本。
福間監督は打ち続けた。
いつもより長く。
いつもより厳しく。
そして。
いつもより優しかった。
夕日がグラウンドを染め始める。
最後の一球。
最後のノック。
打球は高く上がった。
塁が捕る。
グラブの中にボールが収まる。
それで終わりだった。
静寂。
福間監督が選手たちの前に立つ。
三年間。
いや。
人によってはもっと長い時間を共に過ごした。
誰も言葉を発しない。
福間監督が口を開く。
「皆さん」
選手たちが顔を上げる。
「お疲れさまでした」
静かな声だった。
「甲子園優勝は立派でした」
「ですが」
福間監督らしく続ける。
「私が一番嬉しかったのは」
少し間が空く。
「皆さんが最後まで野球を好きでいてくれたことです」
塁の胸が熱くなる。
宮城育英に敗れ。
野球を楽しめなくなった日々。
それを思い出していた。
「勝つことも大切です」
「しかし」
「野球を好きでいることはもっと大切です」
福間監督は一人一人を見る。
「これから先」
「野球を続けても」
「続けなくても」
「柳城高校で学んだことを忘れないでください」
そして最後に。
「皆さんは私の自慢の教え子です」
福間監督が深く頭を下げた。
選手たちの目に涙が浮かぶ。
塁も。
史陽も。
誰も声を出せなかった。
翌日。
卒業式。
柳城高校体育館。
卒業証書授与。
校歌斉唱。
別れの言葉。
三年間が終わった。
体育館を出る。
仲間たちと写真を撮る。
笑顔。
涙。
たくさんの思い出。
夕方。
塁と史陽はグラウンドへ向かった。
誰もいない。
静かなグラウンド。
風が吹く。
ネットが揺れる。
マウンド。
ホームベース。
ショートの守備位置。
全てが懐かしかった。
二人はグラウンドの入口に立つ。
そして。
ゆっくりと帽子を取った。
深く一礼する。
三年間の感謝を込めて。
史陽が小さく言う。
「ありがとう」
塁も続く。
「ありがとう」
柳城高校。
仲間たち。
舞。
啓介。
福間監督。
すべてに感謝しながら。
二人は歩き出す。
もう振り返らなかった。
夕日に照らされたグラウンドだけが静かに残る。
こうして。
甲子園優勝を成し遂げた双子世代の物語は幕を閉じた。
そして。
柳城高校野球部の歴史は。
次の世代へ受け継がれていく。
第89話 完 ― 双子世代編 終幕 ―
コメント
1件
読んだ……読んじゃったよ……😭💦✨ 最後のノック、福間監督の「野球を好きでいてくれたこと」——もうそこで腺崩壊した。勝ち负けじゃなくて「好き」を褒めてくれる大人って尊すぎるでしょ…!! 塁と史陽が誰もいないグラウンドに「ありがとう」って言って帽子取るシーン、ここがもうこの物語の全てだと思う。甲子園よりこっちの方がエモいってマジで思うんだが…!!? 双子世代編、完結おめでとうございます🌸 次の世代も楽しみにしてるよ⋆♡ 天海カオル先生、本当にお疲れ様でした!!