宮舘は早朝に目を覚ますと、渡辺を起こさないようにベッドから出た。
風呂に入ってから、朝食の支度を始める。
今日の日のために必要なものはあらかじめ冷蔵庫に準備してあった。
お気に入りのベーカリーで評判のクロワッサンも買ってある。
やがてキッチンに、良い匂いが漂い始めた。
以前、番組で披露したスクランブルエッグのキャビア載せも作った。
💙おはよう
❤️おはよう
ちょうど出来上がった頃、寝ぐせを付けたままの渡辺が起きてきた。
まだ眠いのか、ぼんやりしている。
❤️朝ごはん、もうすぐできるよ
💙悪い、朝食わないんだよ、俺
❤️え……でも前家に泊まった時は食べてたよね?
💙うーん、あれは涼太に合わせてたっていうか…。悪い、俺は水だけでいいや
渡辺は少し申し訳なさそうにするが、そのまま欠伸をしながらバスルームへと行ってしまった。
❤️………
宮舘は、食べる気にならず、せっかく用意した朝食をそのままにして、出かけることにした。
今日はお互いに個人仕事で、出て行く時間がバラバラだ。
バスルームにいる渡辺に向かって声を掛けた。
❤️先に行くね
その声は、シャワーの水音にかき消された。
同棲を始めてから、思い描いていた夢が次々に打ち砕かれていることを宮舘は寂しく思っていた。
渡辺がかなりのリアリストであることを、一番近くにいる宮舘が気づいていないわけではない。
苦楽をともにしてきた時間はほぼ彼らの一生と重なっている。
奇縁だし、そのこと自体をずっと宮舘は嬉しく思っていた。
自分たちの間に入り込める者は誰一人としていないだろう。
ことあるごとに幼稚園時代の「ゆり組」 と揶揄されて、何かとこじつけられることも宮舘には悪い気はしなかった。
宮舘から想いを伝えて、渡辺が時間をかけた末に受け入れてくれた時には、大袈裟でなくこんなに幸せなことがあっていいのかと思った。
メンバーやスタッフには秘密だという窮屈な制約はあったものの、幼なじみからここまで、比較的順調に距離を縮めて来れたと思っている。
それゆえに、宮舘にとって渡辺からの同棲の提案は、本当に嬉しかった。
宮舘が将来思い描いた生活の大切な始まりだったからだ。
宮舘はゆくゆくは結婚も考えているのだから。
しかし。
昨日から、なんとなくうまくいかないという想いが宮舘の胸を支配していた。
別々に暮らしていた時より、寂しい。
こんなはずじゃなかったのに…。
シャワーを終えると、宮舘の姿がないことに渡辺は気づいた。
💙出掛ける前に声くらい掛けて行けよな…
化粧水をつけながら、渡辺は一人不貞腐れる。
そして、さきほどのやり取りを思い出す。
渡辺からすれば朝はそんなに強くないから、朝食より寝ていたい気持ちが強い。
一緒に住む、ということはお互いの生活リズムに慣れるということだ。
今までは「お泊まり」をしていたので、頑張って相手に合わせることもできたが、ずっと一緒にいるなら無理をしても仕方ないと考えていた。
スキンケアを終えて、キッチン横を通りすぎた時、渡辺は、用意されたまま出されることのなかった特製の朝食を見つけた。
❤️ただいま…
その日は入れ違いで宮舘が帰宅した時にはまだ家の中は真っ暗だった。
電気を点ける。
なんだか一人で住んでいた時より家の中が寒々しく感じる。
夕食はいらないと渡辺から連絡があったので、一人分だけの準備におっくうながら取り掛かる。
❤️あれ?
朝作っておいた朝食の皿がなくなっていて、洗われて綺麗に片付けられていた。
宮舘はおそるおそるゴミ箱を覗くが、どこにもない。冷蔵庫にもない。
❤️食べてくれたんだ…二人分も
宮舘は、心がじんわり温まるのを感じた。
これから一緒にいるのだから、今後、健康には気をつけてほしい。
重たいものじゃなく食べやすいものを少しだけでも食べてもらおう。
あれこれと思いを巡らせるうちに、宮舘の胸に巣食っていた虚しさはいつの間にかなくなっていた。
コメント
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すれ違いがありながらもお互いのことをしっかり想っている2人がとてつもなく尊いです…
今日はこの作品はここまで! 読んでくださった方、ありがとうございます😊 明日また続き書きまーす!😃